先日、厚生労働省より「2019年人口動態統計(確定数)の概況」が公表されました。少子化に歯止めがかからず、2019年は「86万ショック」とも呼ぶべき状況であるとされています。その一方で、周産期死亡率、新生児死亡率、乳児死亡率、妊産婦死亡率などは低水準を推移し世界トップクラスとなっていますが、新たな問題も浮かび上がってきています。
妊産婦のメンタルヘルスが問題視されてきている
2016年の日本産婦人科学会で、2005年~2014年の10年間に東京23区で63人の妊産婦さんが自殺によって亡くなっているという調査結果が報告されました。
うち40人が「産後1年未満」の方で、その6割の方がうつ病や統合失調症などを患い、病院に通っていたことがあり、そしてその半数の方が「産後うつ」だったとのことです。産後、自殺で亡くなった方の数は、産後の出血が原因で亡くなった方の約2倍です。
産後うつとは?
産褥期に発症する精神障害を「産褥精神障害」あるいは「産褥精神病」と呼びます。産後うつ病は、産褥精神障害の大半を占める病気で、早ければ産後2週~4週間ごろに発症すると言われています。
産後3~10日のママが発症する「マタニティブルーズ」は産褥期の生理的な現象で、症状は産後2週間ほどで自然に治まると言われていますが、マタニティ・ブルーズが悪化し、産後うつ病に移行するケースも少なくありません。
産後うつ病のリスク因子として、
・過去にうつ病を含む精神障害の病歴がある(非妊娠中・妊娠中)
・妊娠や出産、育児に関する不安、ストレス、肉体的疲労
・シングルマザー、10代のママ
・妊娠37週未満の早産
・多胎
・赤ちゃんに深刻な疾患などがある
・夫や周囲の協力が少ない
・家族の病気や死別、お金の問題など
・社会的サポートが乏しい
などが挙げられます。
日本産婦人科学会によると、産後ママの5~10%が産後うつ病になるとされています。また、米疾病予防管理センターによると、9人に1人のママが産後うつ病に陥ると報告されています。いずれにしても、産後うつ病は決して珍しい病気ではないのです。
産後うつ病の代表的な症状は、
・いつもより涙もろくなった。少しのことで涙が出る
・パパや周囲の人に対して、腹が立つことが多い
・孤独な気持ちになることが多い
・赤ちゃんを傷つけないか不安に思う
・自分は“良い母親ではない”と感じてしまう
などがあります。自分に当てはまる点がないかチェックしてみましょう。
産後うつを予防するには? もし、産後うつになってしまったら?
深刻な抑うつ状態に陥らないために、次のような予防対策が重要だと言われています。
・早期の段階で対策に取り組む
うつ病の予防には早期対策が重要だといわれています。妊娠中に気になる症状や、育児に関する不安があるママは、早めに医師に相談しましょう。また、家族や近隣の人、専門家など、育児をサポートしてくれる人を見つけておきましょう。
・産後ママは睡眠確保と休息を最優先に
お産による体力の消耗や育児疲れなど、ママの肉体的疲労が産後うつ病につながるケースもあります。家事・育児を頑張りすぎず、体と心を休めることを最優先にしましょう。
・夫婦でよく話し合いを
育児はママとパパ、両方にとって大きな仕事です。日頃から育児の不安など、自分の考えを相手に伝えることが大切です。育児中はパートナーへの不満がつきものですが、日頃から小出しで伝え合い、不満を溜め込まないようにしましょう。
いろいろな社会資源を活用しよう!
産後のママを支援するために、現在さまざまな活動がおこなわれています。
◆産後ケアセンター
産後、ママと赤ちゃんが一緒に過ごすことができる宿泊型のケア施設です。24時間、助産師がママと赤ちゃんをサポートします。パパの宿泊も可能な施設もあり、費用もさまざまです。
◆産後ヘルパー
研修を受けた子育て経験のある方が赤ちゃんが生まれたお家の家事や育児などのお手伝いをしてくれます。民間の産後ヘルパーや地域によっては自治体で派遣してくれるところも。料金は民間のほうが費用が高いようです。
◆産後ドゥーラ
ドゥーラとは「女性を助ける、経験豊富な女性」のこと。赤ちゃんが生まれたお家の家事や育児のお手伝いだけでなく、ママの相談相手にもなってくれます。妊娠中からの活用もできるようです。
また、産後うつ病が疑われる場合、速やかな対処が必要です。出産した産婦人科や、出産前に通院していた精神科など病院を受診しましょう。必要と判断された場合は質問票を用いた検査がおこなわれます。産婦人科での診断が難しい場合は、精神科医を紹介されることもあります。
症状が深刻な場合は、抗うつ薬を用いた薬物療法や、入院治療が施される場合もあります。特に入院治療は、育児のストレスから切り離され、緊張を和らげるきっかけとして、有効とされています。
本当につらくなったら30分やり過ごして!
2020年は新型コロナウイルスの影響により、生活が大きく変化しました。8月の全国の自殺者が去年の同じ時期より大幅に増えたことがわかっています。国は新型コロナウイルスの感染拡大の影響がないか、分析を進める方針とのこと。
自殺衝動(抑えられない自殺への衝動)のピークは5~10分ですが、誰かと30分ほど話していると、落ち着いた状態になると言われています。ですから、本当に死にたいと思ったときは30分だけやりすごしましょう。
厚生労働省では、電話やSNSによる相談窓口を紹介しています。
電話
■こころの健康相談統一ダイヤル
電話をかけた所在地の都道府県・政令指定都市が実施している「こころの健康電話相談」等の公的な相談機関に接続します。
0570-064-556 ※相談対応の曜日・時間は都道府県によって異なります。
■よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
ガイダンスで専門的な対応も選べます(外国語含む)。
0120-279-338 つなぐ ささえる(フリーダイヤル・無料)
岩手県・宮城県・福島県から 0120-279-226 つなぐ つつむ(フリーダイヤル・無料)
■いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟)
0570-783-556(ナビダイヤル)
○午前10時から午後10時まで
※IP電話(アプリケーション間の無料通話を除く)からは03-6634-2556(通話料有料)
0120-783-556(フリーダイヤル・無料)
○毎日16時から21時まで
○毎月10日は、午前8時から翌日午前8時まで
※IP電話(アプリケーション間の無料通話を除く)からは03-6634-7830(通話料有料)
SNS
■「生きづらびっと」
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月曜日・火曜日・木曜日・金曜日・日曜日 17時から22時30分(22時まで受付)
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新型コロナウイルスの影響によりこれまでとは違った生活を強いられ、気軽に外出したり人と会ったりできない状況が続いています。なかなかストレスや不安が解消できない……という方も多いかと思います。「自分は大丈夫」と思っている方でも、何かのきっかけで産後うつになる可能性もあります。小さな悩みごとでもひとりで抱え込まないことが大切です。こんな状況だからこそ、ひとりで頑張らず、誰かの助けを借りながら日々過ごしていきましょう。