「久しぶり!」突然届いた同級生からの連絡…
スマホに1通の連絡が入りました。小・中学校時代の同級生だったAさんからです。口が達者で、昔からクラスの中心にいるタイプでした。卒業以来ほとんど関わりがなかったのに、いきなり「久しぶり! 実はさ、少し前に地元に帰ってきてイベント会社に就職したんだけど、イベントのときに飾る花がほしいんだよね。インスタ映えするやつ、80鉢くらいお願いしたい!」と、軽いノリで連絡がきたのです。
80鉢――その数字を見ただけで、背筋が伸びました。うちのような店にとっては大口注文です。私は「ありがとうございます。用途や色、日当たり、搬入時間も含めてご提案します」と、できるだけプロとして対応しました。
すると彼女は「さすが跡取り~」と笑い、最後に「同級生割、あるよね?」と付け加えました。その言い方に、昔の空気が一瞬だけよみがえりましたが、深呼吸をして安請け合いはせず、「内容次第です。まずはご希望を聞かせてください」と答えました。
店に来た同級生。突きつけられた“条件”とは
翌日、彼女は店にやってきました。派手なネイルにブランドバッグ姿で、「これが予定しているイベントね」とスマホ画面を突き出してくる勢いは相変わらずです。「白と淡いピンクで統一したい。来場者に写真を撮ってもらいたいから、葉もきれいなものがいい。とにかくかわいく! 鉢は統一感のある感じで!」と要望は明確でしたが、条件はかなり厳しいものでした。80鉢すべてを“写真映え”させるには、当日までに咲き具合を整え、運搬時に傷めないための丁寧な梱包も必要になります。
私はメモを取りながら、現実的な提案に落とし込んでいきました。仕入れ先に連絡し、たりない分は近隣の生産者さんを回る段取りまで頭の中で組み立てます。苗代、鉢代、土や資材、手間、搬入の人件費を積み上げると、見積もりはどうしてもそれなりの金額になります。
「1鉢あたり○○円、合計で○○円です。大量注文なので、鉢を統一する分だけ通常より少し調整しています」と説明すると、彼女は口をとがらせて「え、思ったより高い。ホームセンターならもっと安いじゃん」と言いました。言われ慣れた言葉のはずなのに、その瞬間、背中がひやっとしました。それでも私は、「来場者が写真に写るのは“その日の状態”です。枯れかけが混ざると、一気に安っぽく見えてしまいます。ご予算があるなら、鉢数を減らすか、種類を絞る方法もあります」と丁寧に伝えました。
しばらく渋ったあと、彼女は「まあいいや。イベントまであんまり時間ないし、80鉢でいく。お願い」と言いました。私は見積書の下に「発注確定後のキャンセルは、仕入れ・資材手配の都合上、キャンセル料が発生します。なお、大口注文は前金30%をお願いしています」と明記し、彼女にも確認してもらいました。すると彼女は「えー、前金? 同級生なのに?」と笑い、「あとで振り込むね」と軽く流しました。私は「では、◯日までに前金が確認でき次第、仕入れを確定します」と伝え、同じ内容をメッセージでも送り、念のため記録を残しました。
前金について連絡すると…返ってきた言葉に絶句
それから1週間、私は準備に集中し、店の裏の作業場を空けて“80鉢用の特設コーナー”まで作りました。ところが、肝心の前金が期日を過ぎても入金されません。私が「ご入金の確認が取れていないため、仕入れ確定ができません。イベントに間に合わせるには、本日中が締切です」と連絡すると、返ってきたのは「あーごめん! やっぱさ、高いし80鉢全部キャンセルで! 半額なら払ってもいいよ。友だちだしさ!」という、目を疑う一文でした。
指先が冷たくなり……「今さら半額は無理です。すでに手配しています」と返すと、彼女は「でも入金してないし? キャンセル料を払えばいいの? でもさ、同級生にその対応はないわ~。インスタで“地元の店、ぼったくり”って書いちゃおうかな」と畳みかけてきました。完全に脅しです。
