「子どもだけで留守番禁止」という条例は批判され、取り下げとなりましたが、この条例に至った社会課題が解決されたわけではありません。子育てしやすい社会を作るためには、批判して終わりではなく、「何ができるのか?」を考えることが大切だと考えます。
「子どもだけで留守番禁止」改正案とは?
今回の騒動の発端となったのは「埼玉県虐待禁止条例」に、小学3年生以下の児童を住居やその他の場所に残して外出するなど、児童の『放置』を禁止するというもの。
この条例が可決されたとしたら、保護者のいない自宅で子どもが留守番することはおろか、買い物やゴミ捨てでさえ子どもを家に残すことは違反とされる可能性がありました。また、子どもだけで公園で遊ぶときや学校の登下校さえ、この条例に違反することになると考えられます。そうすると、保護者の同伴が必要になるでしょう。
たしかに諸外国では当たり前とされていることかもしれませんが、ベビーシッターの普及率や夫婦の子育てのスタンス、働き方など、その背景は日本と大きく異なっており、同じ土俵に日本をあげられるかというと、疑問が残ります。
しかしこの改正案には、子どもが自宅や車内に放置されるなどして、事故が相次いだことが背景にあります。論点が違っていたといえど、これは解決すべき社会課題と言えるでしょう。
浮き彫りになった社会課題
育児の専門家である大阪教育大学教育学部教授・小崎恭弘先生は、今回の騒動の背景には以下のような社会課題があると話しています。
小崎先生
子ども達の育つ社会環境は、以前に比べて悪化しています。児童虐待の通報件数は、年々増加の一途を辿り、過去最高を更新する中、それらの対応を地域や社会全体でおこなうことが求められています。
つまり、議会が条例の制定を進めた根底には「児童虐待をなくす」という思いがあったことは忘れてはなりません。
それでもここまで批判が集まったのは、条例の内容と実際の子育てをしている保護者の意識や生活が、あまりに違っていたことが考えられます。政治と市民の認識が大きくかけ離れているという本質的な課題を感じます。
そもそも政治が目指しているものは、子どもたちの育つ環境の悪化を防ぎ、子どもとその保護者が安心して生活ができるようにすることです。今回の条例は、その前提の取り組みが不十分な中で、市民のみに負担を押し付けるような構図が見られました。
つまり、放置しないための環境作りは保護者に丸投げしていたということ。それが多くの保護者や関係団体などの反発を招いたのでした。
批判して終わりじゃない!今できることは…
小崎先生
今回の騒動では、子育て環境の不整備や待機児童対応の量的不十分さなどが、より鮮明化されました。これらの責任の一端は政治にもあるはずなのですが、そのことを棚に上げている状況も批判の対象となっています。
「子どもは社会の宝」「子育ては未来への投資」という視点を持つことが、より一層求められています。それは保護者のみならず、また自治体や行政だけでなく、すべての人が「子ども」という存在の意味や大きさに気づき、その子どもを育てる「子育て」を支える文化の構築が必要なのです。
まずはその一歩として、自分の身近にいるすべての子どもに笑顔を向けてほしいと思います。子どもに温かくやさしい社会を作りましょう。
誰もが『子育て』を自分ごとに
「埼玉県虐待禁止条例」の改正案では、子どもがひとりでいることを『放置』と定義し、「放置=虐待」という考えが根底にあったようです。子育て環境の実体と政治家の感覚の食い違いは、この点にあるような気がしています。
また、子どもが健やかに育つ環境を本当に作りたいのであれば「子どもだけで留守番させてはならない」のではなく「子どもを留守番させずに済む環境や制度を整えなければならない」はずです。
今回のケースでは、条例に直接関係のない埼玉県外や子育て層以外の人も問題視していたことがSNSを見てもわかりました。中には瞬時に声をあげ、署名を集めた保護者もいたようです。たくさんの声があがったことが、改正案の取り下げにつながったのではないでしょうか。
子どもたちの育つ社会環境をよくするためには、すべての人が子育てを自分ごとと捉え、動くことが大切です。ベビーカレンダー編集部でも、子育て環境の向上を目指し今後とも発信を続けていきます。
そして、もしも虐待やネグレクトの疑いがある子どもが近くにいたら、ためらわずに児童相談所へ連絡し、子どもたちを守りましょう。
▼児童相談所全国共通ダイヤル
育児や子育てに悩んだときなどの相談窓口です。
全国共通ダイヤル「189」に電話をかけると、発信した電話の市内局番等から当該地域を特定し、管轄する児童相談所に電話が転送されます。
子どもが虐待されているかもと思ったとき、自分の子育てがつらくて子どもにあたってしまうときなどに、専門家に相談することができます。
電話番号:189(いちはやく)
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