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人生をかけた商談当日、母の形見の時計を着けていった私「その時計、どこで手に入れた?」⇒驚きの過去が判明

会社員の私。最近現在の部署に配属になりましたが、中学卒業後ずっとこの会社で働いています。というのも両親を早くに失い、親戚の世話になっていたため、早く自立したかったのです。そんな経験からも、実力が認められて任される仕事が楽しくて仕方ありません。唯一の気がかりは、高飛車な先輩Aの存在でした。

 

横暴な先輩A

先輩社員のAは、有名な私立大学出で、麻布十番に実家があるお坊ちゃまであることを鼻にかけ、中卒の私をいつも見下しています。それだけではありません。毎回、あと少しで契約締結という段階の私の仕事を、「例の案件は俺が引き継ぐ」と横取りしていくのです。

 

この部署で一番新米なのは私で、次がA。そのため、自分より後輩で低学歴な私からなら、いくら仕事を奪ってもいいと考えているよう……。その一方で、彼が上司に隠れて業務をサボっている姿を、私はたびたび目撃しています。実際、口ばかりで能力的にはほとんど頼りにならないのです。

 

しかし、こういうことは自分に返ってくるもの。いずれ痛い目を見るのは彼のほうだと思い、私は目の前の仕事に集中することに。そんなとき、仕事中に突然部長から呼び出しがありました。

 

重要案件を任されたけれど?

部長の話とは、重要案件の担当のご指名。「この部署では私はまだ新人……」と驚きましたが、「君なら絶対大丈夫!」と太鼓判を押してくれました。というのも実は部長、私が就職したときの部署で指導をしてくれた昔からの上司で、今までの仕事ぶりを信用してくれたのです。

 

「お任せください。ご期待に添えるよう、尽力します!」と私は気を引き締めて承りました。

 

サポートにもう1人先輩をつけるよう言われ、人探しをしていたのですが、さっそく名乗り出てきたのはあのA。「俺に任せていただければ安心ですよ!」と自信たっぷりです。

 

部長は、Aを任命するかどうかとても迷っている様子でした。どうやら、彼に対して少し不信感を抱いているようでしたが、他に立候補者も出ず(皆Aに関わりたくない様子)、2人で協力するという前提で承認することに。

 

しかし私は、「コイツに任せたら絶対にうまくいかない」と直感。実際、リサーチもプレゼンの用意も何も始めない彼のことは放っておいて、ひとりで商談資料を作成したのです。

 

 

人生をかけた商談日

そして迎えた商談当日。会社の今後を左右するほどの大きな案件です。社運、いえ、私の社会人としての人生をかけた商談とも言えるでしょう。家を出るとき、母が亡くなる直前に身に着けていた形見の腕時計を自分の腕に着けました。最期まで私のことを案じ、見守っていてくれた母……。これは大事な勝負のときのお守りです。

 

通された会議室で、いよいよ商談スタート。私が先方の社長と握手をすると、社長が下を見ながら一瞬固まっていました。何かあったのかと少し気になったものの、横からAがしゃしゃり出て、勝手に口頭で商品説明を始めたのです。

 

しかし、彼の話は始終意味不明。「弊社のこの商品は……。あれ……えっと……」の連発に、社長も顔をしかめています。私は自作の資料をテーブルに出してさりげなく説明を追加し、Aの間違いを訂正することに。すると、気分を害されたのか、Aが社長の前で私をこき下ろしたのです。

 

「お前、資料を出すのが遅いんだよ! すみません社長、こいつはプロジェクトから外すので……」

 

形見の腕時計がつないだ運命

ところがそのとき。社長はAを無視して目を大きく見開き、小刻みに震え出したのです。さらに私のほうに身を乗り出し、「その時計をどこで手に入れたのですか……?」と尋ねてきました。

 

「あ、この腕時計ですか? これは20年前病気で亡くなった母の形見です」。驚いた私が答えると、社長はうつむいて言いました。「そうですか、お亡くなりに……。あなたのお母様は私の命の恩人です」

 

社長がしてくれた昔話は、懐かしい母が彼を救ったというエピソードでした。当時、親の借金を返しながら残業続きの会社でハラスメントに遭い、精神を病んだ末に辞職。生きる気力を失って川に飛び込んだ彼を水中から引き上げ、「生きていれば何とかなる」と励ましたのが私の母だったというのです。

 

「その時計は、ようやく再就職できた私がお礼に渡したオーダーメイドの品です。その後、お会いできなくなってあちこち探していたのですが……。お母様は病身を押して、私の救助のため川に飛び込んでくださったんですね……」

 

社長は、頬に涙を伝わせてから、「商談中に失礼。この資料は大変わかりやすい。あなたとの取引なら、前向きに検討させていただきます」と宣言しました。

 

 

A先輩が去り、私は…

するとAは、社長の話を真剣に聞いていなかったらしく、「ともかく商談成立ですかね? 俺のお手柄ってことで♪」と発言。社長はそんな彼を見て黙っていたのですが……。

 

帰社すると、すぐに私たちを呼び出した部長がAに一喝。「社長から商談中の君の様子を全部聞いた! 説明はまったく要領を得ず、資料の内容も把握していなかったと!」

 

聞けば部長は、彼の悪評を耳にして調査をしていたのだとか。仕事を怠けて私から契約前の案件を横取りしていた件だけでなく、他に不正をしていたことも発覚。結局、数日後には解雇処分になりました。

 

一方の私はというと……。あの後、無事に商談が成功。社長とは母のお墓参りにも行きました。Aが奪ったいくつもの取引先の担当に戻ることもでき、忙しいけれど充実した毎日を過ごしています。

 

--------------

母の形見の腕時計がつないだ不思議な縁。20年前の恩を忘れていなかっただけでなく、横暴なA先輩のことをすぐに見抜き、主人公の実力を評価して契約を結んでくれた社長もすてきですね。

 

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