今日は私たちの結婚式。華々しい門出の日となるはずが、新郎である婚約者から「母さんが亡くなったから結婚式は中止で」「結婚自体も白紙に戻そう」と連絡が来たのです……。
嘘つき新郎
付き合い始めたころは誠実な人だったのに、婚約して式の準備が始まったころから、「電車が遅延してて……」「道を間違えて……」と、調べたらすぐにわかる嘘をつくようになった婚約者。婚約者の母親である義母も「あまり責めないであげて」「壮大な愛があれば嘘をつかれても気にならないわよ」と婚約者の肩を持ちます。
そのたびに注意してきましたが、婚約者は「悪気はなかった」と謝り、しばらくするとまた同じことの繰り返し。式の準備が進むなか、この人とうまくやっていけるのだろうか……という心配を抱えながら、迎えた結婚式当日。婚約者は、実家に義母を迎えに行ってから式場へ来る予定でした。ところが、婚約者から「迎えに行ったら母さんが体調不良で」「目の前で急に倒れたから結婚式は中止にしてほしい」というメッセージが届き、私はため息をつきました。
「救急車は呼んだの?」と聞くと、「救急車は必要ない!」と返信が。「じゃあ意識はあるのね?」と尋ねると、「意識はない」「だからもう手遅れだと思うんだ」との返信が。あきれていると、「意識もなくて、呼吸もしてなくて……たった今、亡くなったみたい!」とさらにメッセージが来ました。
「母さんが亡くなったから今日の結婚式は今すぐ中止だ」
「これから色々と大変だし、悪いけど結婚もいったん白紙に戻そう」
「お義母さんなら、私の隣にいるけど?」
「え?」
私の隣で、メッセージをのぞき込みながら引きつった笑みを浮かべている義母。今日の式のために髪を素敵にセットしているだけあって、さらに迫力が増しています。この人がついさっき亡くなったなんて……ありえないのです。義母は「迎えに来てもらう約束だったけど、支度が早く済んだから先に来ていたのよ」と、あきれ返っていました。
お怒りの義母
どういうこと?と驚きを隠せなかったものの、新郎が来ない以上、式は中止にするしかありません。私が両親や式場の担当者と一緒に招待客への対応に追われている間に、義母は「息子に直接聞いてくるわ」と言って、息子の住む家へ向かっていきました。
しばらく経って、義母から電話が。「聞いてちょうだい! 息子ったら、知らない女と2人でいたのよ!」「問い詰めたら、その人と結婚したいんですって! ずっと言い出せないまま今日になったって言うのよ!」「だから今日の結婚式中止のために、母親である私が亡くなったってひどい嘘をついたのよ!」「最初は体調不良でごまかすつもりが、あなたにあれこれ聞かれて引っ込みがつかなくなったんですって!」と息継ぎもせず言い切った義母。
そして一息ついて、「自分の親をそんな理由で亡くなったことにするなんて!」と悲痛な叫び声を上げていました。
浮気、しかもその相手と結婚したいだなんて……。私は頭が真っ白になりました。それでも、怒り続ける義母に、どうしても一言言わずにはいられませんでした。
「でも、以前私には『大切な人に嘘をつかれても、壮大な愛があれば気にならない』っておっしゃっていましたよね……?」と尋ねてみると、「たしかに言ったけど、まさか自分が死んだことにされるなんて思わないじゃない」「あんなひどい嘘、さすがにかばいきれないわよ!」と義母。
「あの子があんな嘘までつくなんて……」「きっとあの女にそそのかされたのよ。それにしたってひどすぎるわ」
一人息子である婚約者を溺愛していたとは思えないほどの変貌っぷり。義母は「まずは息子ときっちり話をするわ。婚約破棄のことも式場の費用のことも、息子に責任を持って対応させるから!」と言って、鼻息荒く電話を切ったのでした。
浮気男の末路
数日後――。
元婚約者から電話がありました。式場のキャンセル費用の話かと思って出ると、元婚約者はひと通り謝った後、「結婚式なんだけど……中止じゃなくて、延期にできないかな?」と言ってきたのです。
ものすごい剣幕で息子を問い詰めたらしい義母。その場で、母親を亡くなったことにしてまで式を中止させたと知った浮気相手から、「そんな嘘をつく人とは付き合えない」と言って別れを切り出されたそう。だから私とやり直したい……と言うのです。都合がよすぎてあきれるばかりです。
「俺が好きなのは本当にお前だけだから!」という元婚約者の愛の言葉。すると、そばにいたのでしょう、「ちょっと、あんた!きちんと謝るだけだって、ついさっき私に約束したばかりでしょう!」「そんなことをお願いする資格なんて、あんたにはないのよ!」と義母の怒鳴り声が。
元婚約者が慌てて口ごもるのが聞こえた後、義母が電話口に出てきました。「息子はしばらく実家に戻して、私がしっかり見ておきます」「式場の費用も、本人にきちんと払わせますから」「……本当に、迷惑をかけてごめんなさいね」
その後――。
宣言通り、元婚約者は実家に連れ戻されていました。「親が亡くなったなんて嘘をつくような人が家庭を持っていいはずがない」という義母の考え方には私も賛成です。
結婚式当日の中止はつらく、招待客に頭を下げたときの悔しさは今でも忘れられません。思えば、元婚約者が嘘をつくようになったころに、一度立ち止まって関係を見直すべきだったのかもしれません。それでも、入籍する前に本性がわかってよかったと、今では思っています。
その場を取り繕うための嘘は、重ねるほど自分の首を絞めるだけです。私自身は、大切な人にこそ正直でいられる人間でありたいと思っています。
◇ ◇ ◇
その場しのぎの嘘を重ねるうちに、嘘をつく側の感覚は少しずつ鈍っていくのかもしれません。一時はやり過ごせても、ごまかしを重ねた分だけ、失う信頼は大きくなるのでしょう。かばってくれる義母のような存在も、やさしさのようでいて、本人から立ち止まる機会を遠ざけてしまうようです。注意しても繰り返されるとき、見るべきは謝罪の言葉よりも、その後の行動なのかもしれませんね。