加齢による物忘れと認知症の物忘れの違い

「最近物忘れが増えたけれど、まだ会話も普通にできているし、大丈夫だろう」。そう感じていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。人の名前がすぐに出てこなくても、誰かに聞けば「ああ、そうだった」と思い出せるうちは心配いらない、と考えるのは自然なことです。
実は、この「誰かに言われれば思い出せるかどうか」にこそ、加齢による物忘れと認知症による物忘れを分ける、はっきりとした違いがあります。加齢による物忘れは、友人と会う約束をしたこと自体は覚えているけれど日時をうっかり忘れてしまう、というように、体験の「一部」だけが記憶から抜け落ちるものです。この場合、「ああ、来週の水曜日だったね」とヒントを出されれば、すんなりと記憶がつながります。
一方、認知症による物忘れは、友人と会う約束をしたという体験そのものが、丸ごと記憶から抜け落ちてしまいます。ヒントを与えられても「そんな約束、知らない」となり、本人の中で記憶と実感が結びつかないのです。つまり違いは、忘れた内容を「思い出せるか」ではなく、忘れた出来事があったこと自体を「実感として取り戻せるか」にあります。
もう一つ、あまり知られていない違いが「見当識」、今がいつで自分がどこにいるのかを把握する脳の働きにあります。実は、見当識の乱れは「時間」の感覚から先に崩れ始め、次に「場所」、最後に「人物」の順で影響が及びやすいと考えられています。そのため、「今日が何日かわからなくなった」という変化に家族が気付いた時点では、実はすでにある程度の期間その状態が続いていた可能性があります。逆に言えば、「場所」や「人の顔」がわからなくなる前の、比較的早い段階でこの兆候をつかめるということでもあります。
まとめると、加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いは、
①ヒントを与えられれば記憶がつながるか、体験そのものが記憶から抜け落ちているか
②今がいつかという時間の感覚が保たれているか
難しく考えず、この2つの軸だけを持っておいていただければ十分です。日々の暮らしの中でふと抱いた違和感を、なんとなくの不安のまま抱え込むのではなく、この2つの物差しに当てはめて考えてみるだけでも、次に取るべき行動が見えやすくなります。
では、この視点を踏まえて、実際にご自身やご家族でできるチェックを次に見ていきましょう。
自分と家族のための簡単「物忘れセルフチェック」

ここまでの内容を読みながら、ご自身やご家族の顔が思い浮かんだ方も多いのではないでしょうか。そんな段階でこそ役立つのが、セルフチェックです。簡単なチェック項目なので、ぜひ試してみてください。
︎□同じ質問を短時間のうちに何度も繰り返す(一時的な聞き忘れではなく、質問したこと自体を覚えていない状態)
︎□財布や鍵の置き場所を頻繁に忘れ、探し回ることが増えた
︎□以前は問題なく使えていた家電の操作に、最近迷うようになった
︎□通い慣れた道で迷った経験がある
︎□こうした状態が数カ月以上続いており、日常生活に実際に支障が出ている
実は、これらの項目は「頻度」と「期間」の両方がそろって初めて意味を持ちます。一度だけ道に迷った、一度だけ同じ話をした、という単発の出来事は、誰にでも起こりうる自然な物忘れの範囲です。これらの項目のうち複数が、繰り返し・継続して当てはまる場合には、一度専門機関に相談することをおすすめします。
※あくまで相談を検討する目安であり、医学的な診断基準ではありません。
ただし、大切なのは無理に自分やご家族を追い詰めないことです。当てはまったからといって、すぐに認知症の始まりと決まるわけではなく、加齢との線引きは専門的な検査でなければ判断が難しいため、あくまで「相談のきっかけ」として活用してください。
では、実際に相談する場合、どこにどう相談すればよいのでしょうか。次の章で具体的にお伝えします。
気になったとき、どの診療科にどう相談すればよいか

セルフチェックで気になる項目があったとしても、実際に病院へ行くとなると、何科を選べばよいのか迷う方は少なくありません。
まず選択肢としてわかりやすいのは、「もの忘れ外来」を掲げる医療機関です。もの忘れ外来では、問診に加えて、記憶力・注意力・判断力などを確認する「MMSE」や「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などの認知機能検査をおこないます。また必要に応じて、CTやMRIで脳の萎縮や脳梗塞などがないかを確認し、血液検査なども組み合わせながら、物忘れの原因を総合的に調べます。
もの忘れ外来が近くにない場合は、神経内科や精神科、あるいはかかりつけの内科医に相談する形でも問題ありません。まずは身近な医師に相談し、そこから専門機関を紹介してもらうという流れでも十分です。
そして、受診の際に準備しておくと役立つのが、症状のメモとお薬手帳です。いつごろから・どのような場面で・どのくらいの頻度で気になる出来事があったかを書き出しておくと、限られた診察時間の中でも状況が伝わりやすくなります。
また、本人だけでは気付きにくい変化も、家族の視点であれば気付きやすいものです。可能であれば、普段の様子をよく知るご家族に付き添ってもらいましょう。
【主治医に相談したいことの例】
Q.「最近、同じことを何度も聞かれるのですが、これは注意したほうがよい状態でしょうか」
【理由】 本人に自覚がないまま同じ質問を繰り返す状態は、単なる聞き忘れとは異なる可能性があるため、具体的な頻度や期間を伝えて相談することが、専門機関を紹介してもらう際の判断材料になります。
まとめ
物忘れが気になったら、不安になるのが自然なことです。大切なのは、その不安を放置することではなく、気になったタイミングで一度立ち止まり、状況を整理してみることです。
今日は気になる出来事を紙に書き出してみる、家族の様子をいつもより少し丁寧に見てみる。そうした小さな一歩の積み重ねが、必要なサポートに早くつながる近道になります。
物忘れとの向き合い方を少し見直すことは、これから先のご自身やご家族の安心につながる、小さいけれど確かな習慣です。不安を一人で抱え込まず、気になることがあれば、まずは身近な医師に相談することから始めてみてください。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
監修:内科医 橋本将吉 先生(西新宿セルフライフ内科クリニック院長)
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