穏やかな朝と、長年の比較から解放された日
私には、幼い頃から何かにつけて張り合ってくる双子の兄がいます。顔はそっくりでも性格は正反対で、兄は昔から「自分の方が優秀だ」と誇示しなければ気が済まないタイプでした。私が親から褒められれば不機嫌になり、私が新しいおもちゃを買ってもらえば力ずくで奪っていく。大人になってもその気質は変わらず、就職先から交友関係に至るまで、常に私を見下すような発言を繰り返す日々。それでも「兄弟だから」と、私は波風を立てないよう距離を置きながら、ごく普通の会社員として静かな生活を送っていました。
そんな私にも、かつて将来を誓い合った女性がいました。華やかで社交的な彼女との結婚生活を思い描き、少しずつ準備を進めていたあの頃。まさか、あんな信じられないトラブルに巻き込まれることになるとは、夢にも思っていなかったのです。
突然発覚した裏の顔と、耳を疑う「略奪」の噂
結婚に向けて具体的な話が進み始めた矢先のこと。ふとしたきっかけで、元カノに多額の隠し借金があることが発覚しました。原因は、度重なる高級ブランド品の購入や、エステなどの浪費です。
驚いて問い詰める私に対し、元カノは悪びれる様子もなく「結婚したらあなたが払ってくれるんでしょ? 妻が綺麗でいるための必要経費じゃない」と言い放ちました。そのあまりにも身勝手な言葉に、私の心の中で何かが冷たく音を立てて崩れ去っていくのを感じました。
この人と一緒に人生を歩むことは絶対にできない。そう確信した私は、即座に婚約を破棄し、仮予約していた式場もすべてキャンセルしました。数ヶ月の間に起きた怒涛の出来事に心身ともに疲弊しましたが、なんとか日常を取り戻そうと必死に働いていた時期です。
しかし、それからしばらくして、共通の友人から耳を疑うような噂を聞かされることになります。
「お前の兄貴、お前の婚約者と付き合ってるらしいぞ」
一瞬、何の話か理解できませんでした。どうやら元カノは、私にフラれて借金の返済アテがなくなった後、私よりも少しばかり見栄えのいい企業に勤めている兄に目をつけたようです。兄は彼女が「私の元カノ」であり、とっくに破局していることも、彼女が多額の借金を抱えていることも知らず、「現在進行形で弟が愛している婚約者を略奪した」と本気で思い込んでいるようでした。
両親の決断と、私を救ってくれた本当の愛
あまりの滑稽さと、兄の悪意に満ちた行動に、私は激しい憤りと同時に呆れ果てました。事実を伝えて兄の目を覚まさせるべきか。
葛藤の末、私は実家の両親にすべてを打ち明けることにしました。元カノの借金トラブルで婚約破棄したこと、そして兄が勘違いをしたまま彼女と交際し、私から略奪したと吹聴していること。
事の顛末を聞いた父は、顔を真っ赤にして激怒しました。
「お前のものを奪って喜んでいるような奴は、もう親族でもなんでもない。放っておきなさい。自分で選んだ道なら、自分で責任を取らせればいい!」
母も涙ぐみながら私を庇ってくれ、兄とは距離を置くよう強く念を押されました。
そんな人間不信に陥りそうだった私を救ってくれたのが、職場でいつもさりげなくフォローしてくれていた現在の妻です。私の抱える事情を知っても決して詮索せず、ただ温かく寄り添い続けてくれた彼女。派手さはなくても、堅実で心優しい彼女と一緒にいるうちに、私の心の傷は自然と癒えていきました。
やがて私たちは自然な流れで将来を約束し、両親やごく親しい友人だけを招いて、ささやかで温かい結婚式を挙げることになったのです。当然、兄には一切知らせていませんでした。
鳴り響く電話と、滑稽な思い込みの結末
そして迎えた、私たちの結婚式当日。
雲ひとつない青空の下、大切な人たちに見守られながら、私たちは永遠の愛を誓いました。妻の純白のドレス姿は本当に美しく、心の底から「この人と出会えてよかった」と思える、最高の時間でした。
式が無事に終わり、控室で妻とグラスを傾けながら談笑していたときのことです。ふと、私のスマートフォンが振動しました。画面には、長らく連絡を取っていなかった兄の名前が。 嫌な予感がしつつも通話ボタンを押すと、電話口から兄の甲高い笑い声が響いてきました。
「おーい! お前の代わりに俺が新郎をやるからな! 今日の式も嫁も俺がいただいたわ(笑)」
あまりの言葉に、私は思わずスマホを耳から離しました。
どうやら元カノは、私が今日結婚式を挙げることをどこからか聞きつけ、あてつけのように兄との結婚式を同じ日に設定したようです。
兄は私が元カノと別れたことを知らず、私の花嫁も結婚式も奪ったつもりで、得意げに話し続けました。
「そうそう、親父とお袋も招待したんだけど、まだ来てないんだよな。まあ、そのうち来るだろ。お前はそこで、来ない花嫁と両親をひとり寂しく待ってればいいよ(笑)」
実は、両親は兄からの招待を受けた際、騙されたふりをして出席すると返事をしていました。しかし、最初から兄の結婚式に行くつもりなどなく、私の結婚式に出席してくれていたのです。
私は勝ち誇る兄の話を聞き終えると、静かに答えました。
「俺の結婚式なら、さっき無事に終わったけど?」
電話の向こうが一瞬、不自然なほど静まり返りました。
私はそのまま、淡々と事実を告げました。自分はすでに本当に愛する人と式を挙げたこと。兄の隣にいる女性は、半年以上前に多額の借金が理由で私から捨てた元カノであること。そして、両親もすべてを知った上で私の式に出席しており、そちらには一生行くつもりがないこと。
「どうぞお幸せに」
崩れ去った虚栄心と、私の新しい日常
通話を切った後、兄の会場で何が起きたのかは、後日参列してしまった親戚からの連絡で知ることになりました。
真実を知らされた兄は顔面蒼白になり、その場で元カノを激しく問い詰めたそうです。元カノは「お義兄ちゃんの方が優秀だから守ってくれると思ったのに!」と泣き叫びながら開き直り、会場は修羅場と化しました。
兄は「弟から略奪した」という優越感に浸るためだけに、数百万円という結婚式費用を全額自分の貯金とローンで支払っていました。結局、式は途中でめちゃくちゃになり、兄は親族の前で大恥をかいたうえに、実家からは正式に絶縁を言い渡されるという自業自得の結末を迎えました。
現在、兄は騙されていたとはいえ自らサインしてしまった式のローン返済に追われ、元カノとも泥沼の金銭トラブルで揉め続けているそうです。長年私を見下し、何でも奪おうとしてきた兄が得たものは、重い負債と孤独だけでした。
一方の私は、あの日の清々しい青空のように晴れやかな気持ちで、妻と共に新しい人生を歩んでいます。過去の執着や虚栄心に囚われることなく、目の前にある「本物の愛情」を見つけることができて、今は本当に幸せです。
◇ ◇ ◇
他人への嫉妬や「誰かより優位に立ちたい」という虚栄心から始まる関係は、土台がもろく、いずれ綻びが生じてしまうものです。自分の見栄を満たすためだけに相手を利用したり、真実から目を背けたりしているうちは、本当の幸せを築くことはできませんね。
人生において大切なのは、他人と比べることではなく、自分をありのままに受け入れ、誠実に向き合ってくれるパートナーの存在です。見せかけの華やかさや対抗心に惑わされず、心から信頼できる人との穏やかな日常を、何よりも大切にして生きていきたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。