家業を継げなかった僕
祖父の代から続いている実家の調味料メーカーでは、職人の感覚を何よりも大事にする風土が根付いていました。
ある日、社長である父が会社の後継者を正式に発表することに。
「やはり名門大で経営を学んだ長男にこの会社を継いでもらおう」
兄は外資系企業で働いていたものの、父の言葉に迷いなく家業を継ぐことを決断。母も、父に賛同しているようでした。そんな中、
「おじいさまである前社長の技術や意思を受け継いでいるのは、お兄さんよりも弟くんだと思いますが」
と言ってくれる人もいました。しかし父は「あいつには経営のノウハウはない。ただの商品を作る社員だろう?」と冷たく言い放ったのです。
兄のように経営について学んでおくべきだった、という父ですが僕なりにこの会社を良くするため祖父から学んでいたつもりでした。
父の言葉に僕は決意しました。
「考えが合わないようだし、俺、この会社辞めるよ。ひとりで頑張ってみるから、しばらくは連絡はしないでくれ」
僕はその場をあとにし、家を出ました。
幼なじみの支えと、ゼロからの挑戦
新しい生活に不安を抱えていた僕に、幼なじみのAが電話をかけてきてくれました。
Aは小さいことから何かと僕を気にかけてくれた女性です。
「会社、辞めたんだって? そういうまっすぐなところ、昔から変わらないね。でも、正しい選択だと思う」
そう言って彼女は僕の独立を応援すると言ってくれました。
「もし良かったら、私にもあなたの会社を手伝わせてくれない?」
そして二人三脚で立ち上げた会社、それがX社です。最初は取引先も少なく、資金もギリギリ。でも、僕たちは祖父の信念である「職人ファースト」の理念を徹底し、少しずつ周りの信頼を積み上げていきました。
5年後の再会と、再びの決断
5年後、X社は多くの社員を抱える企業に成長しました。そんなある日、商談を終えて会社に戻ってくると、受付の前に、思いもよらない人物が。
「おーい!」
声をかけてきたのは、父でした。
「会社、すごくうまくいっているようじゃないか」
その言葉に、隣にいたAが眉をひそめて言い放ちました。
「今さら何しにきたんですか? まさか長男さんが継いだ会社がうまくいってないからって戻ってこい、なんてことないですよね?」
父はしばらく黙っていましたが、Aの言葉通り「兄の代わりに会社を継がないか?」と言ってきたのです。
父の話によると、兄が家業を継いでから、周りの企業からは「味が落ちた」と言われているようです。
兄は、機材などのデジタル化、データ化を求めすぎた結果、職人さんが各々の間隔で判断する匂いや味をないがしろにしてしまったのです。
祖父が大切にしていた「職人ファースト」ではなく、会社全体の利益を求めるための改革をおこなったため、職人たちの中には不満を抱えて会社を辞めてしまう人も。
実家の状況は理解できました。
ただ…「お断りします。今は自分の会社、社員たちのために働きたいんです。」
僕は毅然とした態度で告げました。父は何も言い返せず、ただ立ち尽くしていました。
僕たちの未来
結局、父はそのまま帰っていきました。これから立て直す道はたくさんあるはず。父や兄のやり方で、なんとか頑張ってほしいです。
そして僕たちは、新たな契約の獲得にむけてさらに多忙な日々を送っています。
「私はずっとあなたの姿を近くで見てきたよ。頑張るあなたのことをどうにか支えたいと思っていたから…私はあなたのことが好きです」
Aがそう言ってくれたとき、僕は彼女の言葉がとてもうれしかったです。
「俺もだよ。今まで、力になってくれてありがとう。これからもよろしく!」
こうして、会社も、人との縁も、職人の技術も守りながら、僕たちは進んでいきます。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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