「86万ショック」と言われた2019年の出生数。2020年は新型コロナウイルスの感染が拡大し、今後の出生数に影響を及ぼすのではないかと懸念されていました。厚生労働省でも新型コロナウイルスの感染拡大が妊娠・出産にどのような影響を及ぼしているのか把握するために調査をおこなっています。今回、平成30年1月から令和2年7月までの妊娠届出数の状況について自治体に照会し、取りまとめ、その結果を公表しました。
妊娠届とは?
医療機関で妊娠が確定し、胎児心拍が確認できると、「母子健康手帳をもらってきてください」と言われることが多いと思います。そのタイミングで妊娠届を市区町村に提出すると、母子健康手帳が発行されます。その母子健康手帳の発行の際に必要となるのが、妊娠届出書です。
いつまでに妊娠届けを出さなければいけないかという期限は法律上定められていませんが、厚生労働省では、妊娠11週以下の時期での届出を勧奨しています。なお、平成30年度には93.3%の妊婦さんが、妊娠11週までに届出をおこなっていたとのことです。なお、多胎妊娠の場合、赤ちゃんの数に関わらず、1件の届け出としてカウントされます。
新型コロナウイルスの影響で届出数が減少!?
新型コロナウイルスの感染者が日本で確認されたのは、今年1月。そこから徐々に感染者数は増え、全国の感染者数が100人を超えたのが4月1日でした。その後、4月7日には、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県に対し、緊急事態宣言が発出され、4月16日には全都道府県に拡大されました。
厚生労働省の調査によると、2020年4月の妊娠届出数は75,807件で、2019年の4月と比較すると0.4%減でしたが、5月の妊娠届出数は67,919件であり、2019年5月の81,911件と比較すると17.1%減と大きく減少していました。5月以降は横ばい傾向ですが、2019年に比べると、7月までの累計数では27,806件、5.1%の減少となっています。
安心して子どもを産み、育てるためには…
心身の健康や経済面、周りのサポートの有無、医療の充実など安心して子どもを産み、育てるために必要とされる条件は各家庭によってさまざまかと思います。
ベビーカレンダーが、2016年5⽉23⽇〜2019年5⽉23⽇に出産し、現在妊娠中ではない経産婦さん703名を対象におこなった調査でも、「新型コロナ流⾏前に第2⼦以降を希望していたママのうち約32%が妊娠を延期または諦める」という結果が出ています。
その理由として、
●新型コロナウイルスの特効薬やワクチンがないなかで妊娠·出産することは、⺟体にも⽣まれてくる⾚ちゃんにもリスクが⼤きいと思ったため。
●⽴ち会い出産や、産後⼊院中に家族の⾯会ができないのはネックだと考えた。
●経済的な不安が増えたため。
などが挙がっていました。
新型コロナウイルスの感染拡大が妊娠届出数の減少にどの程度影響を及ぼしたのかは、今回の調査では明らかにはなっていません。ですが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、勤務先の休業や仕事の減少し、世帯収入が減少したという家庭も少なくありません。また、日本生殖医学会による不妊治療に関する提言(※1)や、感染予防にともなう産院の対応(※2)などの影響もゼロではないと思われます。
新型コロナウイルスの感染者数は全国的に見ても下げ止まりの印象ですが、これから寒くなり、今後感染者数を始め重傷者・死亡者がどのように推移するか予断を許さない状況かと思います。今後も、新型コロナウイルスの影響が妊娠・出産にどのような影響を及ぼすのか注視し、さまざまな情報を発信できればと思います。
※1)2020年4月1日、日本生殖医学会では、日本で新型コロナウイルス感染の急速な拡大の危険性がなくなるまで、あるいは妊婦さんが使用できる予防薬や治療薬が開発されるまでを目安として、不妊治療の延期を選択肢として患者さんに提示するよう推奨する旨の提言をしました。
※2)新型コロナウイルスの感染予防の観点から、妊婦健診の間隔を延ばしたり、超音波検査の回数を減らす、パートナーの立会いやご家族の面会を制限している施設があります。