【医師監修】妊娠中に良い食べ物・注意したい食べ物
妊娠中は、非妊娠時とは違い、ママの体重や体調、胎児の成長に影響がないように食べ物や飲み物に気を付ける必要があります。
今回は妊娠中の食事について、気を付けること、食べて良いもの、注意したい食べものについて解説します。
妊娠中の食事で気を付けること
妊娠中は、ママの健康のためだけでなく、お腹の中の赤ちゃんのために栄養バランスの良い食事を食べることが大切です。最近では、胎児期や新生児期の栄養状態が、赤ちゃんの将来の健康状態に関連すると考えられ、妊娠中の母親が健康的な食事を摂ることが重要と考えられています。
栄養バランスの良い食事を心がける
妊娠中における栄養バランスの良い食事とは、母親と赤ちゃんのからだづくりに必要な栄養素を十分に摂ることができる食事のことをいいます。
栄養バランスを考えるときには、「妊産婦のための食事バランスガイド(作成:厚生労働省)」を参考にすると良いでしょう。このガイドは、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物の5つに分類して説明しています。妊娠中になにを、どのくらい1日に食べたら良いかが示されていて、この5つのバランスを考えながら食事することで、妊娠中に必要な栄養素をバランス良く摂ることができます。
【妊婦が1日に食べてよい量の目安】
〇主食(エネルギーの供給源)
主なもの:ごはん、食パン、そば、うどん、中華麺、パスタなど。
摂取量:毎食 片手1つ分の量が目安
例:ごはんは茶碗1杯 食パンは6枚切りを2枚 麺類は1玉
〇主菜<メインのおかず>(たんぱく質や脂質、鉄、エネルギーの供給源)
主なもの:肉、魚、卵、大豆製品など。
摂取量:一日当たり 両手1つ分の量が目安。
例:卵1個+魚1切れ+豆腐1/3丁
〇副菜<サブのおかず>(不足しがちなビタミンやミネラル、食物繊維の供給源)
主なもの:緑黄色野菜、淡色野菜、きのこ、海藻など。
摂取量:一日当たり 両手3つ分の量が目安(調理前の状態)
例:緑黄色野菜を両手1つ分+キノコ類を両手1つ分+海藻類を両手1つ分
〇乳製品
主なもの:牛乳、ヨーグルト、チーズなど。
摂取量:一日あたりコップ1杯あるいは1カップ程度が目安。
例:牛乳200cc程度 ヨーグルト1カップ
〇果物
摂取量:一日あたり両手の親指と人差し指で作った輪の中に入る程度が目安。
例:みかん2個 りんご1/2個
基本のイメージは、ごはん+一汁二菜の定食
栄養バランスを考えるときは、彩りが豊かで、旬の食材を使った定食を思い浮かべてください。基本的には、ごはん+一汁二菜の定食形式を、1日3回食べることが理想ですが、体調や生活スタイルによって難しいこともあるでしょう。毎日毎食、気にするのは大変ですので、1週間単位で食べた食材や量をざっと振り返り、必要な栄養素が摂れているかを確認してみましょう。
量を食べすぎた場合は、次回から食べる順番やタイミングを変えてみる、同じ食材ばかりに偏った場合は味付けや食材を変える、食べてないと思っていても体重が増える場合は主食を食べすぎていないか確認して次回から代わりに副菜を増やしてみるなど、ストレスにならない程度に工夫しましょう。自分で考えるのは大変で、改善してもなかなか思うようにいかないときは、健診時に助産師や栄養士へ相談してみるのも良いでしょう。
どうしても食欲がないときの対処方法
つわりやちょっとした体調の変化などで食欲がないときは、食べたいものや食べやすいものを食べましょう。なにも食べられない、あるいは水も飲めないという状態であれば、脱水や低栄養となることもあるのでかかりつけの医療機関を受診するようにしましょう。
妊娠中のおやつは1日あたり200kcalを目安
おやつは気分転換のためには必要ですが、食べすぎには注意が必要です。
1日200kcal程度を目安に、不足している栄養を補うつもりで、食べるものを選びましょう。例えば、栄養豊富な果物や小魚、ナッツ類、ヨーグルトなどがおすすめです。また、眠る前におやつを食べることは控えましょう。
