太極拳に興味を持ったきっかけ
42歳のころ、とある町で鍼灸師として仕事をしていました。人口2,000人ほどの小さな町の古民家を借りて鍼やお灸の施術をする中、患者さんとの会話の中で時折耳にする「太極拳」という言葉。中国で生まれた拳法である一方、健康体操の側面のほうが有名で、日本でも早朝の公園などでゆっくりと動いている様子が見られる太極拳。名前と雰囲気は知っていても、そう身近な存在ではありませんでした。
ところが患者さんの中で何人か町の太極拳教室に通っている人が現れ、そのうちに太極拳教室の先生の妹さんが治療に来るようになったのです。妹さんの話では、先生は3年ほど前から太極拳を教えていらっしゃるとのこと。町を出て生活していた先生が太極拳を学び、ある理由から故郷の町に戻ったのをきっかけに教室を始めたそうです。
治療の合間に妹さんから先生や太極拳の話を聞くことで、私は少しずつ太極拳に興味が湧いてきました。
70歳近くでも肌ツヤ良しで若々しい太極拳の先生
太極拳について興味は湧いたものの、まだ教室に通うことまでは考えていなかったある日のことです。先生の妹さんから、先生と同居している高齢のお母さんの訪問治療を依頼されました。先生は太極拳の教室をしながら、同居しているお母さんの介護をしていたのです。
数日後、町の中でも高台にある先生のご自宅に伺いました。太極拳の練習場付きのご自宅で先生と初めての対面。先生は70歳に近いご年齢にもかかわらず、姿勢良し、スタイル良し、肌ツヤ良しの若々しさ。介護の疲れなど微塵も感じさせませんでした。
先生のように年齢を重ねられたらどれほどすてきだろうと初対面の私ですら思うくらいの輝きに、私は思わず「太極拳の体験に行きたいんですが」と言葉を発していました。町での練習は週に2回。好きなときに参加できるとのことでした。先生にお会いした日がちょうど練習日だったため、私は仕事終わりに練習を覗きに行くことにしました。
規則性のない動きに悪戦苦闘
町のホールを借りておこなわれていた練習には、下は小学生から上は80代まで老若男女20人ほどが参加していました。先生の丁寧な指導と活気あふれる教室の雰囲気に心を決めた私は、その日のうちに入会申し込みをすることに。会費は月額3,000円とリーズナブルで、ユニフォームもカンフーパンツとカンフーシューズのみ購入するだけでよいという点も、入会を決めた理由の一つでした。
それから毎週1回、太極拳教室に通う日常が始まりました。ただ、やってみると本当に難しく、先生の動きをまねて動くことはできても、いざ「じゃあやってみて」と言われてもまったくできません。
これまで縁のなかった、中国武術の規則性のない動きに私は悪戦苦闘しました。あまりにも覚えられないので、最初の半年くらいは教室の方向に足が進まずさぼりがちになるほどでした。
けれど私の心情を察した先生が、お母さんの治療の後に個人レッスンの時間を設けてくださったおかげで、少しずつ太極拳の動きに体がついていくようになりました。
出産を経て一生涯続けることを決心
太極拳を初めて3年ほどがたち、検定にも挑戦して楽しさも感じてきた矢先、46歳で妊娠がわかりました。
出産に対する不安も、出産直前まで太極拳を続けることで打ち消されたように思います。その経験から、太極拳は体を健康にするだけでなく、心の安定も図る要素があるように思えました。
その後、私は無事に出産し、産後1カ月ほどでまた太極拳を再開しました。私の人生の中で一番のチャレンジだった高齢出産を心身ともにラクにしてくれた太極拳は私の宝です。
まとめ
太極拳を始めてからまだ7年しか経っていませんが、毎日太極拳を続けることで、今、体がどのような状態にあるか、心がどのような状態にあるかをなんとなく感じられるようになりました。太極拳のゆっくりとした動きは、自分自身の心と体に向き合うための大切な時間を生み出してくれるようです。
太極拳と出合えたおかげで、高齢での出産はなんとか乗り切れましたが、これから経験するであろう50歳からの体の変化に抗うためにも、私は一生涯太極拳を続けていきたいと考えています。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
イラスト/サトウユカ
ウーマンカレンダー編集室ではアンチエイジングやダイエットなどオトナ女子の心と体の不調を解決する記事を配信中。ぜひチェックしてハッピーな毎日になりますように!
著者:陽
20代で出産した娘が成人式を迎えた矢先、46歳で妊娠。現在、2歳女児の子育てに奮闘中の鍼灸師。太極拳と書道が趣味で、着物を愛するレトロ母。20年前と今の子育ての違いに驚きと新鮮さを感じる毎日。