いつものおにぎり屋
僕には、お気に入りのおにぎり屋があります。出社したときには、かなりの頻度で通っていて店主のAさんともよくお話をします。
僕がこのおにぎり屋を気に入っている理由。それは、昔、母が握ってくれていたおにぎりの味を思い出すからでした。
不器用な母で、料理は得意ではありませんでしたが、おにぎりだけはなぜか上手で……。仕事で疲れた僕は、その懐かしいおにぎりを食べると心が和らぎました。
50食分のキャンセル
数日後、またおにぎり屋さんに行くと、Aさんが電話口で困惑しているところに遭遇。
「50食の弁当、キャンセルですか…? それは困ります!」
どうやら、大口の注文が直前で一方的にキャンセルされたようでした。その後、Aさんが言うには「電話口の部下が勝手に注文して…自分の好みではないからキャンセルで」と言われてしまったとのことでした。
困ってしまっているAさんに、なんとか力になりたいと思った僕は、「その50食、僕に買わせてください」と言いました。
驚くAさんに、「せっかく作ってもらったのに捨てるのは、もったいないので」と僕は続けました。Aさんは瞳を潤ませながら、「すみません…ありがとうございます!」と笑顔に。僕はその笑顔を見られただけで、購入してよかったと思いました。
その後、お弁当を会社に持っていったところ、お弁当は即なくなりました。おにぎり屋さんのお弁当は大人気で、社員たちは「また食べたいです!」と言ってくれました。
親睦会で再会したのは…
その後、僕は業界の親睦会に参加することになりました。そこで食事の話になった際のことです。ひとりの男性が、笑い話のようにおにぎり屋の件を語っていて……。
「そういえば、古いおにぎり店に50個も作らせたけどキャンセルしたことあるわ。やっぱ弁当はもっとオシャレな店でしょ!」
彼は、僕の会社の取引先のスタッフ。何度か顔を合わせたこともある人でした。僕は彼の会話を聞いて、我慢できませんでした。キャンセルしたことを、自慢げに語る彼に、「こんにちは」と声を掛けました。彼は僕に気が付くと、「お世話になっております」と営業モード。
そんな彼に僕は、
「当日キャンセルなんて、ひどいことをするのですね。お店の人、困っていましたよ。ちなみに、あの店は僕の行きつけなので」
と少し大きな声で言いました。僕の声を聞いた周りの人たちは、「そんなことしたんだ…」とざわざわ。取引先の人たちは、みんな気まずそうに会場の隅に移動していきました。
謝罪の秘密とこれから
僕が親睦会を終えて帰った翌日、おにぎり屋さんに当日キャンセルをしてきた人から謝罪の連絡があったようです。
「どうしていきなり謝罪してきたんだろう…」と不思議そうなAさんでしたが、親睦会で僕が強く指摘したことはだまっておくことにしました。
「悪いと思ったのかもしれませんね。それよりも、これからも大変だとは思いますが、続けてくださいね」と僕。このおにぎり屋のおにぎりが、僕の力になっていることを伝えると、
Aさんは、「そんなに大切に思ってくれる人がいるなんてうれしい」と誇らしげな様子。
僕は彼女が作るおにぎりに日々元気をもらっています。今回のように、僕がこのお店を支える恩返しができたらと考えています。社員にもおにぎりのおいしさを知ってもらったわけですし、定期的に購入して、会社のみんなで食べようと思います!
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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