バセドウ病という疾患について、初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。バセドウ病は、性別に関係なく発症しますが、特に妊娠出産をする世代の20~40代の女性に多い病気のため、妊娠と出産に影響を及ぼすことがあります。今回はバセドウ病の妊娠と出産、赤ちゃんへの影響について解説します。
バセドウ病とは?
バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に作られる甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)を起こす代表的な病気です。
甲状腺は、喉仏より下の位置にあり、外見や外部から触れてもわかりません。甲状腺は脳下垂体から指令を受けて、全身の臓器に作用し新陳代謝を活発にするなど大切な働きをもつ甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンが過剰に作られると、
・甲状腺が大きく腫れる
・脈拍が速くなる
・暑がりで汗をかきやすい
・指が震える
・体重が急激に減少する
・疲れやすい
・軟便や下痢を起こす
・眼球が飛び出しまぶたを閉じづらい
などの症状が起こります。発症する原因は不明なことが多いですが、強いストレスや過労によって悪化や再発しやすいため、バセドウ病にかかりやすい体質の女性が妊娠や出産をきっかけに起こりやすいと考えられています。
これらの症状は、バセドウ病の治療を受けることで改善されます。バセドウ病の治療は、甲状腺ホルモンを正常に保つことを目的に、抗甲状腺薬を内服する薬物療法・甲状腺の摘出手術・放射線ヨードの入ったカプセルを内服する放射性ヨード内用療法があります。病状に個人差があるため、どの治療法を選択するかは、担当医と相談となります。
妊娠中や産後は、基本的に薬物療法を行い、薬が効かない場合や副作用が強い場合のみ甲状腺の摘出手術を妊娠中期に行います。放射性ヨード内容療法は、ヨードが胎盤から胎児へと移行し、胎児の甲状腺機能に影響するため妊娠中はおこないません。
バセドウ病の女性が妊娠を希望するときに気をつけること
甲状腺の機能が安定していれば、バセドウ病と診断を受けた女性が妊娠しても、一般の妊婦さんと変わらない妊娠や出産、産後を過ごすことができます。
バセドウ病の治療を継続中に妊娠することは可能です。妊娠を希望する場合は、バセドウ病を診ている担当医へ妊娠のタイミングについて相談しましょう。また、妊娠初期から胎児への影響が少ない内服薬へ変更が必要となる場合もありますので、妊娠が判明したら担当医へ相談しましょう。
妊娠判明後にバセドウ病と診断された場合も、バセドウ病の治療を開始して甲状腺の機能を安定させることで、一般の妊婦さんと変わらない妊娠や出産、産後を過ごすことは出来ます。思いがけないタイミングで判明した病気を受け入れられないという妊婦さんもいると思いますが、心配なことや不安なことがあれば、医師や助産師へ相談しましょう。
バセドウ病合併妊娠のときの妊娠中の対応について
妊娠初期は、胎盤から分泌されるhCGというホルモンが、増加するため、その甲状腺刺激作用によって甲状腺ホルモンは軽度に増加し、バセドウ病が悪化したような症状がでることがあります。これは一過性のものですが、症状が重い場合は内服以外の治療を開始しなければならない場合もあるので、担当医と相談しましょう。
内服での治療には、チアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)の2種類の薬があります。一般的な先天的な異常や児の知的発達に関して、MMIやPTUを内服したバセドウ病の場合とバセドウ病がない場合に差はないです。しかし、妊娠初期にMMIを内服した場合に赤ちゃんに一般的に起こる頻度の少ない先天的な異常(臍帯や頭皮に関連した異常)が起こる関連性を指摘されているため、妊娠初期(特に4~7週)はMMIの内服は避けて、PTUに変更したほうがよいとされています。
またバセドウ病は、流早産や死産、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群が起こるリスクがあります。出血や下腹部痛、急激な体重の変化、胎動の減少(胎動が自覚できるようになった以降)などの症状があれば、次の妊婦健診を待たずに早めに産婦人科を受診しましょう。
バセドウ病合併妊娠のときの出産について
バセドウ病を診る内科あるいは代謝・内分泌科、妊娠中から産後の経過を診る産婦人科、産まれる赤ちゃんを診る新生児科や小児科の連携は必要不可欠です。そのため、内科や産婦人科が小規模のクリニックの場合、お母さんや胎児が早急に高度な医療を受けられように、規模の大きい病院へ転院をすすめられることもあります。
基本的に、経腟分娩で出産することが可能です。一般的な妊婦さんと同じように、逆子や前置胎盤などの合併症の場合は帝王切開で出産します。
バセドウ病合併妊娠のときの産後について
母子共に、出産後の経過が順調であれば、母乳育児をすることは可能です。治療薬のプロピルチオウラシル(PTU)の服用は母乳への移行が少ないため、推奨されています。しかし、チアマゾール(MMI)も授乳禁忌の薬ではないため、産後の内服については担当医と相談して決めましょう。
また、産後2カ月ほどは甲状腺機能が不安定になりやすい時期です。抗甲状腺薬の内服が必要な場合は中断せず続けること、睡眠不足や疲労によるストレスをなるべく最小限にするために家族のサポートを得ることが大切です。家族内でのサポートが不足する場合は、居住地の保健所や保健センターへ相談して、産後に利用できるサービスを紹介してもらいましょう。
バセドウ病合併妊娠のときの赤ちゃんへの影響について
バセドウ病合併のお母さんから産まれた赤ちゃんに影響があるのかどうかは、妊娠中にお母さんの甲状腺機能をコントロールできていたかどうかで異なります。そのため、妊娠したからといって、自分でバセドウ病の治療薬の内服を中断しないようにしましょう。
生後直後~1カ月健診を終える頃までに、チアノーゼ、早い脈、呼吸が多い、汗が出ているなど甲状腺機能亢進を疑う症状があれば、治療が必要です。逆に、一時的に甲状腺機能が低下するケースもあります。どちらの場合も、新生児科あるいは小児科で治療することで改善できます。
まとめ
バセドウ病と診断を受けても、治療を受けて甲状腺の機能が安定していれば、妊娠・出産・子育てをすることは可能です。妊娠中から産後まで、バセドウ病の悪化を防ぐために、治療については医師と相談して、周囲のサポートを得ながらストレスを最小限に過ごしましょう。
※参考
・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」