ささやかな違和感
その日は、義父の還暦を祝うために家族で義実家に集まっていました。玄関を開けると、お肉を焼く香ばしい匂いが漂ってきます。リビングのテーブルには、一人分ずつ盛り付けられたステーキが並んでいました。
「さあ、座って。今日はお祝いだから、高級な国産和牛にしたのよ」キッチンから顔を出した義母は、満面の笑みで私たちに席を勧めます。いつものようなチクリとした嫌味もなく、いつになく機嫌が良さそうです。和やかな雰囲気の中で食事が始まり、義父も夫も、柔らかくておいしいと喜びながら食べ進めていました。
私も自分のお肉にナイフを入れます。しかし、スッと刃が入る夫のお肉とは違い、私のお肉は少し薄く、弾力も強め。ギコギコと力を入れないとうまく切れません。口に運んでみると、おいしいものの、少し筋が多くて噛み切りにくい気がします。
たまたま私の分が固い部位だったのかな……。少し違和感を覚えましたが、お祝いの雰囲気を壊したくなくて、何も言わずに食べ進めました。
ママのお肉、なんか違う!
食事が進む中、隣に座っていた娘が、ふと私のお皿を覗き込みました。「ママのお肉、パパのとなんか違うね。ママのほうが薄いよ」娘の無邪気な声がリビングに響きます。
見比べてみると、娘のお肉も夫のものと同じくらい厚みがあり、私の分だけ薄く見えました。私は少しドキッとしましたが、「そうかな? たまたまじゃない?」と笑って返しました。
私がその場を丸く収めようとすると、義母もキッチンからお茶を運びながら、涼しい顔で相槌を打ちました。「そうよ、同じお肉よ。切り分けるときに形が違っちゃっただけだから。気にしないで食べなさい」私もそれ以上は気にせず、食事を続けようとしました。
夫の提案
しかし、娘の言葉を聞いて私のお皿を見た夫が、不思議そうな顔で首を傾げました。「確かに、パパのとはちょっと違って見えるな。お前のほう、ずいぶん薄くないか?」そう言った夫は、「だったら、俺のと交換しようか。こっちのほうが柔らかそうだし」と、自分のステーキ皿に手をかけました。
私が「え、申し訳ないよ」と遠慮しようとした、そのときでした。「ちょっと待って! 交換しなくていいの!」それまで穏やかだった義母が、突然強い声を張り上げました。夫は驚いたように手を止めます。
「あなたは自分のお肉を食べればいいのよ」交換しようとした途端に態度を変えた義母を、夫は不思議そうに見つめました。
「……なんで?」夫の声は低く、静かでした。「さっき『同じ肉だ』って言ったよね。それなら、俺が交換して食べたって何も問題ないはずだろ?」義母は言葉に詰まり、「いや、その……」と口ごもりました。すると夫は、「もしかして、俺たちの肉とは別の肉なんじゃないのか?」と尋ねました。義父も「どういうことか説明しなさい」と問い詰めます。
義母の自爆!
義母は、ついに観念したようにポツリと本音をこぼしました。「……あなたたちには、今日のために買った和牛を出したのよ。でも、お嫁さんまで同じものにしなくてもいいでしょう? 普段のお肉だって十分食べられるんだから」
「ふざけるなよ」夫は怒りをあらわにしました。「なんで妻にだけ違うものを出して、扱いに差をつけるんだよ。今までも妻にだけ嫌味を言うのは気になってた。でも、ここまで露骨に差をつけるなら、黙っていられない。今日は帰る」
義父も「家族のお祝いで、みっともない真似をするな」と義母を叱り、私たちに頭を下げてくれました。私たちはそのまま帰り支度をして、義実家を後にしました。
それから数日後、義母から電話がありました。「あのときは悪かったわ。あなたにだけ違うものを出して、扱いに差をつけたことは本当に申し訳なかったと思ってる」義母からそう謝罪を受け、少しだけ胸のつかえが取れました。それからは、以前ほど頻繁に義実家へ行くことはなくなりました。適度に距離を取りながら付き合っていますが、あれ以来、義母から嫌味を言われることもなくなりました。
あの日の帰り道、夫は「これからは、何かあったらすぐに俺に言ってね」と声をかけてくれました。これまで義母に嫌味を言われても、波風を立てたくなくて、私が我慢すればいいと思っていました。でも、これからは一人で抱え込まず、夫に話そうと思いました。
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特定の人だけを狙って嫌な思いをさせたり、不公平な扱いをしたりすることは、相手との関係を大きく損なう行為です。さらに、そのことをごまかそうとすれば、信頼まで失いかねません。家族や親族など身近な間柄であっても、相手を意図的に傷つけるような言動はしないよう心がけたいですね。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。