弟の結婚式に呼ばれない姉
弟から結婚の報告を受けたのは、春先のことでした。相手は同じ会社に勤める女性で、両家の顔合わせも済ませたと聞き、私は「おめでとう」と伝えました。
父が亡くなったころ、私はすでに社会人として働いていました。弟とは年が離れていたこともあり、きょうだいというより、少し親代わりのような気持ちで接してきました。高校、大学と進学するたびにお金のことで悩む母を見て、弟には私と同じような苦労をさせたくないと思い、金銭的な援助もしてきました。
ところが、結婚式の日取りが決まっても、私のもとに招待状は届きませんでした。不思議に思って母に相談すると、思いがけないことを告げられました。
「悪いけど、あなたは式に来ないでくれる?」
「弟本人が、あなたには来てほしくないって言っているのよ」
突然の言葉に、私は耳を疑いました。理由を聞いても、母は「弟からそう頼まれただけで、詳しいことは私にもわからない」と口を濁すばかりでした。
私が弟に使った時間やお金は、感謝されるためのものではありません。それでも、なぜ自分だけ結婚式への出席を拒まれるのか、どうしても納得できませんでした。
数日後、弟から連絡がありました。弟は改めて、私に結婚式への出席は遠慮してほしいと言いました。
「どうして私が行ったら困るの?」と尋ねると、弟はしばらく黙った後、理由を打ち明けました。婚約者やその家族には、実家は経済的に困っていなかったように話しており、私とは昔から疎遠だと話しているというのです。
私が家計を支え、弟の進学費用まで助けていたことを知られれば、これまで話してきたこととつじつまが合わなくなる。何より、自分の実家が経済的に苦しかったと思われたくない――弟はそう話しました。その言葉で、弟が私を式から外そうとしている理由がようやくわかりました。
弟が婚約者やその家族にどう見られたいのか、その気持ち自体は理解できなくもありませんでした。ただ、そのために私がこれまでしてきたことまでなかったことのように扱われ、まるで自分が隠しておきたい存在のようにされていることには、どうしても引っかかるものがありました。
私は「わかった。行かないよ」とだけ伝えて電話を切りました。怒りよりも、疲れのほうが大きかったのを覚えています。
婚約者から届いた連絡
それからしばらくして、私のSNSに見知らぬ女性からメッセージが届きました。送り主は、弟の婚約者・A子さんでした。
「突然すみません。あなたの弟さんの婚約者のA子です。結婚式のプロフィールムービー用に、お母さまから借りたアルバムの写真を整理していたら、気になる写真があってご連絡しました」
話を聞くと、弟から聞いていた私の名前とアルバムの写真を手がかりにSNSで探し、プロフィール写真から私だと気付いたそうです。
メッセージには、弟の大学入学式の日に撮った写真が添付されていました。写真には、スーツ姿の弟と、少し疲れた顔で笑っている私が写っていました。
A子さんによると、プロフィールムービーに使う写真を選ぶため、アルバムから写真を取り出して確認していると、裏に弟の字でメッセージが書かれていることに気付いたそうです。
A子さんは、「弟さんにも聞いてみたのですが、『昔の写真だから覚えていない』と濁されてしまって。お姉さんに直接聞いてみたいと思ったんです」と言いました。
その写真の裏には、弟が当時書いた言葉が残っていました。
「姉ちゃん、入学金のこと、助けてくれてありがとう。いつか恩返しするから」
それは、大学入学式の後、弟が照れくさそうに私へ渡してきた写真でした。私はその写真を実家のアルバムに入れ、思い出の1枚として大切に保管していたのです。
弟から「姉とは昔から疎遠だ」と聞いていたA子さんは、写真に残されたメッセージとの食い違いが気になったようでした。
写真から崩れた弟の説明
私は、弟や母を責めるつもりでA子さんに返信したわけではありません。ただ、A子さんの疑問には正直に答えようと思いました。
「詳しいことは私からは話せませんが、大学の入学金を一部援助したのは事実です。それと、弟とは昔から疎遠だったわけではありません」
それ以上、私から弟の過去について話すことはしませんでした。
その後、弟から話を聞いたところによると、A子さんは弟に、写真の裏に書かれていた言葉について尋ねたそうです。
そこで弟は、父が早くに亡くなった後、家計に余裕がなかったことや、私が働きながら家計を支え、進学にかかる費用の一部も負担していたことをA子さんに打ち明けたそうです。そして、A子さんにそのことを知られたくなかったため、私とは昔から疎遠だったと説明し、結婚式にも呼ばないつもりだったことまで話したとのことでした。
A子さんが強く反応したのは、実家に経済的な苦労があったことではありませんでした。
「昔のことを隠したかったからって、ずっと助けてくれたお姉さんまで式から外そうとしていたなんて、私は受け入れられない」
そう弟に伝えたといいます。
数日後、弟から電話がかかってきました。声はいつもより沈んでいました。
「A子から、結婚式を延期したいって言われた」
弟はそう切り出した後、しばらく黙っていました。そして、「姉ちゃん、ごめん。自分をよく見せたいって気持ちばかりで、姉ちゃんがしてくれたことまで隠そうとしてた」と謝りました。さらに弟は、「昔のことを知られるのが恥ずかしいと思ってた。でも、A子に言われて、自分が一番失礼なことをしてたってわかった」と話しました。
その後、母からも、私を結婚式から外そうとしたことについて謝罪を受けました。
「弟のことばかり考えて、あなたの気持ちをないがしろにしてしまった。ごめんね」
私は、すぐに何もなかったことにできるわけではないと伝えました。それでも、母が自分のしたことを認めて謝ってくれたことは受け止めたいと思い、「わかった。謝ってくれてありがとう」と返しました。
A子さんと弟は改めて2人で話し合い、予定していた結婚式はいったん延期することになったとのことでした。
まとめ
振り返ると、私は家族だからという理由で、ずっと自分の気持ちを後回しにしてきたのかもしれません。弟のため、母のためと思って動いてきましたが、それをなかったことにされてまで、自分の気持ちを後回しにする必要はなかったのだと思います。
たった1枚の写真をきっかけに、弟が話していたことと現実との食い違いが明らかになりました。結婚式に呼ばれなかったことは悲しかったですが、その出来事をきっかけに、私はようやく「都合よく隠される家族」でいることをやめられたのです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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