そんな私を支えてくれたのが学生時代からの同級生だった夫。結婚前はやさしくて、いつも味方でいてくれる人でした。しかし結婚して子どもが生まれたころ、夫は私の父が経営する会社に転職。この頃から、少しずつ歯車が狂いはじめました。
「いつかはお前の父親の会社、俺が継いでやるから」
そんな冗談とも本気ともつかない言葉を口にするようになり、育児にも家事にもほとんど関わらなくなってしまったのです。
父の急逝、迷う暇もない葬儀準備
ある日、仕事中に実家から電話が入りました。父が急逝したという知らせでした。
頭が真っ白になりながらも、私は葬儀の準備を進め、すぐに出張中の夫へ連絡しました。しかし一向に電話は繋がりません。仕方なく、必要事項をメールにして送っておきました。
翌日、お葬式の時間になっても夫は現れません。
「もうお葬式始まるよ！ どれくらいで来られる？」と慌てて電話をすると、返ってきたのは予想外の言葉でした。
「あ～葬式、面倒だから欠席で」
あまりの言葉に、私はその場で立ち尽くしました。
知らされた夫の「本当の素顔」
私の動揺を見て、そばにいた母が「電話を代わって」と言い、落ち着いた声で夫に「来なくて結構だよ」と告げました。
電話の向こうで夫が何か言いかけましたが、母は淡々と続けました。
「実はね、あなたについて調べてあるから。後継候補としてふさわしいか、念のためにね」
夫が戸惑う気配だけが伝わり、電話は静かに切れました。
葬儀の合間、母が小さく息を吐きながら言いました。
「あなたには黙っていたけどね……最近あの人の様子に不審なところがあったから、お父さんと話し合って調査を依頼したの」
調査によれば、夫は会社の同僚と不倫関係にあったとのこと。
「会社を継ぐ気満々だったみたいだけど、あれでは任せられない。あなたにとっても不幸になるから」
母の言葉は悲しみに満ちていましたが、確かなやさしさもありました。
母の言葉には悲しみと、娘を守ろうとする静かな決意が混じっていました。
私は静かにうなずきました。父が残した会社のことも、娘の未来も、自分の人生も、守るべきものがたくさんあると気づいたのです。
夫へ離婚宣言
葬儀が終わったあと、私は夫に電話をかけました。
「もう全部知っています。不倫のことも。だから離婚します」
夫は最初こそ軽く笑ってごまかそうとしていましたが、すぐに焦った声に変わりました。
「待ってくれよ！ 俺は会社を……！」
「私の人生は、あなたの野心のためにいるんじゃないよ」
そう告げた瞬間、自分の中で何かがふっと軽くなるのを感じました。
新しい生活へ
私は弁護士に相談し、夫と不倫相手の双方へ正式に慰謝料を請求しました。証拠は両親が顧問弁護士を通じて得ていたため、手続きは驚くほどスムーズに進みました。
夫は最初こそ抵抗したものの、法的に逃げられない状況だと理解した途端、急に態度を変えました。
だが、時すでに遅し。会社にも不倫の事実が伝わり、勤務態度の悪さも重なって、夫はほどなく退職に追い込まれたと聞きました。新しい就職先も簡単には見つからず、周囲からの信頼も失った夫は、離婚後、実家にも戻れず、一人で暮らしていると風の噂で知りました。
私は娘と一緒に実家で新しい生活を始めました。仕事も、育児も、大変なことはあるけれど、父が言ってくれた言葉が心に残っています。
「やりたい道を、胸を張って歩きなさい」
その言葉に支えられながら、私は今日も前を向いて進んでいます。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
