突然の休園連絡に途方に暮れた私
電話の内容は、園の設備トラブルによって急きょ休園することになったというもの。あまりに突然のことで、一瞬頭が真っ白になりました。
近くに頼れる親戚はおらず、その日の朝になってから娘を預かってもらえる人を探すのも難しい状況でした。
幸い、勤めていた会社は子育てに理解があり、やむを得ない事情がある場合には、上司の許可を得たうえで子どもを連れて出勤することも認められていました。部長に事情を説明すると、娘を連れて出勤しても構わないと言ってもらえました。
会社の制度として認められているとはいえ、実際に娘を職場へ連れていくのは初めて。特に気がかりだったのが、仕事に厳しい課長の存在でした。朝の慌ただしさもあって、課長には事前に直接報告できていなかったのです。
私は「会社ではみんながお仕事をしているから、できるだけ静かにしていようね」と何度も言い聞かせ、娘を連れて会社へ向かいました。
執務室に入ると、事情を知っていた同僚たちは娘をやさしく迎えてくれました。
「大変だったね」
「今日は一緒に頑張ろうね」
そんな声をかけてもらい、張り詰めていた気持ちが少しだけ和らぎました。
ところが、その直後――例の厳しい課長が出勤してきたのです。
「なぜ子どもが?」課長の一言に緊張
私のそばにいた娘を見つけ、驚いた様子で足を止めた課長。
「なんで子どもを連れてきてるんだ……?」
私は慌てて立ち上がり、保育園が急きょ休園になったことや、預け先を確保できなかったことを説明。さらに、部長には事情を説明し、娘を連れて出勤する許可を得ている旨も伝えました。
すると「そうか、わかった」とだけ答え、そのまま普段通り仕事を始めた課長。怒られたわけではありませんでしたが、私は娘が仕事の邪魔をしてしまわないかと気が気ではありませんでした。
娘には絵本を読んだり、お絵描きをしてもらったりしながら、なんとか仕事を進めました。
午前中は比較的おとなしく過ごしてくれた娘でしたが、夕方が近づくにつれて、さすがに退屈してきた様子。長時間慣れない場所で過ごした疲れもあったのか、次第にぐずり始めてしまったのです。
「もう少しだからね」
そう言い聞かせながら仕事を続けていると、娘の様子をじっと見ていた課長が席を立ちました。
厳しい課長が娘に差し出したもの
そして、しばらくして戻ってきた課長は、娘に近づいてきたのです。強面の課長に、固まる私と娘。
しかし、その課長の手にはプリンがありました。
課長はまず私に「娘さんにプリンをあげても大丈夫?」と確認。私が大丈夫だと答えると、課長は娘の前にしゃがみ、「プリン、食べるか?」とやさしく声をかけてくれたのです。
娘は目を輝かせながら、「食べる! ありがとう!」とうれしそうに答えました。
突然の出来事に、私は驚いてしまいました。仕事中はいつも厳しく、必要以上の雑談もしない課長だったため、そんなふうに娘を気遣ってくれるとは思っていなかったのです。
慌ててお礼を言った私に、少し照れくさそうにしながら「誰かが困っているときに支え合うのが、この会社のいいところだから」と言ってくれた課長。さらに話を聞くと、課長にも娘と同じくらいの年齢の子どもがいるとのこと。
「子育てだけでも大変なんだから、仕事までひとりで抱え込むなよ。こういうときはみんなで助け合えばいい」
その言葉を聞いた瞬間、朝からずっと張り詰めていた気持ちがほどけていきました。迷惑をかけてはいけない、仕事もしっかりやらなければいけないと必死になっていた私は、思わず涙が出そうになりました。
周囲のやさしさに支えられた1日
プリンを食べてすっかり機嫌を直し、その後も同僚たちに声をかけてもらいながら、終業時間まで落ち着いて過ごしてくれた娘。仕事が終わり、娘と手をつないで会社を出たとき、私はようやく肩の力が抜けたような気がしました。
保育園から突然休園の連絡を受けた朝は、「今日1日どうしよう」と不安でいっぱいでした。しかし、実際には部長をはじめ、同僚や課長にも助けてもらえました。
ひとりで娘を育てていると、どうしても「自分が頑張らなければ」と思ってしまうことがあります。しかし、この日の出来事を通して、困ったときには周囲を頼ってもいいのだと思えるようになりました。
娘と帰宅する道すがら、私はたくさんの人に支えてもらいながら働けていることを改めて実感しました。慌ただしく始まった1日でしたが、私にとっては職場の人たちの温かさを忘れられない1日になりました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。