清掃スタッフを見下す新卒社員
B子さんは、会社を立ち上げたころから長く清掃を担当してくれている年配の女性です。毎日気持ちよく働けるのも、B子さんが職場をきれいに整えてくれているおかげだと感じています。
そこへ、新卒社員のA山さんが通りかかりました。するとB子さんを見ながら、「清掃の仕事ってラクそうですよね。営業みたいに数字に追われるわけでもないし」と言ったのです。私は思わず足を止めました。
B子さんは困ったように笑いながら、「仕事は何でも、それぞれ大変なことがありますよ」と返しました。しかしA山さんは、「でも、会社にとって重要なのは利益を出せる人じゃないですか? 俺、有名大学を出てるし、仕事だってすぐ結果を出せると思いますよ」と続けます。
そこで私は、「仕事の種類で人の価値を決めて、見下すような言い方はよくないと思うよ」と声をかけました。A山さんは少し驚いた様子でしたが、「別に見下してるわけじゃないですよ。事実を言っただけです」と返しました。
私はそれ以上その場で言い争うことはせず、「そういう考え方が、相手にどう伝わるかは考えたほうがいいと思う」とだけ伝えました。
A山さんは納得していないようでしたが、そのまま仕事へ戻っていきました。
B子さんへの態度に我慢できず
それから数日後のことです。廊下を歩いていると、A山さんとB子さんが話しているところに出くわしました。
どうやら、清掃中のバケツが一時的に通路にはみ出してしまったようです。B子さんはすぐに謝り、移動させようとしていました。しかしA山さんは不機嫌そうな様子で、「邪魔なんですよ」と責めるように言いました。
B子さんが再度謝っても、A山さんは収まりません。
「こっちは仕事中なんです。こういうことで仕事を止められると困るんですよ」
その言葉を聞き、私は黙っていられませんでした。以前にも伝えたように、仕事内容を理由に相手を見下すような言い方はよくないのではないかと指摘しました。するとA山さんは、「でも、仕事には重要度の違いだってあるでしょう」と、納得していない様子です。
そこで私は、ある事実を伝えることにしました。
清掃スタッフの正体を知った新卒社員は
私はA山さんに、B子さんのほうを指し示しながら「ちなみに、この人は私の母です」と伝えました。
その瞬間、A山さんの表情が固まりました。
実はB子さんは私の母です。会社を立ち上げたころから、本人の希望で清掃を担当するパート社員として働いてくれていました。私は結婚後に姓が変わっており、母との関係を社内で特に周知していませんでした。以前からいる社員の中には親子だと知っている人もいましたが、入社したばかりのA山さんは知らなかったのです。
するとA山さんは、みるみる顔を青ざめさせ「すみません。社長のお母さまだとは知らなくて……」と頭を下げました。しかし、その言葉を聞いた私は、むしろそこに引っかかりました。
「私が気になったのは、社長の母に失礼な態度を取ったことじゃない。清掃の仕事をしている人を、自分より下であるかのように扱っていたことだよ」
母も、「社長の母だからって、特別扱いはいりませんよ」と静かに言いました。A山さんはしばらく何も言えず、うつむいていました。
その場だけで対応を決めることはせず、後日、人事部門も交えて、今回の件やそれまでに確認されていた発言について事実関係を確認しました。
A山さん自身も、清掃スタッフに対して配慮を欠いた発言をしていたことを認めたため、会社として改めて注意し、職場でのコミュニケーションやコンプライアンスについて研修を受けてもらうことになりました。研修では、営業や企画だけでなく、会社を支えるさまざまな仕事について知る機会も設けました。
当初は、自分の考えの何が問題だったのか十分に理解できていない様子もありました。しかし、仕事を続けながら多くの人と関わるうちに、少しずつA山さんの言動にも変化が見えるようになったのです。
周囲への接し方に見えた変化
その後、しばらくすると、A山さんから以前のように仕事内容を持ち出して人を評価するような発言は聞かなくなりました。母にも自然にあいさつをするようになり、周囲への接し方も少しずつ変わっていったように感じます。
今回の出来事を通して、会社は目立つ仕事をする人だけで成り立っているわけではないのだと、私自身も改めて感じました。仕事内容や役職は違っても、それぞれの役割が重なって、日々の仕事が成り立っているのだと思います。
また、人を育てる立場にいる私自身も、問題が起きたときにただ叱るだけではなく、本人が自分の言動を振り返る機会をつくることの大切さを考えさせられました。これからも、仕事内容や肩書きにかかわらず、お互いの役割を尊重できる職場にしていきたいと思っています。
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仕事内容が違えば、それぞれに求められる役割も異なります。目立つ仕事だけでなく、日々の職場を支える仕事があるからこそ、会社は成り立っているもの。相手の肩書きや仕事内容だけで判断せず、一人ひとりの役割に目を向けることの大切さを考えさせられる出来事です。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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