留守にするため、ペットカメラを設置
夫は「お母さんが心配だな」と、私の母を気遣いました。父と母は仲が良かったからです。その後、お通夜と葬儀の日程を伝えると、夫は「葬儀の日は有給を取る。ただ、お通夜の日は外せない取引先との接待がある」と、申し訳なさそうに付け加えました。
急なことだし仕方がない。そう思い、私は「少しだけでも顔を出してくれたらいいよ」と答えました。その日は娘を幼稚園へ迎えに行き、必要な支度を整えてから実家へ向かいました。
夫は「俺のことは気にしなくていい」と言い、家の猫たちの世話だけを頼んできました。私は数日家を空けることになるため不安になり、実家にあったペットカメラを借りて自宅に設置してから、実家へ向かったのです。
葬儀の途中、夫の姿が突然見えなくなり…
葬儀当日の朝、夫から連絡がありました。「今起きたところ。これから用意して葬儀場に向かう」。慣れない空気に娘は退屈しており、私は手続きや段取りで手いっぱい。夫が来てくれるだけでどれほど助かるかと思いながら、「喪服は用意してあるからね。娘の絵本も持ってきて」とお願いしました。
葬儀が終わり、火葬場へ移動する時間になったとき、ふと夫の姿が見えないことに気づきました。さっきまでいたと思うのですが……。慌てて電話をかけると、ようやくつながった夫は、寝ぼけた声で「ごめん、もうこんな時間? すぐ戻るよ」と言いました。
「急にいなくなって、何を考えているの?」と怒りがこみ上げる私に、夫は「家で寝ちゃってた」と平然と答えました。理由はこうでした。朝急いでいたため猫にエサをあげ忘れ、エサをやるために家へ戻った。ソファで少し休憩したら、そのまま寝てしまった――というのです。
あまりにも都合のいい話に、私は思わず「それ、今思いついた言い訳でしょ」と返しました。夫は「言い訳じゃない」と食い下がります。ただ、「家に帰った」という一点だけが、妙に引っかかりました。
娘のひと言に凍りつく…ペットカメラには
葬儀会場では親族が集まり、慌ただしい中でも、娘の気を紛らわせようと大人たちが交代で相手をしてくれていました。そんなとき、私のスマホを触っていた娘が、ふと画面を指して言ったのです。「ねえ、パパが映ってる」。
その瞬間、空気が凍りつきました。ペットカメラの映像です。家の様子を確認するために設置していたはずのカメラに、たしかに夫が映っていました。――しかも、ひとりではありません。隣にいたのは、私の姉でした。
「……何してるの?」私は声が出ないまま、ペットカメラの通話機能を使って夫に問いかけました。夫は「え? 何?」と混乱し、「こんなカメラ、なかっただろ」と言います。私は淡々と告げました。「葬儀で数日家を空けるから、猫たちが心配で設置したの。バタバタしていて言い忘れていただけ」
親族は映像を見て言葉を失い、私は必死で娘から画面を遠ざけました。頭の中は真っ白でした。父を見送るその日に、夫は私の姉と――。そう思うだけで吐き気がしました。夫は動揺し、「嘘だろ」と繰り返しました。しかし、映像は残っており、見た人間も私ひとりではありません。
父を静かに送りたいのに…想いは踏みにじられて
私は夫に告げました。「今から来なくていい。親族みんなが見ているのに、どんな顔をして来るつもり?」。夫は「でも行くよ。お父さんには世話になったし」と言いましたが、私は首を振りました。「もう遅い」。
震える手で、私は続けました。「私は娘とこのまま実家に帰る。もう家には戻らない」。夫は「待ってくれ、話し合おう」と泣きつきましたが、私の答えは変わりませんでした。「話し合うことなんてない。これ以上、連絡してこないで」。
その夜は、娘と猫たちを連れて実家で過ごしました。もう、あの家に置いておきたくなかったのです。
「たった一度の過ち」…夫の言い訳は崩れていき
後日、夫は何度も連絡してきました。「たった一度の過ちなんだ。姉に誘われて、断れなかった」。しかし、その言い訳はすぐに崩れました。
私は姉とも話をしました。姉は親族に問い詰められ、これまでの関係を認めたのです。「1年以上続いていた」「家でも外でも会っていた」。どうやら、隙さえあれば2人で会っていたようで……。父の葬儀という場でさえ、その衝動を抑えられなかったようです。夫は最後まで「最初は無理やりで」「ばらすと脅されていた」と取りつくろいましたが、積み重なった嘘は、もう私の中で“言葉”として成立しませんでした。
私が改めて「離婚してください」と伝えると、夫は「家族だろ」「娘から父親を奪うことになる」と食い下がりました。私は直接話す気持ちになれず、その後は弁護士を通して手続きを進め、離婚が成立。夫と姉に慰謝料を請求しました。さらに姉は既婚者だったため、姉の家庭も崩れました。親族の前で起きたことだったため、隠し通すことはできなかったのです。
夫は「反省している」「やり直したい」と泣いていましたが……守るべきは、父を失った母と、これからを生きる娘、そして私自身の生活です。これからは3人で力を合わせ、生きていこうと思っています。
◇ ◇ ◇
最後のお別れという大切な時間を、最も信じていたはずの相手に踏みにじられたショックは計り知れません。泣いて後悔することになるなら、「守るべきもの」を見失わない選択をしていきたいですね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。