彼女を同僚に奪われ…届いたのは結婚式の招待状
ある日、営業部の飲み会でBが冗談めかして「男は稼いでなんぼ。彼女だって将来を考えるなら、稼げるほうにいくよな?」と言いました。Bの取り巻きは笑い、Aも困ったように笑っていましたが、その笑顔が妙に胸に刺さりました。
それからというもの、Aからの連絡は減り、休日に会うことも少なくなり、ついに「ごめん、ちゃんと話したい」と呼び出され……。Aの口から告げられたのは、「Bさんと付き合うことになった。Bさん、昇進して……将来の話も具体的で。私、焦ってるからさ」という言葉でした。こちらが何か言う隙もないまま、AとBは付き合い始めたのです。
そして、ある日のこと。Bは「悪く思うなよ。お前はいいやつだけど……昇進もしないし、結婚は無理だろ」と言い放ちました。周りも同情と好奇の混じった目で「大丈夫?」「次いこ次」と軽く声をかけてきます。しばらくして、結婚式の招待状が回ってきました。新郎B、新婦A。会社関係者も多数出席、同期もほぼ全員参加――しかも会場は地元の有名ホテル。欠席して「まだ未練がある」と思われるのも嫌ですし、仕事上の付き合いもあります。
スーツを整え、祝儀袋を用意し、当日は何も感じていないふりをするつもりでした。――そう、会場で“運命の再会”が待っているなんて、そのときは想像もしていなかったのです。
結婚式会場で待っていた“思わぬ再会”
結婚式当日。さっそく、「お、元カレ来たじゃん」と誰かが言い、笑いが起こりました。私は笑って受け流すことに。乾杯して、料理を食べて、写真を撮って、適当なタイミングで帰ればいい。そう思っていました。ところが、開宴までの待ち時間、会場の端にひときわ目を引く女性がいました。ぼんやり見ていると、彼女がふいにこちらを向きます。視線が合い、数秒の沈黙。彼女の眉がわずかに上がり、次の瞬間、懐かしそうに笑いました。
「……もしかして、◯◯(幼少期のあだ名)?」私の名前を昔のあだ名で呼ぶ人は限られています。「え……◯◯(彼女の名前)?」と口にすると、彼女はうん、と小さくうなずきました。小学校のころ、家が近くてたまに遊んだ幼馴染。中学に上がるころ、彼女が引っ越して以来、それきりでした。
「こんなところで会えるなんて。大人になったね」その声だけで、なぜか胸の奥がすっと軽くなるのを感じました。ですが、その空気を壊すように、同期のひとりがからかう声を上げます。「え、知り合い?」「ナンパ?」さらに別の同僚が、わざとらしく私の肩を叩きました。「こいつ、今ちょっと傷心だから。相手にしないほうがいいよ」そして、笑いが起こります。
彼女は一瞬だけ表情を曇らせましたが、何も言わず、ただ静かに私を見ていました。その視線が妙に痛くて、私は笑顔を作りながら「久しぶり。元気そうでよかった」とだけ言い、席へ向かいました。――この時点ではまだ、今日という日が自分の“恥さらし”で終わると思っていました。
幼馴染の彼女が壇上へ上がり…空気が一変
歓談がひと段落したころ、司会者がマイクを取りました。「続きまして、ご来賓の皆さまの中から、新郎新婦とご縁の深い方にご挨拶をいただきます」会場の空気が少し引き締まります。司会者は続けて、「本日のご挨拶をいただきますのは――◯◯株式会社の◯◯さまです」と紹介しました。
その瞬間、会場がざわつきました。◯◯株式会社は地元で有名な会社です。どんな人物が壇上に上がるのかと思ったら、ロビーで会ったあの目を引く女性――幼馴染の彼女が、当たり前のように壇上へ向かいました。彼女は軽く頭を下げ、穏やかに「本日はおめでとうございます。新婦のAさんとは、共通の趣味で知り合いました。お二人が付き合い始めたころに……」と、エピソードや人柄を交えたスピーチを続けます。
その後、彼女は少し間を置いて、「それと今日、思いがけず――昔の大切な友人に再会しました」と話しました。「私が子どものころ、いちばん苦しかった日に、何も言わずに隣を歩いてくれた人です。ご縁に感謝したいです」そして、柔らかな笑顔のまま、視線をこちらへ向けます。「◯◯くん、あのときは本当にありがとう」
その呼び方に、同僚たちの視線が一斉に私へ向きました。空気がひっくり返るのがわかります。大きな拍手が起こりましたが、気持ちが追いつかず……ただ、胸の奥が熱くなりました。
「見返したい!」と必死で営業した結果…彼女から
披露宴が終わり、ロビーの人波が引いたころ。彼女は名刺を差し出しながら、「営業部なんだね。力になれることもあるかもしれないから、連絡して」と言いました。名刺には、地元で知らない人はいない会社名が印字されています。「……連絡、していい?」と聞くと、「もちろん。仕事の話でも、そうじゃなくても」と笑ったその表情が、やけに胸に残りました。
翌週、私は彼女に連絡しました。うちの会社が扱っているサービスが、彼女の会社に刺さる気がしたからです。真剣に、「もし迷惑じゃなければ……御社に提案に行きたい」と伝えました。返ってきたのは、拍子抜けするほどあっさりした返事でした。「いいよ。ちゃんと担当につなぐ。しっかり準備してきてね」数日後、彼女から紹介されたのは、社内の決裁に強い人物でした。私は資料を作り直し、導入後の運用まで落とし込み、当日は逃げずに数字で語りました。質問が飛んでも、相手の不安材料をひとつずつ潰していくことを意識しました。
帰り際、担当者が「正直、話が早い。まずは小さく試したい。来月からテスト導入で見積もりください」と言いました。その瞬間、言葉にできない感情が込み上げました。そして社内へ。テスト導入が決まったと報告した途端、空気が変わります。上司が「よくやった! お前が主担当で進めろ」と言ったのです。
その隣で、Bの笑顔が一瞬固まりました。「え? 大手相手なら俺が――」とBが口を挟みかけた瞬間、上司が遮りました。「◯◯(私の名前)が動いた案件だ。営業に行く前に資料も確認していたが、しっかり作られていて感心した。お前らも参考にしたほうがいい」そのひと言は、これまで言われ続けた「お前に結婚は無理だ」より、何倍も効きました。Bは言い返せず、取り巻きたちも目を逸らしました。
数日後、社内の共有スペースでAとすれ違いました。Aは「……すごいね。ちゃんと結果、出してる」と声をかけてきましたが、私は足を止めずに「ありがとう」とだけ答えました。テスト導入は順調に進み、正式契約が決まると、幼馴染の彼女から短いメッセージが届きました。「おめでとう。予定が空いてたら、お祝いしよう」仕事終わり、駅前の落ち着いた店で乾杯しました。
彼女から「おめでとう! 結婚式の日から、顔つきが変わったよ」と言われて照れていると、「それにさ、◯◯の空気が変わってなくて、“一緒にいて安心する”って思った」と続けられ、胸が熱くなり言葉に詰まりました。次に会う約束もしよう。そして今回の出来事をきっかけに、仕事も、これからの人生も、もっと前を向いて頑張っていこう――そう思ったのでした。
◇ ◇ ◇
周囲に振り回されることなく誠実に努力を積み重ねていれば、自然と信頼は得られるもの。その姿をきちんと見てくれる人が現れ、チャンスはいずれ巡ってくるのかもしれませんね。
【取材時期:2025年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。