認知症の種類と、「年相応の物忘れ」との違い

まず初めに押さえておきたいポイントは、「認知症」はひとつの病気の名前ではなく、いくつかの病気によって起こる状態の総称だという点です。代表的なものに、脳内にアミロイドβやタウというたんぱく質が異常に蓄積して神経細胞を傷つける「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血によって血流が滞った部分の脳機能が失われる「血管性認知症」、視覚的な幻覚や手足のこわばりを伴いやすい「レビー小体型認知症」、そして人格や社会的な振る舞いの変化が目立つ「前頭側頭型認知症」などがあります。原因となる病気によって初期症状の出方や進行の速さが異なるため、同じ「物忘れ」でも中身はかなり違うのです。
では、加齢による自然な物忘れと、病気としての認知症はどう見分ければよいのでしょうか。ここで一般にあまり知られていないポイントとして、「体験の一部を忘れる」のか「体験そのものが記憶から抜け落ちる」のか、という違いが挙げられます。例えば、昨日の夕食のメニューを思い出せないのは加齢による物忘れの範囲内ですが、夕食を食べたこと自体を覚えていない場合は、脳の記憶を司る「海馬」という部位の機能低下が疑われます。また、加齢による物忘れはヒントを与えられれば「ああ、そうだった」と思い出せることが多いのに対し、病的な物忘れではヒントを与えても思い出せない、あるいは新しい情報を覚えること自体が難しくなるという特徴があります。この違いを自分で判断するのは難しいため、気になる症状がある場合は専門機関での検査をおすすめします。
認知症リスクを下げるための生活習慣とは

先ほど専門機関での検査をおすすめしましたが、受診とあわせて重要になるのが日ごろの生活習慣を見直すことです。まずは、具体的にどのような習慣がリスク軽減につながるのかを見ていきましょう!
1、生活習慣での予防
生活習慣による予防というと、「頭を使うパズルをする」「運動する」といった漠然としたイメージを持たれがちですが、近年の医学研究ではもう一歩踏み込んだ知見が蓄積されています。国際的な医学誌に発表されたある大規模研究では、認知症の発症に関わる要因のうち、実に約4割は対策可能な生活習慣や環境要因が占めるとされ、その中には難聴の放置、社会的孤立、大気汚染、頭部外傷なども含まれています。つまり、「脳トレ」だけでなく、聴力の低下を補聴器で補ったり、人と会話する機会を意識的に増やしたりすることも、立派な認知症予防策なのです。
2、運動での予防
運動については、単に身体を動かすだけでなく、心拍数が上がる有酸素運動を週に150分程度おこなうことで、脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれる、神経細胞の成長や維持を助けるたんぱく質の分泌が促されることがわかっています。これは「筋肉を鍛える」というより「脳を育てる」運動と捉えると理解しやすいでしょう!
3、食事での予防
食事面では、野菜・魚・オリーブオイルを中心とした地中海式の食事パターンや、それに緑黄色野菜とベリー類を組み合わせた「MIND食」と呼ばれる食事法が、認知機能の維持に関連するという報告が増えています。加えて、中高年期からの高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理も見逃せません。これらは血管性認知症のリスクを直接高めるだけでなく、脳血流を悪化させることでアルツハイマー型認知症の進行にも影響を与えると考えられています。
4、睡眠での予防
睡眠についても、単に時間を確保するだけでは不十分です。私たちが深く眠っている間、脳の中ではアミロイドβをはじめとする老廃物を洗い流す作業が進んでいると考えられており、浅い眠りが続いたり睡眠時間が慢性的に不足したりすると、この老廃物の除去がうまく進まず、脳内に蓄積しやすくなってしまいます。つまり、「何時間眠ったか」だけでなく「ぐっすり眠れているか」という睡眠の質そのものが、認知症予防において重要な意味を持ちます。
家族が気付きやすい初期サインと、受診のタイミング

認知症は本人よりも、日常的に接している家族の方が変化に気付きやすい病気です。よく知られている「同じ話を何度もする」「物をどこに置いたか忘れる」といったサインのほかに、医師の立場から特に注目してほしいのが、性格や興味の変化です。これまで几帳面だった人が急にだらしなくなった、趣味に対する意欲が急速に失われた、あるいは以前は温和だった人がささいなことで怒りっぽくなったといった変化は、前頭側頭型認知症の初期症状として現れることがあり、単に「性格が丸くなった」「年のせいでやる気がなくなった」と誤解されやすい点に注意が必要です。
また、実際には盗まれていないのに「財布を盗まれた」「誰かが物を隠した」と訴える症状が見られることがあります。これは、自分で置き忘れたという記憶自体がすっぽり抜け落ちてしまうために、「なくなったのは誰かのせいに違いない」と本人なりに理由付けをしようとして起こると考えられています。決してウソをついているわけでも、性格が悪くなったわけでもなく、記憶の障害からくる症状のひとつです。また、レビー小体型認知症の場合は、実際にはいない人や動物が見えるといった、はっきりとした幻覚を伴うこともあります。
こうした変化に気付いた際、多くの方が「まだ様子を見よう」と受診を先延ばしにしがちですが、認知症の診断・治療においては早期の対応が特に重要です。というのも、正常な状態と認知症の中間にあたる「軽度認知障害(MCI)」という段階では、適切な介入によって正常な認知機能に回復する可能性が一定程度あることがわかっているためです。受診先としては、「物忘れ外来」を掲げる医療機関のほか、都道府県や政令指定都市が指定する「認知症疾患医療センター」が、診断から生活支援の相談まで一貫して対応してくれる窓口として利用できます。
まとめ
認知症は決して特別な人だけがなる病気ではなく、誰にとっても起こり得るものですが、原因となる病気によって症状の現れ方や進行のスピードはさまざまです。そのため、「認知症かもしれない」とひとくくりに捉えるのではなく、どのようなタイプの変化が起きているのかを丁寧に見極めていくことが、適切な対応への第一歩になります。
また、運動・食事・睡眠・社会とのつながりといった生活習慣の積み重ねは、一朝一夕に効果が表れるものではありませんが、中高年期のうちから少しずつ取り組むことで、将来の脳の健康に良い影響を与えると考えられています。特別なことを一気に始める必要はなく、いつもの散歩を少し早足にする、家族や友人と話す機会を意識的に増やすといった小さな工夫の積み重ねが、長い目で見たときに大きな差につながっていくはずです。
認知症は、「早く気付き、早く備える」ことで、その人らしい暮らしを長く続けられる可能性が高まります。もし気になる症状がご自身やご家族に見られた場合は、一人で抱え込んだり先延ばしにしたりせず、早めに専門機関へ相談することをおすすめします。自分と家族のために、できることから少しずつ始めていきましょう。
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※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
監修:内科医 橋本将吉 先生(西新宿セルフライフ内科クリニック院長)
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