父からの凍りついたメッセージ
ある日の午後、実家の父からLINEが入っていることに気づきました。 普段、父から連絡が来ることなど滅多にありません。急用だろうかと思い、少し緊張しながら通知を開いた私は、画面に表示された短いメッセージを見て、文字通り凍りつきました。
「おまえ、離婚したのか?」
たった一言、そう書かれていたのです。絵文字もスタンプもない、無機質な文字列。そして「おまえ」という強い呼びかけ。心臓がドキドキしはじめ、冷や汗が一気に噴き出しました。私と夫の仲は円満なはずですが、父はどこかであらぬ噂を聞きつけたのでしょうか。それとも、興信所でも使って私の身辺調査をしたのか……。 普段無口な父がわざわざ連絡してくるということは、これは単なる噂レベルの話ではなく、父の中で確定事項になっているに違いない。私はそう確信し、ドキドキしました。
「えっ!? してないよ!! 誰から聞いたの!?」
パニックになりながら、必死で否定のメッセージを送りました。いったい父は何を聞いたのか……。スマホを握りしめ、父からの返信を待つ時間は永遠のように感じられました。
数分後、父からポツリと返信が届きました。
「すまん。母さんから『旅行に行ってきた』と聞いたから、『旅行したのか』と打つつもりだった」
その瞬間、緊張の糸がプツリと切れました。
どうやら父は、老眼で見えにくい画面と格闘しながら、予測変換の先頭に出てきた「離婚」を、確認もせずに「旅行」のつもりで誤送信してしまったようです。「旅行」と「離婚」。父の指先ひとつで、私の家庭は危うく崩壊するところでした。
「お父さん……本当に驚くからやめてよ!!」と抗議すると、「悪かった」と一言だけ返ってきました。その不器用な反応に、怒りを通り越して力が抜けてしまいました。
その後、この「父の離婚尋問事件」は家族グループLINEで共有され、「お父さんの『離婚したのか』は怖すぎる」と、家族全員の爆笑をさらいました。今では笑い話ですが、あの時感じた「父からの着信」の恐怖は、今でも忘れられません。お父さん、送信ボタンを押す前の確認だけは、どうかお願いしますね。
著者:松本紗香/30代女性/2人の娘の母で会社員。趣味はドラマ鑑賞と北欧雑貨集め
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年10月)