ある日、姉から電話がかかってきました。兄とは反対に、姉とは昔から反りが合わず、結婚してからは適度な距離を保って付き合ってきました。そんな姉から電話がくるなんて……何だか嫌な予感がしました。
突然の訃報
姉が告げたのは、兄一家が乗った車が事故に遭い、兄夫婦が亡くなったという訃報でした。急いで病院に駆けつけると、そこには必死に涙を堪える姪が目に入ります。
姪だけでも助かってよかったと思った私。ただただ姪を抱きしめて泣きました。でも、この子は一体どうなるんだろう……? そんな考えが頭をよぎったところで、姉が口を開きました。
「姪のことはさっさと決めちゃいましょう。アンタ、今日からよろしくね」姉は、私を見てそう言いました。「うちは中学生が2人いるだけでも大変なの。だから子どもがいないアンタが育てなさい」
母親になる決意
姉の物言いには腹が立ちましたが、私と夫の心は決まっています。姪をわが子として迎えることを決めました。
すると義兄が「その代わりに財産はうちで管理してやるからな」と続けます。義兄の言葉に違和感を覚えたものの、兄夫婦を亡くしたショックも大きく、食いかかる元気はありません。
そのまま「わかった」と返事をして話を終えました。
姉からの連絡
それから10年。突然親になった私たちでしたが、自分たちなりの家族の形を見つけ幸せに暮らしていました。間もなく姪が二十歳を迎えるといったタイミングで、この10年間法事でしか顔を合わせていなかった姉から電話がかかってきました。
姉は、自分の子育てがひと段落したからと言って、姪を引き取ると言い張ります。姉が狙っているのは、おそらく姪が相続した兄たちの財産。死亡一時金や預貯金の仮払い制度を利用したお金、すべて懐に入れたくせに、どこまでがめついのでしょう……。
とはいえ、姪はもう大人。姉の意向を伝えることにしました。姪は姉の家の子どもにはならないとキッパリ。それを伝えた翌日、姉が姪を説得しにやってきました。
姉の説得の行方
姉は、広い部屋を用意できる、学校が近いなどと言い、姪を説得します。しかしそんなことで姪はなびきません。それでも姉が諦めないので「両親が残した財産は、私をここまで育ててくれた両親のために使います」とひと言。
姉夫婦は戸惑いながらも「これまで管理してあげた手数料はもらうわよ?」と食いつきます。どうやら姉は、遺産を当てに住宅ローンを組んだよう。返済に困って姪を引き取ろうとしたのでした。
姪は「何の世話にもなっていないし、必要以上に使っているおばさんたちに支払うお金はありませんよ?」と姉を拒絶。姉は「ここまで世話してやったのに……」とわけのわからない捨て台詞を吐いて去っていきました。
姪は育ててくれたお礼に両親の遺産を私たち夫婦に渡すと言いますが、姪のおかげで親になれ、成長できたのは私たち夫婦のほうです。そのお金は自分のために使うように伝えました。両親の分まで幸せになってほしいと願うばかりです。
若くしていきなり小学生の親となり、これまでの道のりは決して順風満帆ではなかったと思います。とにかく残された姪を幸せにしたい……、そう思える素敵な夫婦だったからこそ、本当の親子になれたのでしょうね。