母乳は栄養面、免疫学的側面だけでなく、たくさんの利点があります。そのため、WHO、UNICEFをはじめ、わが国でも母乳育児をすすめるさまざまな動きがみられています。
このような動きのなか、子育てをしているママたちの実際はどうなのでしょう!?今回は、ベビーカレンダーがおこなったアンケート調査の結果と、平成27年に厚生労働省がおこなった乳幼児栄養調査の概要を比較しながら、授乳の実際についてお話ししたいと思います。
●回答者の属性
母乳で育てたいと考えているママは9割
平成27年に厚生労働省がおこなった乳幼児栄養調査の概要をみると、妊娠中に「ぜひ母乳で育てたいと思った」という回答は43.0%、「母乳が出れば母乳で育てたいと思った」という回答は50.4%。この2つの回答を合計すると、母乳で育てたいと思った方の割合は9割を超えていました。
一方、ベビーカレンダーのアンケートでは、“妊娠中にどのような授乳形態で育てたいと思っていたか”という設問に対して、「母乳で育てたいと思っていた」と回答した方は68.5%となりました。
厚生労働省の調査結果と比べると少ないように感じますが、「母乳でもミルクでもどちらでもよいと思っていた」25.3%の回答も合わせると、9割を超え、全国的な調査とほぼ同様の結果となりました。
●妊娠中にどのような授乳形態で育てたいと思っていたか
実際の母乳育児の状況は?
厚生労働省の調査結果では、生後1カ月の母乳栄養の割合は 51.3%、混合栄養は45.2%、ミルクのみは3.6%でした。
一方、ベビーカレンダーがおこなった“産後の授乳状況”に関するアンケートの回答を見てみると、「母乳のみ」が55.1%、「混合栄養」が40.7%、「ミルクのみ」が4.2%でした。
ベビーカレンダーの調査結果では、授乳の時期による比較はできませんが、50%以上のママが母乳育児をおこなっており、混合栄養のママも含めると95%以上のママが赤ちゃんに母乳を与えているということがわかります。
●出産後の授乳形態
母乳のみでない理由で最も多いのは「母乳が出にくい・出なかった」
厚生労働省の調査では、妊娠中に「ぜひ母乳で育てたいと思った」と回答したうちの67.6%が母乳育児をおこなっていました。その一方で、「母乳が出れば母乳で育てたいと思った」と回答した方は、混合栄養の割合が最も高く、55.6%だったとのこと。
アンケートで、産後の授乳状況を“母乳とミルクの併用”と“ミルクのみ”と回答した方に母乳栄養でなかった理由(※複数回答可)を聞いたところ、最も多かったのは「母乳が出にくい・出なかった(45.6%)」という回答でした。
自由記載の回答を見ても、「母乳が足りないと思ったから」「母乳だけでは足りないときや夜ぐっすり寝てもらうため」「たくさん飲んだため、母乳製造が間に合わなかった」「成長にあたって母乳を飲む量が増え、母乳と母乳の間が短くなりました。母乳を飲む回数も増え、張りが弱くなり、長く乳首をチュッチュするので、母乳とミルクを考えて摂取させています」など、“母乳の量が足りなかった”という類の回答が多く見られました。
また、「乳頭が切れたり傷付いたため(15.0%)」「乳頭の形が悪くうまく吸ってもらえなかった(11.3%)」という回答もあり、乳頭トラブルが一因ということもうかがえます。
赤ちゃんが生まれたら、母乳がたくさん出て、赤ちゃんもゴクゴク母乳を飲んで、ぐっすり眠る……ということは、ほとんどありません。母乳栄養をおこなうには、やはりママのがんばりも必要になってきます。母乳育児を確立するためには、出産後より頻回に授乳することで、母乳がつくられ、分泌されていきます。
ですが、ママが上手におっぱいを含ませられなかったり、赤ちゃんが上手におっぱいを含めなかったりすると、効果的な授乳がおこなえません。その結果、乳頭が傷付き、トラブルを抱えてしまうことに。効果的な授乳がおこなえないということは赤ちゃんが母乳を飲みとれないということであり、その結果、「赤ちゃんの体重が増えなかった(24.4%)」ということにつながり、ミルクを補足することになったのではないでしょうか。
直接授乳と哺乳瓶による授乳を比べてみると、赤ちゃんのお口や舌の動きに違いがあり、哺乳瓶の方が赤ちゃんは楽に飲むことができます。ですので、ママも「ミルクの方がよく飲んだ(6.9%)」と感じたのかもしれません。
●母乳のみでなかった理由(※複数回答可)
・母乳が出にくい・出なかった(45.6%[54人])
・赤ちゃんの体重が増えなかった(24.4%[39人])
・母乳だけで育てようとは思っていなかった(16.9%[27人])
・乳頭が切れたり傷付いたため(15.0%[24人])
・乳頭の形が悪くうまく吸ってもらえなかった(11.3%[18人])
・ミルクのほうをよく飲んだため(6.9%[11人])
・その他(33.8%[54人])
10年前と比較すると母乳育児の割合は増加傾向
厚生労働省によると、10年前の調査結果と比較して、1カ月時、3カ月時ともに、母乳育児の割合が増加しているとのことでした。そして、対象者の就労状況も併せて比較したところ、出産後1年未満で働いている方の母乳栄養の割合が、26.7%から49.3%(プラス22.6ポイント)に増加していました。
母乳栄養でなかった理由を聞いたアンケートの自由記載の回答には、「保育園に預ける予定だった」「ミルクも飲めるとほかの人に預けられるから」など、母乳栄養だとほかの人に預けるときに支障があると考えている回答が多く見られました。たしかにそのような考えもあると思いますが、厚生労働省の調査結果から、ほかの人に預けながらも母乳育児は可能ということもうかがい知ることができます。
また、産後1カ月時のママたちが抱えている悩みごとのひとつに授乳に関することがあげられます。そして、それが育児不安の要因にもなっているといわれています。
母乳栄養にはたくさんの利点があり、「ぜひ母乳で赤ちゃんを育てたい」というママも多くいらっしゃいますが、なかなか妊娠中に思い描いたように子育てができないと感じるママも多いのではないでしょうか。
子育てにおいて、「母乳栄養かどうか」ということより、少しでも赤ちゃんに母乳を与えられたということ、母乳あれミルクであれ、ママが無理せず自分のペースで授乳できていることが大切なのではないかと思います。
参考:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000134460.pdf
●調査概要
・調査期間:2017年3月24日(金)~3月30日(木)
・調査方法:インターネット調査
・集計方法:単純集計
・対象者:2015年1月~2017年2月に出産した全国のママ
・有効回答数:356人
・調査機関:自社調査
著者:助産師 REIKO
医療短期大学専攻科卒業後、大学附属病院NICU・産婦人科病棟勤務、私立大学看護学部母性看護学助教を経て、現在ベビーカレンダーで医療系の記事執筆・監修に携わる。