怒りで言葉が乱れそうになり、私はいったんスマホを置きました。すると父が奥から出てきて、「契約は契約だ。感情で動くな」とだけ言いました。私は深呼吸をしてやり取りを読み返し、見積書の注意書きと、メッセージで送った「前金確認後に仕入れ確定」という文面を確認しました。つまり、彼女はまだ正式発注には至っていません。
半額交渉に応じる必要はなく、「注文未成立」という立場を取れます。私は淡々と、「前金の確認が取れていないため、仕入れは確定していません。よって注文は成立していません。今回の見積もりは無効とします。半額のご希望には沿えません。なお、当店を名指しした誹謗中傷を見つけた際は、しかるべき対応を取ります」と返信しました。彼女からは「こわw」「器小さw」と返ってきましたが、それ以上やり取りはしませんでした。
行き場を失った80鉢…次に取った行動は
作業場に積まれた鉢や資材を見て、私はすぐに別の道を考えました。ちょうど商店街のイベントが近く、会場装飾の花が足りないと聞いていたのです。私は商店会の担当者に連絡し、「写真映えする白と淡いピンクで統一した鉢花をまとめて用意できます。短期レンタルや買い取り、どちらも相談可能です」と提案しました。さらに近所の保育園にも「卒園式の飾りに使いませんか」と声をかけました。
結果として、商店街側が“会場装飾+来場者プレゼント”としてほとんどを買い取り、保育園にも一部を原価で提供することができました。私はSNSに「地域イベントの装飾を担当しました。花があると街が明るくなりますね」とだけ投稿しました。誰の注文が流れたのかなど、一切書かずに。
すると写真が思いのほか拡散され、「この花屋さんいいね」「地元でこんなにかわいい鉢が揃うんだ」といった反応が増え、来店してくれる人も少しずつ増えていきました。
再び同級生から連絡が…語られた内容とは
その後、同級生の彼女が関わるイベント前日、彼女から電話がかかってきました。「ねえ、やっぱ明日さ……80鉢、どうにかならない? 今からでも全額払うから。お願い」と言うのです。聞けば、うちより安い別の店に駆け込んだものの、数が揃わず色もバラバラで、上司から指摘を受けたようでした。
私は感情を乗せず、「申し訳ありません。明日はすでに別の案件で手一杯です。それに、最初に半額を条件にされた時点で、うちはお付き合いできません」と伝えました。彼女は「だって商売なんだから、値引き交渉くらい……」と食い下がりましたが、私は「値引き交渉と、ドタキャンや脅しは別です。安くしたいなら、鉢数や種類を一緒に調整する方法はいくらでもありましたが、それをしなかった」と続けました。
少しの沈黙のあと、彼女は小さく「……ごめん」と言いました。私は最後にひとつだけ現実的な選択肢を示しました。「どうしても明日必要なら、商店街イベントで使った花の“残り”を搬入する形になります。商店街の担当者に直接相談してください。当店は直接関与しません」。それが、私なりの線引きでした。
その後もSNSに花や鉢の写真を投稿していると、「玄関先を明るくしたい」「お祝いの花をお願いしたい」といった相談が増えていきました。数カ月後、Aさんから「20鉢お願いしたい」と連絡がありましたが、私は“同級生割”はせず、条件をきちんと話し合い、前金を確認したうえで良い苗を揃えました。これからも仕事に誇りを持ち、地域の人に愛される店を目指して頑張っていきたいと思っています。
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ドタキャンや半額の強要、悪評をちらつかせる行為は、もはや交渉ではなく“圧力”ですよね。親しい相手であればあるほどルールを曖昧にせず、誠実な仕事を積み重ねていくことが、商売と自分自身の誇りを守ることにつながるのかもしれませんね。
【取材時期:2025年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。