なぜか用意されていなかった僕の席
結婚式の数カ月前、妹から日取りを聞かされ、「お兄ちゃんも来る?」と聞かれました。僕は「もちろん行くよ」と答えていました。
そして迎えた当日。会場で受付をしようとすると、なぜか出席者の名簿に僕の名前はありませんでした。受付の方も困った様子で、「少々お待ちください」と確認してくれることに。
しばらくして親族控室へ案内されると、そこには妹と両親がいました。そして、僕の姿を見た妹は、あきれたような顔でこう言ったのです。
「お兄ちゃん、何しに来たの?」
その反応に、僕のほうが驚きました。
「何しにって……妹の結婚式に来ないわけないだろ。それに、前にちゃんと行くって伝えたじゃないか」
すると妹は、悪びれるどころか僕を小ばかにするように笑いました。
「だって、お兄ちゃんって引きこもりのオタクじゃん。こういう場所には来ないと思ってた。だから席、用意してないんだけど」
僕は昔から人づきあいが得意ではなく、大勢で出かけるより、ひとりでパソコンに向かっているほうが好きなタイプでした。
そのため家族からは、「引きこもりのオタク」とからかわれていました。大人になってからも自宅でパソコンに向かって仕事をすることが多く、家族の中でそのイメージは変わらなかったようです。
だからといって、結婚式でまでそんな扱いをされるとは思っていませんでした。
「そういうことなら、僕は帰るよ」
そう言って部屋を出ようとした、そのときです。
新郎が僕を見て…
扉が開き、新郎が入ってきました。
顔を見た瞬間、僕も驚きました。新郎は、仕事で付き合いのあるAくんだったのです。Aくんも僕を見るなり、「えっ!?」と声を上げました。
そんな僕たちを見て、妹が戸惑ったように尋ねます。
「2人、知り合いなの?」
するとAくんは、「知り合いどころか、僕にとっては恩人みたいな人だよ」と言ったのです。
実は僕は、IT関係の会社を経営しています。大学時代、趣味で身につけた知識を生かして小さな仕事を始め、そのまま続けているうちに少しずつ依頼が増えていきました。
以前、Aくんの会社が大きな案件を抱えて人手不足になった際には、僕の会社でも仕事の一部を引き受けたことがあります。無事に予定どおり進められたことをきっかけに、その後も仕事上の付き合いが続いていました。
Aくんからその話を聞いた妹と両親は、先ほどまでとは打って変わって黙り込んでいました。しばらくして、ようやく妹が口を開きます。
「お兄ちゃんが社長なんて、聞いてない!」
家族は驚いた様子でしたが、僕は以前にも仕事の話をしたことがあります。ただ、まともに聞いてもらえなかっただけでした。
妹の態度に新郎は…
事情を知ったAくんは、妹に尋ねました。
「お兄さんは行くって言ったんだよね? どうして席を用意していないの?」
妹は一瞬黙りましたが、「だってお兄ちゃん、いつもパソコンばっかりだし……。本当に来るとは思わなかったから」と答えました。
その言葉を聞いたAくんの表情が変わりました。
「大事な家族をそんなふうに扱う人だとは思わなかったよ」
結婚式当日にこれ以上揉めるつもりはなかった僕は、その場で話を切り上げました。席については式場側が急きょ対応してくれたものの、正直、複雑な気持ちのまま式を見守ることになりました。
その後、妹とAくんは今回のことについて何度も話し合ったそうです。
Aくんは、僕の席を用意しなかったことだけでなく、妹が家族を勝手なイメージで決めつけ、見下すような態度を取っていたことにもショックを受けたのだとか。
話し合いを重ねたものの、家族や人との付き合い方に対する考え方の違いは埋まらず、最終的に2人は入籍を見送ったと聞きました。
僕もこの出来事をきっかけに、家族とは少し距離を置くことにしました。
家族だからといって、わかってもらおうと無理をする必要はないのかもしれません。今は、自分をきちんと見てくれる人との関係を大切にしたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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