廃業前日に訪れた美女
その日の夜、僕が店じまいの準備をしていると、店の前でオロオロしている外国人女性の姿が目に入りました。彼女はどうやら何かのトラブルで、困り果てている様子でした。
「Pleade help me...」と、か細い声で僕に助けを求めてきます。僕は英語が得意ではありませんでしたが、ジェスチャーとカタコトの英語を交えながら何とか事情を理解しました。
彼女は日本に移住したばかりで、生活に必要なものの買い出しに出たところ、どこかで財布を落としてしまい、お金もクレジットカードも失くしてしまったというのです。財布を探し歩くうちに道に迷い、スマホの充電も尽きてしまったそう。
「よかったら少し休んでいってください」と僕は店に招き入れました。どうせ明日で閉店する店です。最後くらい、困っている人の役に立ちたいと思ったのです。
心を込めて寿司でおもてなし
彼女は驚いた様子でしたが、「本当にいいんですか?」と何度も確認してから、カウンター席に座りました。僕はスマホの充電器を差し出し、彼女のスマホを充電するよう促しました。
そして充電を待つ間、店に残ったネタを使って、心を込めて寿司を握ることにしたのです。
一貫ずつ丁寧に握り、彼女の前に出していきました。彼女は一口食べるたびに、「So good!」と目を輝かせて喜んでくれます。その笑顔を見ていると、「ああ、やっぱり寿司屋をやってきてよかったな」としみじみ感じました。
食事とスマホの充電が終わると、彼女は何度も「ありがとう」とお礼を言い、「必ず恩返しします」と言って、僕の店の名前と場所をメモしていきました。僕は「気にしなくていいですよ」と笑顔で答え、彼女を見送ったのでした。

翌日、信じられない展開に
そして翌日、ランチの片付けをしていると、突然高級車が店の前に停まりました。そして降りてきたのは、昨夜の外国人女性と、スーツ姿の男性でした。
実は彼女、日本に進出したばかりの外資系企業の役員だったのです。昨夜の僕の親切に感動した彼女は、上司に僕の話をしたのだそうです。そして、「会社のパーティーやイベントで定期的に寿司のケータリングをお願いしたい」という正式な依頼を持ってきてくれたのでした。
しかも、条件は破格。月に数回の仕事で、これまでの店の売上を大きく上回る収入が見込めるというのです。僕は信じられない気持ちでしたが、彼女の真剣な眼差しを見て、「もう一度、寿司職人として頑張ってみよう」と決心しました。
廃業寸前だった僕の店は、こうして思いがけない形で再スタートを切ることになったのです。困っている人に手を差し伸べただけだったのに、まさかこんな展開が待っているとは……。人生、何が起こるかわからないものですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。