そもそも、なぜ外出先での「搾乳」が必要なの?
「赤ちゃんがそばにいないなら、搾乳しなくてもいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、搾乳はお母さんの体を守るための「大切なケア」なのです。
お母さんの体は、妊娠中から母乳を作り始め、産まれてくる赤ちゃんにあげる準備をしています。母乳は「出せば作られる、出さなければ抑えられる」という仕組みのため、数時間おきに搾乳をして体に伝え続けないと、母乳の作られる量は減ってしまいます。
また、もし搾乳をせずに我慢し続けると、おっぱいは岩のようにカチカチに張り、少し服が触れるだけでも激痛が走ります。さらに、溜まった母乳が原因で「乳腺炎」になり、40度近い高熱が出てしまうことも……。
そこで、搾乳が必要となるのです。
リトルベビーのママたちがぶつかる「心の壁」
「搾乳もできますステッカー」誕生のきっかけとなったのは、「リトルベビー」のママたちの声だったそう。 リトルベビーとは、2,500g未満で生まれた「低出生体重児」など、小さく生まれた赤ちゃんのことを指します。
リトルベビーたちは、生まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に入院することが多く、ママは赤ちゃんを病院に残して先に退院することになります。ママは毎日、病院のわが子に届けるための母乳を搾る必要がありますが、外出先で授乳室を使おうとすると、大きな心の壁にぶつかるのだと言います。
「赤ちゃんを連れていないのに、なぜここにいるの?」という周囲の視線。そして、赤ちゃん連れのママたちを見て「小さく産んでしまった」と自分を責める気持ち。こうした居心地の悪さから、多くのママたちが、不衛生な「トイレの個室」で、プレッシャーに震えながら搾乳をしてきたのだそうです。
これは、小さく生まれた赤ちゃんのために母乳を届けるママだけでなく、赤ちゃんを預けて働くママにとっても、切実な健康問題です。きれいで安心できる授乳室で、後ろめたい気持ちを持たずに搾乳がしたい——。そんな思いが、このステッカーを生み出したのでした。
「マタニティマーク」のデザイナーが手がけたかわいいデザイン
「搾乳もできますステッカー」のデザインは、おなじみの「マタニティマーク」をデザインした方が担当しました。

ステッカーを見たママたちからは、「かわいくて嬉しい気持ちになる」「これならポジティブな気持ちで授乳室を使える」という喜びの声が寄せられているとのこと。このステッカーによって、搾乳したいママの利用ハードルを避けるとともに、搾乳が必要なママがいる、という認知を広げようとしているのです。
誰もが安心できる授乳室へ
「搾乳もできますステッカー」は今、大きな広がりを見せています。国土交通省が「授乳室は搾乳もできる場所である」と方針を示したことで、高速道路のサービスエリアや全国の空港、自治体でも、このステッカーが貼られた授乳室が増えています。
こうした場所で、「一人でも安心して授乳室に入っていいんだよ」というメッセージが広まり始めました。
NPO法人 ひまわりの会は、誰もが安心して授乳室を利用できる世の中を目指しているとのこと。このステッカーが全国に広がり、すべてのお母さんが後ろめたさを感じることなく、ホッと一息つきながら育児に向き合えるようになることを願っています。
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今回の取材を通して、授乳室のあり方を改めて考えるきっかけになりました。大切なのは、授乳室が「母乳をあげる場」であると同時に、「母乳を準備する場(搾乳室)」でもあるという共通認識を持つことです。
このステッカーの普及は、お母さんの心理的な負担を減らすだけでなく、多様な育児の形を社会が正しく理解する第一歩となるのではないでしょうか。
「搾乳もできますステッカー」が全国の街中に広がり、すべてのお母さんが「ここで搾乳していいんだ」とホッと肩の力を抜ける——そんな子育てしやすい環境が当たり前になることを、心から願っています。