夫・守の言葉を信じ、仲の良かった同僚たちが自分の悪口を言って悪巧みをしていると思い込んだ沙織は、産休に入ったタイミングで会社を退職。しかし、息子・晴人が生まれてからの毎日は、幸せなだけではありませんでした。優しかった守が、「理想の母親であるべきだ」と、細かいルールを決めたりすることに、沙織は得体の知れない違和感を覚えていきます。
そんなある日、元同僚・恵美との偶然の再会が、沙織の日常を揺るがします。夫から「沙織は産後うつだから」と言われて会うことを止められていたこと、そして悪口など言っていないと聞かされたのです。沙織は守が嘘をついていたの……? と混乱してしまいます。
その日の夜、沙織は守に、恵美から聞いた話を恐る恐る伝えました。すると守の顔はこわ張り、「自分たちが沙織を退職に追い込んだことを隠すためのデタラメだ!」と憤ったのです。「沙織は俺を信じてくれるよな!?」と迫ります。沙織は、夫と同僚、いったいどっちを信じればいいのかと、大切な人たちの間で、ますます苦しい状況に陥るのでした。
後日、沙織はお隣の大山さんのアドバイスを受け、再就職をして自分の世界を広げることを決意。しかし、その日の夜、守に相談したところ、「晴人が1歳になるまでは賛成できない」「母親以上に必要なものなんて子どもにはない!」と言われてしまいます。けれども今回ばかりは「ごめんね。でも私決めたの」と言って、自分の意思を貫きました。クリーニングに出しておいたスーツを見て、改めて自分の決意を固める沙織。そんな沙織を、守は背後から黙って見つめるのでした。
就職活動は順調に進み、いよいよ翌日は面接の日。沙織は前の日に準備をしようとしました。すると、とんでもない事実が判明したのです――。
面接前日に判明した衝撃の事実
沙織は料理をしながら義母と電話で話していました。義母に保育園が決まりそうだということと、仕事も金曜日に面接を受けることになったことを伝えました。再就職に向けて順調に進んでいることを喜んでくれる義母。
守には決まったら話す予定だと言うと、義母は「そうね」とほほ笑むのでした。
木曜日ー。面接の前の日なので、面接の準備をしておこうと、沙織はクローゼットを開けました。すると、あるはずのスーツが見当たりません。
どこにも見当たらず、沙織は「はっ」として守に尋ねました。
「クロ―ゼットの中にあった私のスーツ……知らない……?」
すると「あぁ、あそこにあるよ」と守が指さした先を見て沙織は青くなります。
そこにはゴミ袋があったからです。中を開けると沙織のスーツが入っていました。守は背中の破れを指さし、「こんなことになっていたから処分しといた」と語ります。さらに「靴も整理しといた」と守。
「長く使わないと、スーツも靴も傷むもんだね」
「これじゃもう使えないね」
にこりと笑って言う守に、沙織はゾッとするのでした。
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たとえ良かれと思ってしたことであっても、相手の物を勝手に処分するのは問題ですよね。たとえ夫婦という親しい間柄でも、所有物を無断で捨てることは、信頼関係を大きく損なうことになりかねません。お互いのテリトリーを尊重し合うことが、良好な関係を築く上での大切なルールなのではないでしょうか。私たちも「相手のため」と行動に移す前に、本当に相手のためになるのか、一度立ち止まって考えることが大切ですね。