専業主婦を満喫していた義姉はパートを嫌がりましたが、いざ働き始めると鼻歌を歌い出すくらい浮かれながら出勤しているよう。どうやら美人だと男性社員からおだてられたのだとか……。
イヤイヤ働き始めた義姉が楽しく仕事できていることを、兄は喜んでいました。
陰り始めた家庭生活
しかし働き始めて以来、義姉はただでさえ手抜きだった家事を放棄し始めたそう。最近では、お惣菜すら買って出すということがなくなったと兄は言います。
さすがに兄が意見すると、仕事が忙しく家事をする暇がない、夫婦の分担が不公平だと不満を漏らしました。
さらに義姉は、会社の人と親睦を深めたいと、飲み会や週末の旅行に頻繁に出かけるようになりました。友だちが極度に少ない義姉を心配していた兄は、快く送り出していたようです。
ところがこれはすべて義姉の嘘。義姉が働くスーパーに、たまたま買い物に行った兄は、休憩中の義姉と店長が、車に隠れてイチャイチャしているところを目撃してしまいました。義姉はパート先の社員と不倫関係にあったのです。
結婚10周年のサプライズ
怒りに震え、今にも情事の現場に殴り込みたい気分でしたが、ぐっと我慢した兄は、仕返しを誓ったそう。そんな矢先、義兄夫婦の結婚10周年がやってきました。
そこで声がかかったのが、ジュエリーショップで働く私です。兄は「臨時収入が入ったから指輪を買おう」と義姉に持ちかけたよう。最初は「安物はいらない」と言っていた義姉も、高級店である私のお店でオーダーすると聞いて乗り気になったようです。
結婚記念日当日、指輪の完成を楽しみにしている義姉が、ルンルンしながらやってきました。出来上がった指輪は、宝石こそついていないものの、全体的に細かく美しい模様を丁寧に彫りこんだもの。義姉もうっとりするこの模様は、兄がデザインしたものです。
表面を飾る模様は雲のイメージ。今にも雨が降りそうな、不穏な空気を表現しています。雲のすきまには泡もあしらいました。はかなく消える泡は、永遠の愛など存在しないという無常観を表現。消えてしまえば夢まぼろし、愛も美も移ろいゆく、いわゆるバブルです。まさに、今の兄夫婦の状況を表しました。
内側にはイニシャルを彫っています。手渡されたルーペでじっとイニシャルを見つめる義姉。突然顔をあげ、真っ青な顔で兄を見つめました。
義姉の末路
指輪に刻印したのは彼女のイニシャルと不倫相手のイニシャルです。その場で兄に離婚を言い渡され、義姉は膝から崩れ落ちました。
兄の稼ぎで贅沢をしていた義姉。不倫相手にも家族がいるので、義姉はこの先自分で稼いで生きていかねばなりません。これまで通りの美容代はかけられないはずです。
がっくり肩を落とす義姉は、兄を失って悲しんでいるのか、不自由なく使えていたお金を失って悲しんでいるのか、私にはわかりませんでした。
兄はせっかく作ってくれた指輪が無駄になってしまったと、申し訳なさそうにわびてくれました。気の毒ですが、幸い指輪は18金。できる限り高値で買い取って兄に渡しました。差額は勉強代にするそうです。
いつかは心も美しい女性と再婚して、今度こそ自分と相手のイニシャルが入った素敵な指輪を作ってほしい……。私は心から願っています。
義姉の幸せを願っていた兄に対し、ひどい仕打ちでしたね……。本当に大切なものは失ってはじめて気付くと言います。どれだけ自分が大切にされていたか、身をもって知るのではないでしょうか。