スナック菓子やケーキなどのお菓子を食べるときは、食べる量は片手に乗るくらいの量を目安にしましょう。食べる量だけ準備する、食べ切ることができる小袋サイズのお菓子を買うようにする、買いだめをしない、一人で食べないで家族や周囲の人とシェアするなど、食べる量を抑えるための工夫を心がけましょう。
カロリーや体重管理が気になる場合は、ポテトチップスの代わりにノンフライの野菜チップス、プリンの代わりに寒天やこんにゃくゼリー、アイスの代わりに凍らせたヨーグルトやゼリーを食べるなど、カロリーが高いものの代わりのおやつを食べる工夫をしましょう。また、食事とお菓子では、同じカロリーでも得られる栄養が異なるため、お菓子を食べるために食事の量を減らすことはやめましょう。
妊娠中に赤ちゃんのアレルギーを予防するための食事制限はしない
妊娠中の栄養バランスはお腹の中の赤ちゃんの発育に影響を与えますが、母親が食べたものがそのまま赤ちゃんに届くわけではありません。妊娠中の母親が食物アレルギーの原因となる食材を食べないことで、赤ちゃんのアレルギー疾患の発症を予防できるという科学的な根拠はありません。そのため、アレルギー疾患の発症を予防することを目的に、食事制限することは必要ありません。
オーガニック食品や有機野菜という言葉に惑わされない
インターネットで検索すると、オーガニック、有機野菜、自然派、ナチュラルなどの表現を用いて、妊婦や子育て中の母親をターゲットにした食品や製品などの広告が目に入ることが多いかもしれません。一般的な食品と比べて、オーガニック食品や有機野菜は、可能な限り農薬や添加物などの化学的なものを排除している点では安全性が高いとはいえます。しかし、一般的な食品も食の安全が守られ、毎日食べても問題ないように管理されているため、過剰にこだわる必要はありません。
子どもの食べ残しを食べたり、食器の共有はしない。
サイトメガロウィルス(CMV)は日常にありふれたウィルスで、唾液や尿、性行為によって感染します。子どもも大人も健康であれば感染しても何も問題のないウィルスですが、妊婦が初めて感染した場合や、妊婦の免疫力が著しく低下した場合に、胎児へ感染する危険性があります。
胎児に感染すると、流産や死産、脳や聴力に障害(先天性サイトメガロウィルス感染症)が生じることがあります。唾液や尿に直接触れることで感染するので、上のお子さんの食べ残しを食べない、箸やフォークなどの食器を共有しない、おむつ交換後は必ず手洗いをする、唾液や尿がついたおもちゃや家具はきれいに拭き取るなど、日頃から気を付けましょう。
妊娠中に控えるべき食材と種類や量を注意すべき食材
妊娠中は、食材や調理方法によっては、母体や胎児へ有害な寄生虫や細菌(トキソプラズマやリステリア菌)、水銀が含まれ、食べることを控えたり、食べる種類や量に注意が必要なものがあります。
トキソプラズマ・・・家畜の肉や、感染したばかりのネコの糞や土の中にいる寄生虫で、妊婦が初めて感染した場合は、流産や死産、赤ちゃんの脳や視力に障害(先天性トキソプラズマ症)が生じることがあります。
リステリア菌・・・食中毒の原因となる菌。妊婦が感染すると、リステリア菌が胎盤や胎児へ感染して、流産や早産、死産、産まれた赤ちゃんへ影響を与えてしまうことがあります。
水銀・・・自然界に存在する水銀は、取り込むと体内に蓄積します。そのため、食物連鎖によって大きい魚ほど水銀を取り込む量が多くなります。胎児は胎盤を介して水銀を取り込みますが、ある一定の量を超えたときに神経系へ影響が及ぼすことがあるため、妊婦は魚を食べるときに、水銀を過剰に取り込まないように注意が必要です。
寄生虫や細菌の感染から母体と胎児を守るためには、生の食材をそのまま食べるのではなく、しっかり加熱調理をしたものを食べること、市販されているものは加熱処理されていることをよく確認することが大切です。
妊娠中に控えるべき食材
【生肉】
有害な寄生虫や細菌(トキソプラズマやリステリア菌)が含まれています。妊娠中は抵抗力がさがり、感染しやすい状態になるため、中心部の赤身がなくなるまでしっかりと加熱調理した肉料理を食べましょう。
例:レアステーキ ローストビーフ 生レバー 馬刺し 鳥刺し ジビエ(野生鳥獣の肉) ユッケ
【非加熱食品】
加熱殺菌されていない食品は、リステリア菌による食中毒を起こす危険性があります。
