従業員たちが退職!?
ある日、ベテラン従業員から「最近、休みの日にA旅館の見学へ行っている人が何人かいるみたいですよ」と聞きました。A旅館は、うちと競合する旅館です。どうやらA旅館のオーナーが、うちの従業員たちに声をかけていたようでした。そして数日後、A旅館を見学した従業員のうち数名から、相次いで退職の申し出があったのです。
「退職して、A旅館で働こうと思っています。こっちより条件がよさそうなんで」
そういった従業員のひとりは、さらに笑いながら続けました。「正直、若いオーナーについていくより、ちゃんとしたところで働いたほうがいいですし。残る人は大変でしょうけど、頑張ってください(笑)」。
そう告げられ、僕は引き止めることも考えました。しかし、本人たちが決めたことなら仕方ありません。退職の意思を受け入れることにしました。
それでも、短期間に複数の従業員が辞めるとなれば、残された従業員への負担も大きくなります。母が残した旅館をこのまま守っていけるのか、僕は不安になりました。
ピンチだと思っていたけれど
僕が今後について考え込んでいると、残ってくれたベテラン従業員が「これは、旅館を立て直すチャンスかもしれませんよ」と言い出しました。
僕自身、以前から旅館の人員配置には疑問を感じていました。仕事量に対して従業員が多く、忙しい人とそうでない人との差も大きかったのです。
さらに、今回辞めた従業員の中には、遅刻や無断欠席が目立ったり、お客さまへの対応について苦情が入ったりしていた人もいました。
僕は「たしかに、そう考えると…改善するチャンスなのかもしれないね」と伝えました。
そして僕たちは、残ったメンバーで業務を一から見直すことに。予約管理を整理し、担当が偏らないように仕事を分担。必要のない作業も減らし、少ない人数で無理なく働ける体制へと変えていきました。
最初は大変でしたが、徐々に従業員同士の連携も良くなり、お客さまから接客を褒めていただくことも増えていったのです。
もう一度働かせて!
それからしばらく経ったころ、驚くことが起こりました。A旅館へ移った元従業員たちが、僕の旅館を訪ねてきたのです。
彼女たちは、「もう一度ここで働かせてもらえませんか?」と言っていて……。理由を聞くと、A旅館の見学時には「働き方次第では今より収入が増える可能性がある」と説明されていたものの、実際にはシフトや手当によって月収に差があり、期待していたほど収入は増えなかったとのこと。さらに、A旅館では退職者が相次いでいたらしく、人手不足から一人ひとりの勤務負担も大きくなっていたそうです。
しかし、僕は「申し訳ありませんが、今のメンバーでやっていくと決めています」とお断りしました。
彼女らが抜けたあと、残った従業員たちは努力して旅館を支えてくれました。経営も安定し、今では以前より働きやすい職場になっていると評判です。
去っていった人たちを責めるつもりはありません。ただ、苦しいときに一緒に旅館を守ってくれた人たちを、僕は何より大切にしたいと思っています。
母から受け継いだ旅館を守るのは簡単ではありません。それでも、信頼できる仲間と力を合わせながら、これからもお客さまに「また来たい」と思ってもらえる旅館をつくっていくつもりです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ムーンカレンダー編集室では、女性の体を知って、毎月をもっとラクに快適に、女性の一生をサポートする記事を配信しています。すべての女性の毎日がもっとラクに楽しくなりますように!