元カノに偶然再会…予想外の展開に
元カノは付き合っていたころから、「年収」「肩書き」「住んでいる場所」で人を測る癖があり、それが息苦しくなって私から別れを切り出しました。彼女は相変わらずブランド物に身を包み、隣には彼氏らしき男性が立っています。いかにも「勝ち組」といった雰囲気でした。
気まずくて早くその場を離れたかったのですが、元カノに「ねえ、近くでお茶しよ。娘ちゃんも一緒に」と声をかけられ、断るタイミングを逃してしまいました。カフェに入るなり、元カノは見せびらかすようにスマホで夜景の写真をスクロールし、「うち、駅前のタワマンに引っ越したんだよね。40階。ラウンジもジムもあるし、便利だよ〜」と自慢を始めました。彼氏も「タワマンはね、住むというより“持つ”ものなんだよ」と得意げです。
娘はココアを飲みながら黙って聞いていましたが、ぽつりと、純粋な口調でこう言いました。「うちは10階建ての小さい一軒家なのに……タワマンってすごいんだね」。元カノは一瞬きょとんとしたあと、吹き出しました。「10階建ての“一軒家”って何それ!」「娘ちゃん、かわいい〜! パパ、ちょっと見栄張っちゃった?」と、こちらを見てニヤニヤ。私は苦笑いするしかありませんでした。
娘が言った「10階建ての小さい一軒家」は、もちろん冗談でも見栄でもありません。ただ、娘の言葉の選び方が幼かっただけで――親から10階建てのマンションを一棟譲り受けており、私たちが住んでいるのはその「一室」だからです。娘にとっては「うちの家=この建物」で、部屋は小さいため「小さい一軒家」になってしまったのでしょう。それをわざわざ訂正すれば自慢のように聞こえかねませんし、何より元カノの勝ち誇った表情に付き合うのがしんどくて、私は「そうだね、タワマンはすごいね」とだけ言って、その場をやり過ごしました。
元カノと彼氏が住むタワマンを訪ねると…
数日後、元カノから「今度うちに来なよ。娘ちゃんもタワマン見たら喜ぶよ?」と連絡がありました。行く必要はないと思いつつも、娘に話すと「この前の言い方、変だったよね。お姉さんともう一度話したい」と言います。その言葉を聞いて、私は断れませんでした。見返したい気持ちはなく、娘の中に残った“恥ずかしさ”をほどいてやりたかったのです。
土曜日、タワマンのエントランスはホテルのようで、娘は思わず「すごい……」と声を漏らしました。元カノはその反応を待っていたかのように、「でしょ? ここが“普通”になると戻れないよ〜」と笑い、隣で彼氏も大きくうなずいています。部屋に通されると、天井まで届く大きな窓と、広々としたリビングが目に入りました。娘は素直に「きれい」と言いました。
しかし元カノは、そこでわざと私に聞こえる声で言います。「で、“10階建ての小さい一軒家”ってどこ?」「恥ずかしいよね〜。“マンションの一室”でしょ?」彼氏も「見栄は子どもに伝染しますから」と追い打ちをかけ、娘は頬を赤くして黙り込んでしまいました。なぜ元カノが娘にまでこんなことを言うのか――それは、私が彼女を振り、彼女のプライドを傷つけたからだと思います。
私は「娘は建物のことを家って言っただけだよ」と抑えた声で伝えましたが、元カノは「でもさ、言い間違いってレベルじゃなくない?」と笑い続けます。娘の表情が固まっていくのがわかり、私は立ち上がって「帰ろう」と娘の手を取りました。元カノは勝ち誇った顔で「はいはい、現実見せちゃってごめんね〜」と手を振りました。
「10階建ての小さい一軒家」の誤解が解け…
エレベーターを下り、広いエントランスを抜けようとしたとき、後ろから元カノたちも出てきました。元カノは最後にもう一度、軽く刺すような言葉を投げかけます。「ねえ、娘ちゃん。次に会うときまでに、ちゃんと言えるようになってね。“一軒家”じゃなくて“マンションの一室”。ね?」その口調が、娘の胸の奥をまたぎゅっと締め付けたのがわかりました。
その瞬間、娘は私の手を握ったまま、ただ確認するように言いました。「うちって、マンションの一室だよね。でも建物は10階まであるんだよね?」私は「うん、そうだよ」とだけ答えました。すると娘は、言い返すでもなく、本当に説明するような口調で続けたのです。「じゃあ、わたしが言ったの、変じゃなかったよね。10階建てなんだもん。パパのマンション」
その場の空気が一気に変わりました。元カノの笑顔が止まり、彼氏も「あ……」と声を漏らします。娘は相手の表情の変化に気づかないまま、家でいつも話していることをそのまま口にしました。「私たちのお部屋は小さいけど、ほかにもお部屋がいっぱいあって、みんな住んでるんだよね。パパが“たいせつにする”って言ってた」
元カノは「え、ちょっと待って」と口ごもり、彼氏は「いやでも、親から……とかでしょ?」と慌てて言葉をつなごうとします。けれど娘が首をかしげ、「もらったらダメなの? ほかにもパパのマンションがあるよ」と真顔で返すと、彼氏は言葉を失い、元カノも引きつった笑いを浮かべるしかありませんでした。さっきまでタワマンを武器に笑っていた2人が、娘の自然なひと言で黙り込む――その光景を見て、私はようやく胸のつかえがほどけていくのを感じました。
その後、元カノから連絡が…私の対応は
外に出ると、娘は何事もなかったかのように空を見上げ、「さっきのところ、きれいだったね。でも、うちのほうが落ち着く」と言いました。私はうなずき、「住む場所がすごいかどうかより、毎日仲良く笑って暮らせるほうが、ずっとすごいことなんだよ」とだけ伝えました。娘は少し考えてから「わかった」と笑い、私の手を強く握りました。
帰宅し、いつもの小さな部屋で夕食を作りながら、私は思いました。タワマンの夜景はたしかにきれいです。でも、それを盾にして人を見下す心は、どんな高層階にあっても貧しい。私たちは10階建てマンションの一室で、広くも豪華でもありませんが、娘が安心して眠れ、明日も笑える場所がある。それで十分です。
翌日、元カノから「昨日は言いすぎたかも……。今後はあなたのマンション、見に行きたいな〜」と短いメッセージが届きましたが、私は「気にしないで」とだけ返信し、それ以上のやり取りはやめました。これからも娘の気持ちを第一に考え、行動していきたいと思います。
◇ ◇ ◇
住んでいる場所や肩書き、持っているものは、つい人を比べる材料にされがちです。しかし大切なのは、住む場所の価値ではなく、そこでどんな生き方を積み重ねていくかなのかもしれませんね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。