おなかをすかせた女の子に食事を振る舞うと
近所のライバル店の店主からは「さっさと畳んだら?」と嫌みを言われる日々。それでも私は、両親が大切にしてきたこの食堂をなんとか守りたいと奮闘していました。
そんなある日、店の前をうろうろしている小学生の女の子を見かけました。声をかけて事情を聞くと、その日は学校が休みで、お父さんと一緒にお昼ごはんを食べる約束をしていたものの、帰りが遅くなっているとのこと。おなかをすかせている様子を見て、私は女の子に食事をごちそうすることにしました。
実は私自身も、幼いころは両親が食堂の仕事で忙しく、ひとりで寂しい思いをすることが多かったのです。そんな幼いころの自分と女の子の姿が重なり、どうしても放っておくことができませんでした。
私が「お金は出世払いでいいよ。温かいうちに食べて」と食事を振る舞うと、女の子は「おいしい!」と大喜び。何度もお礼を言って帰っていきました。
30人の団体客の中に、あの女の子が!?
それから数カ月後。私の店に、なんと30人もの団体予約が! 久しぶりの大人数の予約に、私は張り切って仕入れや準備を進めました。
そして迎えた予約当日。「今日はみんなで来ました!」と、大勢の男女が来店。なんとその中には、あの日の女の子の姿があったのです!
驚く私に、ひとりの男性が声をかけてきました。実はその男性は女の子のお父さんで、近隣で会社を経営する社長だったのです。男性はシングルファーザーで、仕事をしながら娘を育てているのだそう。あの日は急な仕事が入り、娘を待たせてしまったと言います。男性は「先日は娘に食事をごちそうしていただき、本当にありがとうございました」と、丁寧にお礼を伝えてくれました。
男性は娘から話を聞き、実はその後、一度、会社の人と一緒に食事に来てくれていたのだそう。しかし、その日は急な電話が入り、一足先に店を出たため、直接お礼を伝えられなかったとのこと。その際、手ごろな価格と料理のおいしさにも感動し、ほかの社員たちにも味わってほしいという思いと、改めてお礼を伝えたいという気持ちから、今回の食事会を企画してくれたのだと言います。
小さな親切が食堂の運命を変えることに
その日をきっかけに、社員の方々が昼食を食べに訪れてくれるようになり、会社からも定期的にお弁当の注文が入るようになりました。さらに口コミで評判が広まり、店は徐々に活気を取り戻していき……。こうして、なんとか経営危機を脱することができたのです。
そんな状況が面白くないのは、ライバル店の店主です。ある日、私の店にやって来ると、「なんでお前のところみたいな店が繁盛してるんだよ! 何か裏があるんじゃないのか!?」と難癖をつけてきました。
私は笑顔で「私はただ、親父の味を守っているだけです。来てくださるお客様がいる限り、これからも続けていきます」と返しました。すると、店主は面白くなさそうな表情を浮かべながらも、何も言い返せずに立ち去っていきました。
その後も、私は両親が残してくれた食堂を大切に守り続けています。幼いころに寂しい思いをした経験があるからこそ、同じような思いをしている子どもがいたら、また温かいごはんをおなかいっぱい食べさせてあげたいと思っています。
◇ ◇ ◇
何げない親切が思いがけない縁につながり、食堂を救うきっかけとなりました。見返りを求めずに誰かを思いやる気持ちが、巡り巡って自分のもとに返ってくることもあるのかもしれませんね。
【取材時期:2026年10月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。