「あなた今どこにいるの！？ 孫が高熱を出しているって聞いたんだけど……仕事も大事なのはわかるけど、こういうときは違うでしょう」義母に電話口でそう言われ、私は一瞬言葉を失いました。
娘は私のそばで寝ています。そう伝えると、電話の向こうで一瞬、間が空きました。義母は何かを考え込むように黙り込み、先ほどまでの勢いが嘘のように言葉を失っていました。
その日、私は少し遠方に出張でした。ちょうど取引先との打ち合わせが一段落してスマホを見ると、保育園からの不在着信に気付いたのです。
保育園に折り返すと、娘が39℃近い熱を出してしまったと説明されました。夫にも連絡したそうですが「仕事が立て込んでいて抜けられないから少し待ってくれ」と言われたのだとか。その後夫からの連絡は途絶えたそうです。
その日は夫がリモート勤務なので迎えは夫の担当でした。しかも急な仕事で迎えに行けなくなった場合はお互いにまず連絡し合うと決めていたのに……。
これ以上園に迷惑をかけるわけにはいかないと、私は無理を言って早退し、タクシーに乗って急いで帰宅しました。
娘を迎えに行き、そのままかかりつけの小児科へ。処方された薬のおかげか、娘はちょうど私の隣で穏やかな寝息を立て始めたところでの義母からの電話でした。
義母の誤解、原因は？
「息子が、『娘が熱を出して大変なのに、妻が仕事を優先して迎えに行ってくれない』って言うから……。私も今日予定があったのに、途中でキャンセルして帰ろうとしたところだったのよ」と義母。
どうやら、夫が「妻が迎えに行ってくれない。自分も仕事で動けないから迎えをお願いしたい」と話したようでした。事情を説明すると、義母は深いため息をつき、私に詫びました。
義母の誤解は解けたものの、夫はなぜ迎えに行ってくれなかったのでしょう。しかも義母に嘘までついて……。
義母は「孫の様子が心配だから、少し様子を見に行ってもいい？ 買い物もしていくから」と申し出てくれました。私が出張帰りでほとんど何も用意できていなかったこともあり、正直とても助かりました。
夫が娘を迎えに行った……？
義母が買い物をしてわが家に向かっている間、私は夫にメッセージを送りました。
「保育園から何度か連絡が来てたみたいだけど、ちゃんと迎えに行ってくれてるんだよね？」
すると夫は「保育園からそっちにも連絡がいってたの！？ ごめん、でももう大丈夫！ 迎えには行ったよ。今は寝かせてるし、だいぶ落ち着いてるみたい」と言います。
その言葉を見た瞬間、私は背筋がゾクッとしました。娘は今、私の隣で眠っています。病院に連れて行ったのも私。夫は、病院どころか、保育園にすら行っていないのです。娘の迎えは義母がしていると思っているのでしょう。
ちょうどわが家にやってきてくれた義母にそのやりとりを見せると、義母は呆れ顔。
私には、自分が娘を迎えに行ったことにし、義母には私が迎えを拒否したと言って迎えを頼んでいた夫。そんな自分は一体どこで何をしているのでしょう。
夫の居場所
その後、娘は少しずつ熱も下がり、義母が買ってきてくれたゼリーを少しだけ口にできるようになりました。義母が娘の相手をしてくれている間、私は夫にメッセージを送ったのです。
「娘が心配だから出張は切り上げたよ！ もうすぐ家に着く」
すると、想像以上に夫は慌てていました。「もう熱も落ち着いてるし大丈夫だよ！ ゆっくり仕事してから帰ってきて！」と必死です。
これ以上引き伸ばす必要はありません。「私、今もう家だから」と告げると返信が止まりました。この様子ではおそらく仕事ではないでしょう。
実は私たち夫婦のスマホには互いの位置情報を共有できるアプリを入れていました。大きな地震をきっかけに、万が一のために……と話して導入したものです。
もしかして……と思ってアプリを開いてみると、夫はとあるマンションにいました。夫の仕事上、そんなマンションにいるなんてあり得ません。
位置情報を晒しながら不可解な行動をとるなんてあまりに間抜けですが、地震から何年も経ち、日常で使うことはほとんどなくなった今、夫もアプリの存在を忘れているのでしょう。
私は「今、会社にいるんだよね？」とメッセージを送り、あわせて夫の位置情報を示した画面のスクショを送りました。そして「娘が高熱で早退したっていうのに何してるの？ 娘より大切なこと？」と続けたのです。
娘と浮気相手、優先するのは？
家に帰ってきた夫は、マッチングアプリで知り合った女性の家にいたことを白状。しかし最後まで、「浮気じゃない」「息抜きだっただけだ」と言い訳を重ねました。
私はもう冷静に聞いていられる状態ではありません。「今さらなんて説明されても、もう信じられないよ。娘が熱で泣いていたとき、あなたはどこにいたの？ 父親なら、まず一番に駆けつけてほしかった」
そう言うと、夫は「本当に悪かった。反省してる。離婚だけはやめてくれ。子どもには父親が必要だろ？」と泣きついてきました。でもその言葉すら信じることができません。
「もうあなたを父親として信じられない。だから離婚するしかないと思ってる」私はそう伝えました。顔を見るのも嫌だったので、夫には義母と一緒に実家に帰ってもらうことにしたのです。
その後、無事離婚は成立。私は娘と2人の生活をスタートさせました。ひとりで子育てをすることに不安がないわけではありません。それでも、義母がこれまで通りサポートしてくれることは、大きな支えになっています。
義母曰く、夫は寂しがっているそうですが、娘よりも浮気相手を優先する人をどうしても父親として認められないのです。夫には、自分が選んだ行動の結果ときちんと向き合ってほしいと思っています。
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嘘は思っている以上に簡単に、そして深く信頼を壊してしまうものです。とくに家族という近い関係だからこそ、小さなごまかしやその場しのぎの言動が、取り返しのつかない溝を生んでしまうこともあるでしょう。
家族だからこそ、嘘のない関係を築いていきたいものですね。
【取材時期：2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
