居酒屋で響く、大声の業界話
ある日の夕方、僕は下町のリーズナブルな居酒屋で、お酒を楽しんでいました。
気取らない雰囲気の中、ゆっくり一日の疲れを癒やすつもりだったのですが……。近くにいた30代くらいの男性3人組の声が、嫌でも耳に入ってきました。
「この前、あの大物司会者の現場に入ったんだけどさ〜」
「そういえば、別の現場で会ったあのタレント、テレビじゃ愛想いいけど、裏じゃめちゃくちゃ感じ悪いからね(笑)」
著名人の名前や現場の裏話を、大声で話し続ける3人。まるで業界の裏側を何でも知っているかのような口ぶりです。
仕事の話で盛り上がるのは分かります。でも、その場にいない人の悪口まで聞かされるのは、気持ちのいいものではありませんでした。

「そんな話、外でして大丈夫?」
お酒が進むにつれ、3人の声はさらに大きくなりました。
著名人の悪口に加え、仕事先の内情まで話し始めています。詳しいことは分かりませんが、「そんなこと、外で話して大丈夫なの?」と、聞いているこちらが心配になるような内容でした。
周囲には、会話を中断してそちらを見るお客さんもいます。それでも、3人はお構いなしです。
「せっかく飲みに来たのに……」
僕が心の中でため息をついたとき、店主が3人のテーブルに近づきました。
店主のひと言で、笑い声がぴたり
「お兄さんたち、うちは狭い店だから、話が全部聞こえちゃうんだよ。そういう仕事の内緒話や、人の悪口は控えてね」
3人は「あ、はい」と返事をしました。
すると店主は、落ち着いた口調で付け加えたのです。
「それに、この店、意外と業界の人も来るからね。誰が聞いてるか分からないよ」
さっきまで笑っていた3人の表情が固まりました。
「……すみません」
3人は周囲をちらりと見て、気まずそうに黙り込みました。先ほどまでの威勢のよさが、うそのようです。
ようやく、ゆっくり飲める時間に
それから、著名人の悪口も仕事の裏話も、ぴたりと止まりました。
3人は声を落として話し、ほどなく会計を済ませて店を後にしました。
仕事先の人が聞いているかもしれないと分かった途端、あそこまで静かになるとは……。それなら、最初から大声で話さなければいいのにと思ってしまいます。
店主は声を荒らげず、僕たちが言い出せなかったことを、きっぱり伝えてくれました。
「そう、それが言いたかったんだよ」
僕は心の中でうなずき、グラスを傾けて、ビールをひと口。ようやく落ち着いた店内で、スカッとした気分を味わったのでした。
※画像はAIで生成したイメージです。描かれている人物は架空のもので、特定の実在する人物をモデルにしたものではありません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。