「その見た目では」と面接を切り上げられて
以前の職場は、店主の高齢化を理由に閉店しました。長く勤めた店を離れるのは寂しかったものの、これからも飲食の仕事を続けたいと思っていました。
私は調理師の資格を持ち、厨房での仕事に加え、接客や食材の発注も担当していました。求人を探していると、調理と接客の両方ができる人を募集している飲食店を見つけました。電話で応募し、名前と連絡先、飲食店での勤務経験を簡単に伝え、面接の日程を決めました。
面接の日は、洗濯してアイロンをかけたブラウスを着て、髪もまとめて出かけました。これまでどんな仕事をしてきたか、きちんと伝えよう。そう考えながら、店主に履歴書を差し出したのです。
ところが店主は、履歴書よりも私の顔をじっと見ていました。そして、勤務経験を尋ねることもなく言いました。
「うーん、その見た目じゃちょっとね……」
「接客は店の顔だからね。もっと見栄えのする人じゃないと」
身だしなみに不備があるのかと思い、「服装などで気になるところがありましたか」と尋ねました。すると店主は、「服装じゃなくて、顔立ちの印象のこと」と答えたのです。
私は顔が熱くなりました。それでも「接客も長く経験しています。前の店では——」と話そうとしましたが、店主はそれを遮り「今回は見送らせて」と履歴書を返しました。
帰り道、悔しさと恥ずかしさで涙が出そうになりました。長年続けてきた仕事まで、否定されたように感じたのです。
経験を聞いてくれた、次の店
しばらくは、次の面接に行くのが怖くなりました。また顔を見ただけで断られるかもしれない。求人を見つけても、応募をためらうようになったのです。
それでも働かないわけにはいかず、次に応募したのは、小さな飲食店でした。長年働いていたスタッフが退職し、人を探しているとのことでした。
面接で店主は履歴書を開き、「前のお店では、どんな料理を担当されていましたか」と尋ねました。私は話すうちに、少しずつ緊張がほどけていきました。常連のお客さまとのやりとりなど、気付けば、準備していた以上のことを話していました。
仕事内容や勤務条件の説明を受けた後、店主から「ぜひ、うちで働いていただきたいです」と言われました。思わず、「私で大丈夫でしょうか」と聞いてしまいました。店主が不思議そうな顔をしたので、前の面接で容姿を理由に断られたことを簡単に伝えました。
店主は少し驚いた後、こう言いました。
「今日お話しして、受け答えが丁寧で、経験も十分ある方だと感じました。お願いしたい気持ちは変わりませんよ」
ようやく、仕事をする自分を見てもらえた気がしました。
働き始めてからは、新しいメニューや会計の手順を覚えるのに必死でした。最初は間違えそうになることもありましたが、その都度確認し、少しずつ任せてもらえる仕事が増えていきました。
ある日、お客さまから「気持ちのいい接客だった。ありがとう」と声をかけられました。その言葉がうれしくて、やはり私はこの仕事が好きなのだと思いました。
不採用にされた店からの電話
新しい店で働き始めて1カ月ほどたったころのことです。忙しい昼の時間帯を終え、休憩中にスマートフォンを見ると、同じ店から何件も不在着信が入っていました。最初に面接を受け、容姿を理由に不採用にされた店でした。
今さら何の用だろう。何度も並ぶ着信履歴に戸惑っていると、再び電話がかかってきました。出てみると、あのときの店主でした。
「あなた、まだ仕事を探してる? やっぱり採用するから、来週からうちに来てくれないかな」
思いがけない申し出に、すぐには言葉が出ませんでした。店主によると、募集を続けても調理と接客の両方を任せられる人が決まらず、応募時に伝えた私の勤務経験を思い出して、控えていた連絡先に電話したとのことでした。
「先月から、別の店で働いています」と伝えても、相手は引き下がりませんでした。
「まだ入ったばかりでしょう? 時給はいくらなの? それより高く出すからさ」
面接では、経験について話そうとしても聞いてもらえませんでした。それなのに、人が足りなくなったら、今の仕事を辞めて来てほしいというのです。
私は、はっきり答えました。
「面接では、顔立ちを理由に難しいとおっしゃいましたよね。今の店では、経験や希望を聞いた上で採用していただきました。こちらで働き続けます」
相手はなおも何か言おうとしましたが、私は「申し訳ありませんが、お受けしません。失礼いたします」と伝え、電話を切りました。
スマートフォンを置いたとき、少し手が震えていました。それでも、面接の帰り道に感じたような惨めさはありませんでした。今度は自分の意思で、働く場所を選べたのです。
私にも、働く場所を選ぶ意思がある
最初の面接の後は、自分が接客を希望すること自体、間違っていたのかと考えてしまいました。けれど、新しい店で仕事を覚え、お客さまとやりとりするうちに、少しずつ自信を取り戻していきました。
もちろん、身だしなみや衛生面への気配りは欠かせません。私も日々気を付けています。ただ、生まれ持った顔立ちだけで、これまでの経験も、目の前の受け答えも見てもらえなかったことには、今でも納得できません。
今の店でも、忙しい日や失敗する日はあります。それでも、困ったときに相談でき、仕事を覚えた分だけ任せてもらえることが、続ける力になっています。
採用されるかどうかだけでなく、自分がここで働きたいと思えるか。その気持ちも大切にしていいのだと、ようやく思えるようになりました。
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店側の事情が変わっても、面接で受けた扱いまでなかったことにはなりません。主人公が大切にしたのは、時給の高さだけでなく、自分の経験や言葉に耳を傾けてもらえることでした。人手が必要になってから差し出された好条件より、最初から誠実に向き合ってくれた職場を選んだ姿に、信頼は日々の対応から生まれるものだと感じます。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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