脳梗塞とは
「脳梗塞」は脳卒中の1つです。脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって脳が障害を受ける病気の総称。その中で「何らかの原因で脳の血管が詰まり、血液がいかなくなって脳が壊死してしまう病気」を脳梗塞と言います。
脳梗塞には原因別に、以下の3タイプがあります。
・ラクナ梗塞…太い血管から枝分かれした細い血管が詰まる
・アテローム血栓性脳梗塞…首や脳の血管の動脈硬化などが進行し、血管が詰まる
・心原性脳塞栓症…心臓でできた血栓が血液に運ばれて、脳の血管に詰まる
脳梗塞は脳卒中の中で最も多く、全体の約70%以上を占めます。次いで多いのが、脳の細い血管が裂けて脳の中に血の固まりを作る脳出血で約20%。残る約10%は、脳の太い血管にできた脳動脈瘤が裂けて脳の表面に出血するくも膜下出血です。
脳梗塞は男性に多いが、女性は閉経後から増加
脳梗塞を発症するのは65歳以上の高齢者が全体の9割を占めますが、50歳以下で発症する若年性脳梗塞もあります。男女では、不摂生な生活になりやすい男性に圧倒的に多く見られます。
女性は閉経後、加齢とともに発症が増える傾向にあります。女性ホルモンの1つであるエストロゲンは、血管や骨などの状態を維持する機能を有していますが、これが閉経で減少することにより、血管などに悪い影響が出ると考えられています。
脳梗塞の症状
症状は、脳梗塞により脳のどの部位が影響を受けたかによって異なります。主に、以下のような症状があります。
・片手・片足のまひ、脱力、しびれ
・ろれつが回らない、言葉が出ない
・めまい
・意識がもうろうとしたり、起きているけれど反応が鈍い
・片目が見えない、物が二重に見える
・立てない、歩けない
ただし、高齢者の場合は症状が出ないこともあります。家族が「普段より元気がなくておかしい」と感じて受診したところ脳梗塞が判明した、というケースも少なくないので注意が必要です。
脳出血の症状との違い
一般的に脳出血は、発症した後、数分で症状が進行します。脳梗塞にはほとんど見られない頭痛を伴うこともあります。一方、脳梗塞は、徐々に悪化しながら同じ症状を繰り返したり、症状の進行に2~3日かかったりします。
ただし、これはあくまで傾向の1つで、上記に当てはまらないケースも少なくありません。症状だけで脳出血か脳梗塞かを見分けることは不可能で、確実な診断にはMRI検査が必要です。
脳梗塞を引き起こす原因
脳梗塞の原因は、主に高血圧や糖尿病、脂質異常、高尿酸血症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病や、慢性腎障害が挙げられます。喫煙、多量の飲酒も危険因子となります。
中でも原因として多いのが「高血圧」です。高血圧により血管に負荷が掛かると、血管の内側が傷付き、プラークと呼ばれる沈着物がたまって血管が固くなります。このような血管の状態を動脈硬化と言います。
動脈硬化が起こると血液の通り道が狭くなり、血管が詰まりやすくなったり、血液が流れが妨げられる原因となり、脳梗塞を引き起こします。
この他、運動やサウナなどで脱水状態になった場合も危険です。脱水状態になると、血液中の水分が失われて血液がドロドロになり、血栓が形成されやすくなります。これが脳梗塞につながる場合があります。
また、不整脈は心原性脳塞栓症の原因の1つと言われています。特に女性は男性に比べ、中年期〜高年期に不整脈を発症しやすくなるので注意が必要です。
なお、若年生脳梗塞の場合は、生活習慣病などによるものよりも、血管の異常や心臓の病気など生まれつきの疾患が原因となるケースが多数です。
脳梗塞が起こる前兆はある?