例:生ハム 生ベーコン 生サラミ スモークサーモン 肉や魚のパテ 未殺菌の牛乳 コールスローサラダ コーンサラダ カニカマ
【チーズ】
種類によって、加熱処理されているものと、されていないものがあります。日本製のものは加熱処理されているものもありますが、製品によって異なるので、食品表示を確認しましょう。輸入品は加熱処理していないものが多いので、食べないほうが安心です。
・加熱処理されているため食べてもOKなもの
プロセスチーズ スライスチーズ スティックチーズ
・加熱処理されていないため注意が必要なもの
ブルーチーズ カマンベールチーズ チェダチーズ モッツァレラチーズ
妊娠中に種類や量を注意すべき食材
衛生管理が行き届いている状況で、新鮮なものであればお刺身など生魚を食べても問題ありませんが、魚の種類によっては水銀を多く含む魚は胎児に影響を与えるため、量に注意が必要です。大型の魚の多くには、赤ちゃんへ影響する量の水銀が含まれているため、厚生労働省が妊娠中の摂取量を定めています。
【注意が必要な魚(1切れ=約80g)】
・1週間に2切れ
キダイ マカジキ ユメカサゴ ミナミマグロ(インドマグロ) ヨシキリザメ イシイルカ クロムツ
・1週間に1切れ
キンメダイ ツチクジラ メカジキ クロマグロ(本マグロ) メバチ(メバチマグロ) エッチュウバイガイ マッコウクジラ
【特には注意が必要でないもの】
キハダ ビンナガ メジマグロ ツナ缶 サケ アジ サバ イワシ サンマ タイ ブリ カツオなど
参考:
・これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと(厚生労働省 )
妊婦が積極的にとりたい栄養素
葉酸
お腹の中の赤ちゃんの身体の発育を促し、母体の赤血球が作られるのを助ける働きをもつため、妊娠期や授乳期には必要不可欠な栄養素です。妊娠初期に葉酸が不足すると、赤ちゃんに二分脊椎症や無脳症など神経管閉鎖障害が起こる可能性があるため、厚生労働省は、妊娠を予定している、または妊娠中の女性は1日当たり0.4mg(400μg)の摂取を勧めています。また、遺伝子の働きを調整する栄養素でもあるため、妊娠前~妊娠12週までと限定せず、妊娠全期間を通して摂り続けたほうがよい栄養素です。
葉酸はビタミンB群のひとつで、色の濃い葉もの野菜や果物、豆類に多く含まれています。妊娠したら、妊娠前より緑黄色野菜を多めに食べるように心がけるとよいでしょう。
葉酸のサプリメントや栄養補助食品の利用については自己判断せず、必ず産婦人科医へ相談しましょう。食事から葉酸を摂ることが基本ですが、サプリメントや栄養補助食品を併用する場合も1日当たり1mgは超えないようにしましょう。
【葉酸をたくさん含む食材】
ほうれん草 小松菜 モロヘイヤ パセリ 小ねぎ 春菊 ブロッコリー オクラ 豆苗 枝豆 アスパラガス ニラ かぼちゃ アボカド 焼きのり ホタテ貝 納豆 きな粉 いちご ライチ マンゴー 甘栗
鉄分
妊娠初期(妊娠16週頃まで)は、つわりによって十分な食事を摂れないことで、鉄分が不足して貧血が起こりやすい時期です。妊娠中期以降(特に妊娠20週以降~)は、母体の循環血液量が増加に伴って血液が薄まった状態となり、赤血球を作るために必要な鉄分の必要量も増すために、生理的に貧血が起こりやすい時期となります。血液検査の結果、貧血と診断されないことはありますが、母体も赤ちゃんも鉄分を必要としていますので、妊娠全期間を通して食事から鉄分を摂るようにしましょう。
【鉄分をたくさん含む食材】
牛の赤身肉 卵 大豆 カツオ キハダ イワシ ほうれん草 小松菜
カルシウム
母体だけでなく、お腹の中の赤ちゃんの骨や歯をつくるために大切な栄養素です。牛乳やヨーグルト、小魚、大豆製品、海藻類などを毎日摂るように心がけましょう。カルシウムの吸収を促すビタミンD(例:きのこ、干ししいたけ、しらす、鮭、きくらげに含まれる)や、骨を作るのを助けるビタミンK(例:納豆などの発酵食品、肉、卵、ほうれん草、バジル、しそ)と一緒に摂ることがポイントです。
【カルシウムをたくさん含む食材】
牛乳 ヨーグルト プロセスチーズ ししゃも 桜エビ じゃこ 煮干し 木綿納豆
