聞いたことのない大学ね
彼とは別の部署で働いています。彼は有名大学の出身ですが、私は地元の私立大学卒。挨拶に行く前、彼から「うちの親は昔から学歴にうるさいんだ」と聞かされていました。彼自身も学生時代は勉強を優先させられていたそうで、正直、少し身構えていました。
ところが、当日は仕事や休日の話で和やかな雰囲気に。私たちが同じ新商品の開発プロジェクトに参加していると話すと、彼のお父さんは「息子から聞いているよ。大きな仕事なんだってね」とうれしそうに話してくれました。私も少し緊張がほぐれたころ、彼のお母さんに「それで、大学はどちらを出たの?」と尋ねられました。
大学名を答えると、彼のお母さんは「聞いたことのない大学ね。地元では有名なの?」と首をかしげました。それほど知られていないと伝えると、今度は彼のお父さんが「うちの息子は一流大学を出ているからね。入るのも相当大変だったんだよ」と得意げに話し始めたのです。私は相づちを打ちながら聞いていましたが、話題はずっと大学のことばかり……。
息子の仕事についていけるの?
すると彼のお母さんは、今度は私の仕事についてまで口を出してきたのです。「そんな無名大学を出て、息子の仕事についていけるの? 足を引っ張らないか心配だわ?」初対面でこんなことを言われるとは思っておらず、驚きと困惑でどう言葉を返せばいいのかわかりませんでした。
「母さん、失礼だよ。彼女が仕事でどれだけ頼りにされているかも知らないだろ?」彼がすぐに注意してくれました。しかし、彼のお父さんは「心配するのは当然だろう。息子は会社から期待されているんだ。結婚相手が仕事のできない人だと思われたら、息子の評判にまで傷がつくだろう」と引きません。
すると彼は「父さんたち、俺が今どんな仕事をしているか知ってるよね?」と尋ねました。
自慢の息子が明かした仕事の事実
「大きなプロジェクトを任されているんだろう?」彼のお父さんが自信ありげに答えると、彼は「俺も参加しているよ。でも、そのプロジェクトのリーダーは彼女なんだ」と告げました。
「……え?」彼のお母さんが私と彼の顔を交互に見ます。彼のお父さんも「彼女が?」と聞き返しました。実は私は、これまで新商品の企画に力を注ぎ、少しずつ実績を積んできました。周囲から相談されることも増え、社内だけでなく、取引先からも頼りにされるようになり、そうした実績を会社から評価されていたのです。
「足を引っ張るどころか、俺のほうが何度も助けられてるんだよ」彼の言葉に、さっきまで得意げだった彼のお父さんは「ゴホン」と咳払いをして、慌てて視線をそらしました。彼のお母さんも気まずそうに目を泳がせ、何も言えずにいます。
聞いたことのない大学ね
私はふたりに向き直り、口を開きました。「私は自分の仕事に責任を持って取り組んできました。どこの大学を出たかだけで、仕事の能力まで決めつけられたのは悲しかったです」言い終えると、胸のつかえが少し取れた気がしました。彼も隣でうなずいてくれています。
「父さん、母さん。彼女に失礼なことを言ったんだから、謝ってほしい」彼のお父さんはすぐには答えず、しばらくして「……失礼なことを言いました」と頭を下げました。彼のお母さんも少し間を置いて「ごめんなさい」とひと言。私はその場で謝罪を受け入れましたが、すぐに気持ちを切り替えられたわけではありません。
謝罪のあとも、彼のお父さんはばつが悪そうに口を噤み、彼のお母さんもすっかりおとなしくなっていました。あれほど得意げに話していた大学の話も、それきり。気まずい空気のまま、食事は終わりました。
その後、私たちは予定通り結婚しました。義両親とは必要なときに連絡を取り、無理に親しくなろうとはせず、適度な距離を保っています。あの日、彼が私の仕事ぶりを認めてくれて、両親に伝えてくれたことが何より心強く、これからもお互いを尊重していきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
学歴や肩書きを聞いただけで、相手の人柄や能力までわかった気になってしまうことがあります。でも、その人がどんな経験を重ね、何を大切にしているのかは、実際に話を聞かなければわかりません。自分の価値観や先入観だけで相手を判断せず、まずはその人自身を知ろうとする姿勢を大切にしたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています。