父の再婚で、“大学生の妹”ができたけれど…
ある日、父が照れくさそうに切り出しました。「実は、再婚することになったんだ」。相手は取引先の女性で、さらにその再婚相手には大学生の娘がいると言います。
まさかこの年になって妹ができるとは思ってもいませんでしたが、顔合わせの日、妹になるAちゃんはきちんと挨拶をしてくれました。再婚相手も穏やかな人で、「これから家族としてやっていこう」という前向きな雰囲気がありました。ですが……。
Aちゃんは父の前ではにこやかで、自分の母親とも仲が良い様子でした。ところが、私と2人きりになると、態度は一変します。継母も仕事で忙しいため、夕食は私が作ることが多かったのですが、「何時に食べる?」「好き嫌いはある?」と声をかけても、返事はありません。
そしてある日、Aちゃんははっきりと口にしました。「お母さんの再婚に反対じゃない。でも、あんたときょうだいになるのはイヤ」
妹「26歳で実家暮らしって…出てって!」
追い打ちをかけるように、Aちゃんは続けます。「26で実家暮らしって、いい加減自立したら? 社長の息子だから甘えてるんでしょ」
違う、と言いたかった。父が忙しいから家事を担ってきたことも、会社では目立たない仕事を黙々と回してきたことも。けれど、反論しようとした私をAちゃんは遮り、「とにかく、早く出ていって。邪魔!」と言い放ちました。
悩んだ末、私は家を出る決意をします。「いい年だし、俺もそろそろ自立するよ」。そう言うと、父は驚いた様子でしたが、私は荷物をまとめ、そのまま引っ越しました。
ひとり暮らしを機に、仕事も一転
ひとり暮らしは、想像以上に気楽でした。ただ一方で、会社ではいまだに“社長の息子”という色眼鏡で見られていることも痛感していました。そんな私を見て、上司が声をかけてくれたのです。「もしよかったら、私の知り合いの会社に来てみない?」
迷いはありましたが、面接を受け、ベンチャー企業へ転職しました。すると、驚くほど仕事がしやすく……。肩書きではなく、やったことをきちんと見て評価してくれる環境でした。任される仕事も増え、「ここで頑張りたい」と思える場所に出会えた、まさにその矢先――。
Aちゃんから、突然電話がかかってきたのです。
妹「早く戻ってきて!」…SOSの理由は
「今すぐ戻ってきて! お願い!」切羽詰まった声に、思わず耳を疑いました。「どうしたの?」と聞くと、「無理なの! 掃除は終わらないし、洗濯も夕飯も……こんなの無理、イヤ!」と泣きそうな声で訴えてきます。
さらにAちゃんは続けました。「お母さんと2人暮らしのときは、家が汚くても夜ごはんが外食でも問題なかった。でも……今は、これまであなたがやってきた家のことを、全部私にやれって言ってくるの!」
……なるほど、そういうことか。するとAちゃんは、「なんで教えてくれなかったの! 全部、あなたのせいだから!」と責めてきました。焦り切っている様子は伝わってきましたが、私は落ち着いてこう返しました。「Aちゃんに『出ていけ』って言われたから出ていった。家事ができるって言ったのは、Aちゃんだろ」
電話の向こうで、Aちゃんは黙り込みました。「悪いけど、戻れない。ここで俺が言う通りにしたら、何も変わらない。これはAちゃんが自分で向き合うべきことだ」そう伝えると、通話は終わりました。
父と継母の謝罪、そして私の決断
その後、私は父と継母に事情を伝えました。2人から連絡があり、「気づけなくてすまなかった」「私が甘く育ててしまったせいで……ごめんなさい」と謝られましたが、私はもう部外者です。これからは3人で家庭を回していくしかない――そう感じました。
軽いひと言で押し出した相手が、どれほど家を支えていたのか。身をもって知ることになり、私がこれまでやってきたことが、少しだけ認められた気がしました。
今はひとり暮らしにも慣れ、仕事もプライベートも順調です。恋人もできました。皮肉ですが、家を追い出されたことが、自分の人生を動かすきっかけになったのかもしれません。
◇ ◇ ◇
「家事なんて誰でもできる」「その仕事、たいしたことない」――そう決めつけた瞬間に、人は“見えない支え”を失います。誰かの頑張りが当たり前になっていたのなら、いなくなってから慌てる前に、きちんと目を向けたいもの。言葉には責任があることも、忘れずにいたいですね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。