ホルモン補充療法(HRT)って何?
女性は更年期(45~55歳ころの閉経を挟んだ約10年間)になると、ホルモンのバランスが崩れて生理が不順になり、人によっては心身にさまざまな不調が現れます。
他の病気を伴わない不調を「更年期症状」と言い、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と呼びます。更年期障害の一番の原因は、女性ホルモン「エストロゲン」の急激な低下です。
ホルモン補充療法とは、少量のホルモンを補うことでエストロゲンの減少程度を緩やかにし、更年期障害を改善する治療法です。
生理が順調でも、30代に比べて疲れやすい、眠りの質が落ちたなどの体調の崩れを感じる場合は、更年期症状が出ているケースかも。そういう場合にもホルモン補充療法を受けることで落ち着く場合がよくあります。
誰でもできる治療なの?
ホルモン剤には若干血液を固まりやすくする働きがあるため、脳卒中や心筋梗塞、冠動脈疾患などの既往歴がある人、喫煙者や血液をサラサラにする薬を内服している人はホルモン補充療法を受けられません。
過去に子宮体がんや乳がんを経験した人は、場合によっては受けられないことがあります。
これらの人で更年期障害で悩んでいる場合は、婦人科を受診して症状に合わせた漢方薬を処方してもらう方法があります。
また、高血圧や糖尿病の人や肥満の人、家族に子宮体がん・乳がんを経験した人がいる場合には、病態が悪化する可能性があるため慎重な投与が必要です。最初にしっかり検査をし、医師とよく相談しましょう。
ホルモン補充療法の方法は2つ
ホルモン補充療法には主にエストロゲンだけを補う方法と、エストロゲンとプロゲステロンを併用して両方を補う方法があります。
エストロゲンだけを半年以上使うと、子宮内膜が増殖して子宮体がんのリスクが高まることが知られています。そのため、子宮のある人には、内膜の増殖を防ぐ働きがあるプロゲステロンを併用します。併用により、子宮体がんのリスク軽減が可能です。
手術で子宮を摘出した場合には、子宮がんの心配がないので、エストロゲンだけを補う方法で治療をおこないます。
ホルモン補充療法の薬の種類と費用
ホルモン補充療法の薬には、飲む・貼る・塗るの3タイプがあります。
貼る、塗るタイプは、飲み薬に比べると胃腸や肝臓への負担がかからず副作用が少ないですが、かゆみ・かぶれなどが出る場合があります。
飲むタイプは手軽に用いることができて便利ですが、胃腸や肝臓に負担がかかることがあります。
他にも、腟がかゆい・乾くなどの症状がある場合には、腟に入れる錠剤を処方する場合も。また、更年期の症状に対応した漢方薬を併用する場合もあります。どの薬を用いるかは、患者と医師で相談して決めます。
いずれの薬も家で自分で用いますが、症状の確認や薬の処方などのために2〜3カ月に1回程度の通院が必要です。
ホルモン補充療法は保険適用で、薬代は病院や使用する薬剤によって異なりますが、だいたい月に2,000〜3,000円。漢方薬と併用する場合は、4,000〜5,000円程度です。
どんな症状に効果があるの?
ホルモン補充療法で不足していたエストロゲンが補充されると、乱れていた自律神経のバランスが整い、多くの症状が改善します。主に下記の効果があり、それに伴ってイライラや気持ちの落ち込みが改善するケースも多くあります。
・ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)や発汗などの改善
・動悸など自律神経系の不調の改善
・閉経後骨粗しょう症の予防と改善
・萎縮性腟炎や性交痛などの改善
・悪玉コレステロールの低下
・コラーゲンを増やし、皮膚や粘膜に潤いを与える
・胃がんや大腸がんなどがんのリスクの低下
更年期になるとコレステロールは自然に上がりますが、ホルモン補充療法をすると下がることが知られています。
胃がんや大腸がんなどのがんリスクも低下しますが、これについてははっきりした原因はわかっていません。それでも、女性のがんで2番目に多い大腸がんのリスクが低下するのは、うれしい効果と言えるでしょう。
薬の使用し始めに副作用が出ることが
ホルモン補充療法に重大な副作用はありません。使用を始めたときに下記のような副作用が現れることがありますが、多くは薬の頻度や量を調節することで1〜3カ月で治まります。
・不正出血
・乳房のハリや痛み
・おりもの
・下腹部のハリ
・吐き気 など
・ごくまれに血栓症を引き起こすことがある
副作用の多くは薬の頻度や量を調節して改善できます。特に不正出血は多く見られますが、深刻な問題につながることは稀です。ただし、更年期以降、特に閉経後には子宮体がんの発症リスクが高くなります。
月経と異なるタイミングで予定外の出血があった場合は、子宮体がんの検査を受けてみることをおすすめします。
ホルモン補充療法で乳がんリスクが上がる、は間違い!
日本女性の9人に1人が罹患すると言われる乳がん。40代後半から増えて、60代が一番多いのが特徴です。
乳がんのがん細胞の60~70%は、エストロゲンの影響を受けて増殖するため、エストロゲンを補うホルモン補充療法が乳がんリスクを上げるのではと懸念する声が多くあります。
しかし、2004~2005年に厚生労働省研究班が調査をおこない、ホルモン補充療法経験者が乳がんになる危険性は、ホルモン補充療法未経験者の半分以下だったという結果を公表しています。
その後の研究でも、ホルモン補充療法が乳がんの発症に与える影響は、肥満やアルコール摂取、夜勤の仕事などが与える影響と同程度の小さいものであることがわかっています。
ホルモン補充療法の始めどきはいつ?
40代になって、生理が不順になったり体調に変化を感じたりしたらホルモン補充療法を検討しても良いでしょう。
不調が軽いうちに始めることで、比較的スムーズに改善できます。しかし、めまいがしたから耳鼻科を受診して……と遠回りしている期間が長いと、症状が悪化して改善まで長引いてしまうことも。
更年期世代で体の不調を感じたら、まずは婦人科を受診し、検査をしてみることをおすすめします。
ホルモン補充療法にやめどきはあるの?
数年前までは、乳がんリスクへの不安などから「ホルモン補充療法の上限は5年程度」や「60歳ぐらいになったら終わりどきを見つけよう」などと言われてしました。
しかしその後、さまざまな調査で、乳がんのリスクが高くないこと、ホルモン補充療法を長くやっている人に健康被害がないことなどがわかってきて、やめどきについての考え方も変わってきています。
今は女性の平均寿命が伸び、更年期である50代以降の人生が長くなりました。本人が「症状が改善したのでやめます」というのであれば、それもまったく問題ありません。
でも、症状が続いていて、ホルモン補充療法を続けることで症状が改善し、定期的な検査でも問題ないのであれば、期間に上限を設けなくて良いというのが、最近の専門医の間での認識です。
まとめ
更年期障害の期間や症状は、人によって大きく異なります。やめどきを自分で決めることができるのは、女性にとって大きな安心と言えるでしょう。ただし、更年期を長く快適に過ごすためには、定期的な検診を受けることが欠かせません。自治体や職場の健康診断などをじょうずに活用していきましょう。
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取材・文/かきの木のりみ
4つの編集プロダクションで紙媒体の編集をしつつWebの学校に通い、Webと紙両方の編集に携わるようになって約20年。スポーツは見るのもやるのも好きなのだけど、最近はすっかり見るほうに……。