携帯電話に映った娘の顔
入院中に、軽度の認知症と診断された母が自宅へ戻ってきました。どんな状況か帰省して確認すると、たしかにただの物忘れとは違うような母の異変を目の当たりにすることに。それからは折を見て電話をかけて、体調はどうか、困っていることはないかと、母のガス抜きも兼ねて話をするようになりました。
そんなある日、私からは電話していないのに「電話した?」と母から連絡があったのです。「ううん、してないけど」と答えると「電話が鳴った気がして携帯を開けたらあなたの顔が見えたから、電話もらったんだと思って」と母。しかし、母の使っている携帯電話は旧式のガラケーで、もちろん、相手の写真が出るような機能は付いていません。不審に思い「顔が見えたって、どういうこと?」と聞くと、一瞬黙り込んだ母はバツが悪そうに「じゃあいい」と電話を切ってしまいました。
そのとき、私は母が退院してきたばかりのときに兄から聞いた話を思い出したのです。
実家の冷蔵庫をあさる近所のおばさん
それは母の退院後、帰省した私を兄が最寄り駅まで迎えに来てくれたときのことです。実家へ向かう車中、兄がおもむろに「この間、2階にいた母が、下で物音がするから降りていくと、近所のおばさんが家に上がり込んで冷蔵庫をあさっていたって言うんだよ」と話し始めました。
そのおばさんは私も知っていますが、とても親切な人です。それに、そんな大事件があったなら、聞くまでもなく母からその話をするだろうと待ってみましたが、帰省中、母はその出来事について何一つ語りませんでした。忘れてしまったのか、そもそもそんな出来事はなかったのか。だいたい、冷蔵庫をあさっていた後の続きがなかったことにも違和感があります。
電話に私の顔が映った話といい、近所のおばさんが冷蔵庫をあさっていた話といい、これは母が幻覚を見たと考えるのが最も自然だと思いました。
幻覚は認知症の症状の1つだった!
母から不可解な電話があった直後、私は認知症に幻覚症状があるのか検索してみました。すると、幻覚は認知症の代表的な症状の1つだと書かれていました。認知症について理解が乏しい私は、認知症=記憶障害と単純に考えていて、幻覚が症状の1つとは知りませんでした。そして、幻覚の中でも、母のように実在しないものが見える状態を正確には「幻視」というそうです。「家の中に知らない人がいる」「亡くなった妻や夫がいる」など、周りの人には見えなくても、本人には実際にはっきりと見えているのだとか。具体例を見てみると、家に誰かが盗みに入ったり、子どもの顔が見えたりするのは、よくあるパターンのようでした。
では、今後母の幻視と直面したとき、私はどうすればよいのかを調べてみました。まずは否定しないこと。強く否定すると、自尊心が傷つけられたり、ストレスを感じたりして、症状が進む場合もあるのだそうです。「もういなくなったから大丈夫」「追い払ったよ」などと安心させ、話題を変えて気分転換させるのが良いということでした。
まとめ
母の幻覚とおぼしき症状を目の当たりにして、一瞬動揺してしまった私。しかし、認知症について知れば知るほど、おかしな言動を責め立てるのではなく、寛容に寄り添うことが大事なのだと教えられました。次からは、もう少し気持ちに余裕を持って対応してあげたいと思いました。
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※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
イラスト/マメ美
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著者:あらた 繭子
大学生と高校生の子をもつアラフィフのフリーライター。長年の無茶な仕事がたたり、満身創痍の身体にムチを打つ毎日。休日のガーデニングと深夜のK-POP動画視聴が趣味。