大量の仕事を抱えていた同僚
A子さんは、おとなしく控えめなタイプの女性です。誰かに仕事を頼まれると嫌な顔ひとつせず引き受けるため、次第にそれを当たり前のように考える人が増えていきました。
特にひどかったのが、僕たちの上司であるB山課長です。自分で対応すべき資料作成までA子さんに任せ、「これくらいすぐできるだろ」「若いうちは仕事したほうが勉強になる」などと言っていました。
ある日、仕事を終えて帰ろうとすると、A子さんの机には大量の書類が残っていました。聞けば、その日のうちに仕上げるよう頼まれた仕事がいくつもあり、中にはA子さんの担当ではないものもあるとのこと。
さすがに放っておけず、僕が「手伝うよ」と声をかけると、A子さんは少し驚いたあと、「ありがとうございます……」と頭を下げました。
2人で作業を進め、なんとかその日のうちに終了。帰り際、A子さんはもう一度「本当にありがとうございました」と、いつもより深く頭を下げたのです。
上司「お前のせいで辞めたんだぞ!」
翌朝、出社するとA子さんの姿がありません。するとB山課長から突然、「ちょっと来い」と会議室へ呼び出されました。
B山課長によると、前日の夜、A子さんから「会社を辞めます」と突然連絡があったそうです。そして、僕がA子さんと2人で残業していたことについて聞いてきました。
僕は、仕事を押し付けられて困っていたA子さんを手伝っただけだと説明しました。しかしB山課長は、「本当にそれだけか? お前と残業した直後に辞めるなんておかしいだろ」と、最初から僕を疑っている様子で……。
最後には、「お前のせいで辞めたんじゃないのか? 迷惑かけやがって」とまで言われました。
しかも、その日のうちに職場では妙な噂が広がり始めました。
「A子さんが辞めたの、残業中に何かあったらしいよ」
「変なことされたんじゃない?」
「セクハラみたいなことがあったって聞いたけど……」
どれもまったく身に覚えのない話です。僕が否定しても噂は消えず、周囲から疑うような目を向けられるようになりました。
本当の退職理由は…
それから数日後、今度は人事部から呼び出されました。また僕が疑われるのかと思いましたが、そこで明かされたのはまったく逆の事実でした。
退職後、A子さんから人事部へ連絡があり、本当の退職理由について説明があったそうです。
A子さんは以前から、B山課長に大量の仕事を押し付けられていました。自分の担当ではない仕事まで任され、断ろうとすると「協調性がない」「評価に響くぞ」などと言われていたとのこと。
さらに、一部の社員もそれに便乗して仕事を押し付けるようになり、A子さんは限界を迎えたそうです。そして僕については、「最後の日、唯一仕事を手伝ってくれた。とても感謝している」と話していたと聞きました。
人事部がメールや業務記録を確認すると、A子さんの訴えを裏付ける内容も次々と見つかったそうです。B山課長は厳しく事情を聞かれ、さらに僕を根拠もなく退職の原因扱いしたことも問題視されました。
その後、B山課長は管理職を外され、別の部署へ異動することになりました。
しばらくして、A子さん本人から僕に連絡がありました。突然辞めたことで僕まで疑われてしまったと知り、謝りたかったそうです。僕はA子さんを責める気にはなれませんでした。
その後、A子さんは新しい職場で働き始めたとのこと。今度は無理なく働けていると聞き、ほっとしています。
誰かの断れない性格につけ込んで仕事を押し付けることも、事実を確認せず人を悪者にすることもあってはならない。そう強く感じた出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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