妊婦さんに声をかけられて
次の駅で、目の前にマタニティマークを付けた女性が乗ってきました。私自身も妊娠・出産を経験しているため、妊娠中の移動がどれほど大変かはよくわかります。「席を譲ってあげたい」と思ったものの、その日は足が痛く、すぐには立ち上がれませんでした。
すると、妊婦さんから声をかけられたのです。「すみません。席を譲ってもらえますか?」妊婦さんはとても申し訳なさそうでした。私もできることなら譲りたかったのですが、足の痛みも限界に近く……。
「えっ……あの、本当にごめんなさい。実は足を痛めてしまっていて……」申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら伝えました。妊婦さんは一瞬困ったような表情になりましたが、「そうですか、大丈夫です。こちらこそ突然すみませんでした」と笑顔で会釈し、近くの手すりにつかまりました。
席を譲れなかったことを悔やんでいると
「妊娠中の大変さはわかっているのに、譲れなかった……」そう考えて胸が苦しくなっていた、そのときです。隣に座っていた若い男性が、すっと立ち上がりました。
「よかったら、こちらどうぞ」そう言って、妊婦さんに席を譲ったのです。妊婦さんは「ありがとうございます」とお礼を言い、その席に座りました。私はほっとすると同時に、男性のさりげない親切に心が温かくなりました。
すると、隣に座った妊婦さんが、私のほうを向いてこう言ったのです。「さきほどはすみません。足、お大事にしてくださいね」その言葉に、思わず胸がいっぱいになりました。自分も大変な状況なのに、私のことまで気遣ってくれたのがうれしかったのです。
妊娠中のつらさは、私自身も経験してきました。だからこそ、席を譲れなかったことに申し訳なさはありましたが、今回のことで、座っている人にも外からは見えない事情があるのだと改めて感じました。
そして、誰かひとりが無理をするのではなく、お互いの事情を思いやりながら、できる人ができる範囲で助け合うことが大切なのだと思いました。私も体調がいいときには、あの男性のように、困っている人に自然と手を差し伸べられる人でありたいと感じた出来事です。
◇ ◇ ◇
電車やバスでは、妊娠中の方や体調の悪い方など、席を必要としている人がいます。一方で、座っている人にも、見た目ではわからないつらさがある場合もあります。
今回は、妊婦さんも主人公も、お互いの事情を思いやる言葉をかけていたことが印象的でした。さらに、そっと席を譲った男性の行動にも心が温かくなりますね。
誰かが無理をするのではなく、それぞれができる範囲で助け合うこと。そんな思いやりの輪が広がっていくといいですね。
著者:田中 美波/30代女性/パート勤務をしながら、家事と育児に奮闘しています。休日は子どもたちと買い物や公園に出かけています。
イラスト:市田スナオ
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年9月)
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