田舎での同居をスタート
会社の同僚だった彼は、やさしくて仕事もできるまじめな男性でした。同じ業務をこなす中で仲良くなり、3年付き合った後に結婚。彼は、兼業農家の一人息子で将来は家業である農業を引き継ぐ予定でした。
私の実家は既に姉が結婚して両親と同居をしていたので、私は彼との結婚を機に実家を出て、将来的に彼の実家で義両親と同居をしてもいいと思っていました。そして、結婚してすぐに義父が農作業中の事故で足を骨折。農作業の大半を義父が担っていたので、早めに戻ってきて欲しいと義父母に懇願されました。そして、仕事の引継ぎを終えてから義実家に戻ることになったのです。
プライバシーなんてあったもんじゃない!
生活拠点を田舎へ移してから、慣れない生活に戸惑うことも多かったです。夫の実家界隈には親戚がたくさん住んでいて、冠婚葬祭などの準備はもちろん、農作業の下準備なども親戚一同でおこないます。また、地域の昔からのしきたりも多々ありました。都会からやってきた嫁をひと目見ようと、頻繁に誰かしらがわが家を訪れるように。その都度、私はお茶やご飯の支度をしてもてなしていました。
一番驚いたのは、ある日「見せてもらうよ、婚礼家具」と言って親戚だけでなく、近隣の人までがわが家にやってきたことです。この地域では昔からあるしきたりらしく、新居が建つとどんな人がどんな物を家に置いているか、品定めのようなことをするのだとか。あまりにもプライバシーへの配慮がない行動に私は唖然としましたが、夫は「ここでは普通だから」と笑っていました。
距離が近いからこそのメリット
そんな田舎暮らしも何年か過ぎると、常に誰かから見られている状況にも慣れていきます。幸い義父母は理解ある人たちで、この古いしきたりを見直したほうがいいのではないか、と言ってくれていたので今では婚礼家具のお披露目会をやらない家も多いです。
近所や親戚が親密すぎてプライバシーがなくて悩んだこともありましたが、反対に親密だからこそ、困ったときは手を貸してもらえます。実際、義父が骨折したときにも、農作業を親戚一同で助けてもらいました。
また、子育てをしているときもいろいろな人が助けてくれたのはありがたかったです。近所の人たちは子どものことをわが子同然にかわいがってくれましたし、時には親のように叱ってもらえたことも。孤立せずに子育てができたのは、親密な関係性があったからこそだと思います。
正直、今でもプライバシーが守られた環境でゆっくりと生活したいという気持ちはあります。私たちが住んでいる場所は地域の特性やしきたりがあり大変でしたが、親密だからこそ助けあえるという利点もありました。今は、近所の人たちとの関係に居心地の良さを感じています。
著者/里中祥子
作画/ちゃこ
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