日々の生活の積み重ねが「老け見え」に影響
――同じ年齢でも、若々しく見える人もいれば老けて見える人もいます。その違いはどのようなところにあるのでしょうか?
工藤先生 細胞には寿命があるので、誰もが年齢とともに老化をしていきます。ただし、すべての人が年齢通りの老化をしていくわけではないんですね。年齢よりも老けて見えるか見えないかには、生活環境や食生活など、日々の積み重ねが影響を与えている部分が大きいんです。
――どのような生活習慣が老けて見えることにつながるのでしょうか?
工藤先生 細胞は酸化ストレスや糖化ストレス、紫外線ストレスなどによってより老化してしまいます。
酸化ストレスに関しては、人間には長い間、紫外線や有害物質による酸化と闘ってきた歴史があり、体内には抗酸化作用という対応能力が備わっているので過度な心配は不要です。ただ、抗酸化作用を十分に働かせるためには、たばこを吸わないことです。
気を付けたいのは、糖化ストレスです。糖化とは糖質とたんぱく質が熱に反応して起きる現象で、糖化が起きると老化や病気のもとになる物質「AGEs」が生成されます。
そもそも人間は飢餓状態で生きていた時代が長く、ここ数十年の飽食の時代に体が慣れていないんです。そのため、体には糖化に対抗するメカニズムができていません。実際、血糖値を上げるためのホルモンは複数ありますが、下げるホルモンはインスリンしかないのが現実です。
AGEsは、炭水化物や甘いお菓子といった糖質をたくさん摂取して血糖値が急激に上がったときに生成されやすいといわれています。高血糖が続くと糖尿病になってしまいますし、血糖値のコントロールは若々しさや健康の維持において重要です。
食事の順番や日常動作を意識する
――先生は毎日、たくさんの患者さんを診察していらっしゃいますが、糖尿病など生活習慣病の患者さんは年齢よりも老けて見えるのでしょうか?
工藤先生 一概には言えないのですが、糖化が進んで糖尿病と診断された患者さんの中には、ご自身の肌のことや見た目のことを気にされている方もいらっしゃいます。
――体の糖化を防ぐためには、どんなことに気を付ければいいのでしょうか?
工藤先生 まずは食生活です。炭水化物、野菜やきのこ、海藻類、たんぱく質をバランスよく摂取することが基本なのですが、食事の最初に炭水化物を食べると血糖値がポーンと上がってしまうんです。ですから、初めに野菜や汁物などを食べ、5分ほどたってからご飯やパンといった炭水化物を食べると血糖値の上昇が緩やかになり、糖化の予防に役立ちます。
あとは、運動も大切です。
――どんな運動をどれくらいするのがいいのでしょうか?
工藤先生 理想は1日に30分、週2~3回、少し息が上がる程度の運動です。ただ、現代人は忙しいですから、運動習慣を維持することは難しいですよね。
日本抗加齢学会の先生方の間では、ちょっとした日常動作で消費エネルギーを上げる「NEAT(ニート)」でもいいので、運動を指導していきましょうという話が出ています。
――NEATでは、例えばどんな日常動作をするのがいいのでしょうか?
工藤先生 女性は家事を利用するのがいいと思います。私の場合、家事を効率よくおこなうことをやめて、無駄に動くようにしています。
――もう少し詳しく教えてください。
工藤先生 今までは、家の中で動くルートを考えて、「これとこれを持って行って、あそことあそこで用事を済ませてしまおう」と、効率化を意識していたんです。でも、万歩計で測ってみたら全然、歩けていなかったんですね。今は、家の中の家事や用事に一つひとつ取り組んで消費エネルギーや歩数を稼ぐようにしています。
日光を避け過ぎるのも体に良くない
――紫外線ストレスに関しては、どういったことに気を付ければいいのでしょうか?
工藤先生 これまでのさまざまな研究で、車の運転を職業にしている方は日光を浴びる部分の老化が進むなど、紫外線が老化に影響を及ぼすことがわかっています。ただし、日光を避け過ぎるのも逆効果なんです。
――どういうことなのでしょうか?
工藤先生 日光に当たる時間が少ないとビタミンDが生成されなくなってしまうんです。ビタミンDが不足すると、カルシウムやリンを十分に吸収できなくなり、骨の新陳代謝のバランスが崩れてしまいます。そうなると、特に更年期以降の女性は骨粗しょう症の原因となります。
手のひらを日光に当てるだけでもビタミンDは生成されるので、一日に15分程度は意識して太陽の光を浴びることをおすすめします。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
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取材・文/熊谷あづさ
ライター。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。