厚揚げ ひじき ワカメ 小松菜 チンゲンサイ 切り干し大根
妊娠中に注意したい飲み物
アルコール
妊娠中に母親がアルコールを飲むと、お腹の中の赤ちゃんの身体の発育、脳の発達へ深刻な影響を与え、胎児性アルコール症候群の赤ちゃんが産まれる可能性が高まります。妊娠中の飲酒量や赤ちゃんへ影響しない許容量は定められていませんが、乾杯程度でも飲酒することはやめましょう。
カフェインを含む飲み物
妊娠中はカフェインを分解や排泄する機能が低下していること、カフェインは胎盤を通過して赤ちゃんへ移行すること、カフェインが血管を収縮させて胎盤を流れる血流を低下させることから、飲むことは控えましょう。
1日あたり合計300mg未満を目安に、摂取量を守れば飲むことは問題ありません。
カフェイン入りというとコーヒーを思い浮かべる方が多いですが、緑茶や紅茶などの茶葉にも含まれます。カフェインが気になる方は、カフェインを含まない麦茶やカフェインレスのコーヒーや茶葉を選ぶことをおすすめします。
【カフェイン含有量の目安(100mlあたり)】
玉露 160mg
コーヒー 60mg
紅茶 30mg
煎茶 20mg
ほうじ茶 20mg
ウーロン茶 20mg
麦茶 0mg
エナジードリンクや栄養ドリンク
エナジードリンクや栄養ドリンクには、製品によって異なりますが、アルコールやカフェインが含まれていることがあります。効果・効能に「妊娠・授乳期の栄養補給」と記載されている製品は飲んでも問題ありませんが、あくまでも栄養補助食品ですので摂取量や頻度に気を付けましょう。
【その他、飲む量に注意が必要なもの】
ハーブティーやハーブを含む製品
ハーブは医薬品より自然で安全なものというイメージがありますが、大量に、あるいは濃縮されたものを摂取し続けることで、母体や赤ちゃんへ思わぬ影響(子宮筋への刺激作用、流産誘発作用など)を及ぼす可能性があります。カフェインを含まないということでハーブティーを好む方も多いかもしれませんが、ハーブの成分は香りを嗅ぐことと飲むことで体内へ取り込まれます。ハーブティーを飲む量は、1日2杯程度を限度にしましょう。
香草や香料として通常の料理に使う程度なら、妊娠中に摂取しても害はないとされていますが、ハーブの種類や量が不明な場合は、飲んだり食べたりしないようにしましょう。ハーブティーやハーブを含む製品を摂取して体調が悪くなったときは、速やかに産婦人科を受診するようにしましょう。
イオン飲料
つわりの時期などで食欲がない時に、水分補給としてイオン飲料(スポーツドリンク、経口補水液など)を飲む方もいると思いますが、飲みすぎには注意しましょう。健康に良さそうなイメージはありますが、糖やミネラルなどが含まれてはいるものの、糖をエネルギーに変換するビタミンB1を含まない場合もあるため、多量に飲むとビタミンB1欠乏による脚気(かっけ:末梢神経障害や心不全)、ウェルニッケ脳症(眼球運動の異常、歩行困難、意識障害)を引き起こす可能性があります。もし、つわりや体調不良でイオン飲料しか飲めないというときは、産婦人科へ受診するようにしましょう。
炭酸水
口腔内をさっぱりさせたい、味のない水が飲めないなどの理由で炭酸水を好む方もいますが、胃腸が刺激され、胃もたれや食欲低下、下痢などの消化不良を引き起こす場合もあるため、飲む量はほどほどにしましょう。
水
意外と思われるかもしれませんが、水は取り過ぎることで体液の電解質のバランスが崩れることがあります。これを水毒症といい、意識障害などの症状があることがあります。水を一度に多く飲むのではなく、喉が乾いたときに潤す程度にこまめに摂取するなど飲み方に注意しましょう。また、常に喉が渇くなどの症状がある場合は、妊娠とは別の疾患の可能性がありますので、妊婦健診のときに産婦人科医や助産師へ相談しましょう。
まとめ
妊娠中は、つわりがあったり、妊娠していないときより必要な栄養が多くなるため、栄養が偏りやすいといえます。妊娠中の食事で大切なのは、食事に対してストレスを抱えないこと、こだわりすぎないことです。また、多くは食べすぎのパターンが多いですから、体重の変化にも気を付けると良いでしょう。母体と赤ちゃんの健康のために、食事の内容や食習慣を見直して、できることから工夫してみましょう。