子どものころに祖父母に抱いた疑問
子どものころ、祖父母の家に行くといつも同じ光景が広がっていました。
テレビが流れたままの居間で、座って新聞を広げている祖父と、その横で針仕事などをしている祖母。年中出しっぱなしのこたつのテーブルの上にはいつも何かしらの食べ物(お菓子や漬物、果物など)とお茶が置いてあって、祖父母はそれを時折口に運びつつ、眼鏡を掛けたり外したりしながら、それぞれの作業に没頭していました。
そんな祖父母の姿は、家で見る自分の両親の姿とはまったく違っているのに、父方の祖父母も母方の祖父母も、他の親戚の老夫婦や友人の祖父母も、なぜか似通っていて、子どもながらに「夫婦は、年を取ったらこうやって過ごすものなのか」という思いとともに、3つの疑問を抱きました。
1つは、なぜ眼鏡を着けたり外したりするのか。もう1つは、なぜ一年中こたつがあるのか。そして、なぜ祖父はいつも新聞を読んでいるのか。「どうしても知りたい」というほどの疑問でもなかったので、特に誰かに聞いたりもしなかったのですが、毎回疑問に思っていました。
2つの疑問は解けたけれど
子どものころに抱いた3つの疑問のうち、2つは、年齢を重ねるにつれて自分なりの答えが出ました。
1つ目の「なぜ眼鏡を着けたり外したりするのか」については、単純に老眼だったのだろうと思います。
2つ目の「なぜ一年中こたつがあるのか」については、いくつか答えの候補があるのですが……。まずは、こたつ布団の上げ下ろしが大変だったのではないかということ。それから、年齢とともに暑さ寒さを感じる感覚も鈍くなるので、あまり気にならなかったのではないかということ。他にも、寒暖差の激しい地域であることや、古い家で床が冷たいからなどが思い当たりました。
こうして残る疑問は1つになったわけですが……。最後の1つはなかなか理由が思い当たりませんでした。
実は小さいころに一度だけ、「新聞っておもしろいの?」と祖父に尋ねたことがあります。そのときの答えは「たまにおもしろい記事があるよ」でした。子どもから見れば、小さい文字が恐ろしくたくさん並んでいて、大層難しい読み物のように感じていただけに、楽しいから読むわけではないのかとますます謎が深まった瞬間でもありました。
そんな疑問でしたが、年を経て、おじいさんになった父から回答を得ることになったのです。
年を経て現在の父が、同じ姿に
あれから時がたち、リタイアした父もまた、祖父たちと同じように新聞を読むようになりました。今までも毎朝読んでいる姿は見ていたのですが、リタイア後は読み方が変わりました。
以前は全体を流し読みし、特定の記事だけをじっくり読むような読み方でしたが、最近は端から端までじっくり読むように。そのせいか、以前は新聞を縦半分に折り畳んで読んでいたのが、今はテーブルに広げて読むように。
父は老眼がひどいこともあり、新聞を読むときは必ず老眼鏡を掛け、傍らに虫眼鏡を用意しています。そして、眼鏡を着けたり外したりする代わりに、虫眼鏡を出したりしまったり、近付けたりしているのです。
そんなある日の会話中、父は「昔は年寄りってなんであんなにじっくり新聞を読んでいるのだろうって思っていたけれど、今ならわかる」と言うのです。父いわく、「時間ができて、今まではじっくり読めなかった記事もじっくり読めるようになった」ということが時間をかけて新聞を読むようになった元々のきっかけだけど、「その結果、読みたい記事も増えた」とのこと。
また、昔に比べて集中力などが落ちて、本を読むのがつらくなってしまったけれど、新聞の記事はちょうど読み切りやすい長さになっているから、ついそちらを読んでしまうということでした。
まとめ
子どものころは読書好きだった父ですが、社会人生活の中で本を読む習慣が薄れてしまい、リタイア後、久しぶりに本を読んで大層驚いたそうです。集中力が落ちてしまいずっとは読めない、記憶力と理解力が落ちて度々前のページに戻らなければ話わからないなど、1冊読むのが大変で、おっくうになってしまったとのこと。
一方、新聞は毎日内容が変わる短編集のようなもので、読みやすいのだそうです。そんな理由があったのかと非常に驚きました。それと同時に、年齢による衰えで読書もつらくなるのだと衝撃を受けた私は、「時間ができてから読もう」ではなく、長く読書を楽しむためにも、今から日々の読書習慣を持ちたいと思いました。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
イラスト/やましたともこ
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