脳梗塞の約3割に「TIA(一過性脳虚血発作)」と呼ばれる前兆発作があります。その特徴的な症状が以下です。
・顔……半分が動かなくなって、口元が下がってくる
・腕……片方の腕(足)が上がらない、力が入らない
・言語……ろれつが回らない、言葉が出ない
これらの初期症状は軽度だったり数分程度で消えたりする場合もあり、たいしたことがないと放置してしまいがち。しかし、早い段階で適切な治療をしないと症状が悪化してしまうので注意が必要です。 上の3つのうち1つでも当てはまれば、すぐに救急車を呼びましょう。
なお、受診する場合は、一般的な診察であれば内科または神経内科へ。高度の外科的手術などを要する場合は脳神経外科が良いでしょう。
脳梗塞の治療
脳の細胞は血流が止まると、数時間以内に死んでしまって再生が困難になります。特に脳梗塞は発症後24時間以内に症状がどんどん進行するため、早期発見・早期治療がとても重要です。
脳梗塞の治療には、急性期治療と内科的治療とがあります。急性期治療は発症から4.5時間以内で、CTやMRI検査で回復不可能になっていないと判断でき、かつ治療の危険性が高くないと考えられる場合におこなわれる、血管を再開通させる治療です。
詰まった血栓を薬で溶かすt-PA静注療法や、カテーテルを太ももの動脈から脳内に挿入して詰まった血管を再開通させる血栓回収療法などがあります。
一方、CTやMRI検査ですでに脳梗塞が進行して回復不可能と判断された場合は、点滴の治療薬(抗血栓薬・脳保護薬・抗脳浮腫薬など)を用いるなどの内科的治療をおこないます。急性期治療に比べて副作用は少ないですが、症状の改善には不十分な場合が多くなります。
脳梗塞の後遺症
後遺症の有無や重度は、脳の細胞の損傷の部位や度合いによって異なり、損傷が激しい場合は重い後遺症が出る場合もあります。
後遺症には主に以下があり、脳梗塞の症状がそのまま残る形で後遺症になります。
・運動障害:片方の手足のまひなど
・感覚障害:触覚や痛覚が鈍くなる場合と逆に過敏になりしびれを感じる場合がある
・目の障害:視野が狭くなる、物が二重に見えるなど
・構音障害:ろれつが回りにくくなる
・嚥下障害:食べ物を飲み込みにくくなる
上記の他に、新しいことを覚えられないなどの「記憶障害」や、注意力や集中力が低下する「注意障害」、感情のコントロールができない「感情障害」などの「高次脳機能障害」と呼ばれる症状が出る場合もあります。
高次脳機能障害は外見からはわかりにくいため、周囲から誤解を受け、日常生活に支障を来してしまうこともあります。
脳梗塞になりやすいNG習慣
脳梗塞は高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が主な原因となります。不規則な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、ストレスのため過ぎなど、生活習慣病の要因はすべてNG習慣と言えるでしょう。 1つでも心当たりのある人は、寝たきりになる可能性を防ぐためにも今から改めていくことが大切です。
とはいえ、運動や睡眠の量などは年齢や性別、体質で異なり、「適度な量」がわかりにくいもの。そこで、目安の1つとしてBMI(ビーエムアイ)呼ばれる、国際的に用いられている体格指標をチェックすることをおすすめします。
BMIの算出方法と脳梗塞になりやすい数値の目安
BMIは以下の方法で算出することができます。
BMI = 体重kg ÷ 身長mの2乗
計算機で計算する場合には「BMI=体重kg÷身長m÷身長m」と入力して算出します。 例えば、身長160cm、体重55kgの人の場合、50÷1.6÷1.6=21.48で、BMIは約21.5です。
判定は以下の通り
・BMIが18.5未満………………低体重
・BMIが18.5 以上 25.0未満…普通体重
・BMIが25.0 以上 30.0未満…肥満(1度)
・BMIが30.0 以上35.0未満…肥満(2度)
・BMIが35.0 以上40.0未満…肥満(3度)
・BMIが40.0 以上………………肥満(4度)
BMIが30を超えると、男性は心原性脳塞栓症の発症率が2倍に、女性はラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の発症率が2倍になると言われています。
ただし、これはあくまで目安の1つです。生活習慣病は自覚症状がほとんどなく、検査をしないと見つかりません。定期的に健康診断を受け、異常を指摘されたら放置せず、積極的に治療を開始することがとても大切です。
なお、魚の油に多く含まれるエイコサペント酸(EPA)は、脂質異常症の治療に使われる薬にもなっている成分で、脳梗塞の予防にも有効です。EPAは、いわし、さば、さんま、マグロなどに多く含まれているので、普段の料理に積極的に取り入れましょう。
まとめ
30代、40代のうちは「まだ若いから平気」と、不規則な生活をしたり暴飲暴食をしたりしがち。しかし、生活習慣病はある日突然発症するものではなく、長年の積み重ねで引き起こされます。30代、40代のうちから習慣を見直して、体にダメージを与えない生活を身に付けることが、将来の脳梗塞を防ぐことにつながります。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
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