最近配属された新人秘書の女性が、私たちの関係をかぎつけたようなのです。
彼女は容姿端麗で、自分でもそれを強く自認しているタイプ。前の職場では人間関係のトラブルがあったと聞いており、少し心配していたのですが、その予感は的中しました。上昇志向が強く、あろうことか社長のパートナーの座を狙っていたのです。
ある日、退社後に私と社長が一緒にいるところを目撃した彼女は、翌朝、私のデスクに来るなり声を荒らげました。
「昨日の夜、社長と2人で食事してましたよね? プライベートですよね? どういう関係なの? どうしてあなたが社長と一緒にいたんですか!? 私のほうが若くてきれいだし、社長の隣に相応しいはずです!」
彼女は私が社長に相応しくないと一方的に決めつけ、激しい言葉を投げつけてきました。私は冷静に諭そうとしましたが、彼女の耳には届かず……。
若くてきれいな新人秘書
それからしばらくして、私と社長は婚約を機に関係を公表することにしました。すると、彼女の怒りは頂点に達したようで、再び私のもとへ怒鳴り込んできたのです。
「ババァのくせに社長夫人?」
「美人秘書の私のほうが相応しいでしょ!」
上司である私に対する言葉としても、社会人としても耳を疑う発言。私は彼女の暴走を止めるため、いったん譲り、条件を出すことに……。
「じゃあ、やってみる?」
「え? いいの?!」
私があまりにもあっさりと彼女の要求を受け入れたため、あぜんとした様子でした。
そんな彼女に私は「そこまで言うならまず、秘書としての仕事を完璧にこなしてみて? 社長のパートナーに相応しいのは、公私ともに彼を支えることができる人だと思わない? あなたが秘書として完璧なら私は身を引くわね」と告げたのです。
私は以前から彼女の仕事の仕方に疑問を感じていました。自分の仕事が終わっていないのに早退したり、他の秘書に仕事をカバーしてもらってもお礼を言わなかったり……。
彼女には、社長夫人としての覚悟を問うような言葉をかけましたが、実際には秘書課の室長として彼女の教育をすることが目的でした。彼女は「私が本気を出せばそんなの楽勝よ」と自信満々でした。
秘書の仕事なんて楽勝?
意気揚々と業務を始めた彼女でしたが、現実はそう甘くありません。長年の経験が必要な秘書業務は、若くてきれいというだけでは務まらないのです。早退するなどのサボる時間はなくなりましたが、3日もたたず、スケジュールの調整ミスや来客対応の不手際が続き、周囲の社員からも苦情が相次いでしまいました。
もちろん、無理な量の業務を振ったわけではありませんでしたが、それでも彼女は満足にこなせていませんでした。しかし彼女は「周りが悪い」「私にはもっと華やかな仕事が向いている」と言い訳ばかりで、改善しようとはしなかったのです。
そんな中、彼女が「終わりました〜」と報告してきた案件の処理状況を私が確認していると、明らかに手を抜いている点が見つかりました。取引先へ送付する書類の記載が、テンプレートのまま、宛名もすべて一緒になっていたのです。
胸騒ぎがして、彼女が使っているデスク横の共有キャビネットを確認すると、奥から処理しきれず諦めたのか、すぐに対応すべきだった未処理の書類が複数枚出てきました。私と他の秘書たちですぐに対応したため問題は起きませんでしたが、気づくのが遅れたら、通常業務に支障をきたしていたことでしょう……。
彼女は自分の業務をこなせていなかったにも関わらず、わからないことは質問せず、未処理のまま放置。その上、業務へ取り組む姿勢も中途半端。秘書として、いや社会人として致命的です。
社長夫人の座を狙った彼女の末路
その後も彼女のミスは続き、次第に勤務態度も元に戻っていきました。ランチに出かけて2時間帰ってこない、無断欠勤などが増え、注意や指導を重ねましたが改善せず……。最終的には、面談の末に本人が退職を申し出てきたのです。
退職日、私物をまとめた彼女は「美人な私は人に尽くす仕事より、尽くされる仕事のほうが向いてるのよ! 秘書なんてただの雑用じゃん! ちまちま頑張って!」と捨て台詞を吐いて去っていきました。
結果、秘書課は平穏を取り戻し、業務は通常運転に。和やかになった課内では「尽くされる仕事って何?」「そんな仕事ある?」としばらくの間、彼女の次の仕事の話で盛り上がりました。プライベートでは、私は無事に社長と入籍し、先日結婚式を挙げました。今は頼りになる秘書課のメンバーと、やさしいパートナーに支えられ、幸せな毎日を過ごしています。
◇ ◇ ◇
目標に向かって努力することは大切ですが、安易な近道や他人を利用する方法を選んでも、決していい結果にはつながりませんよね。日々の誠実な積み重ねこそが、信頼と幸せを築く唯一の道なのではないでしょうか。仕事にも、それ以外にも自分の力で正面から向き合い、周囲と協力しながら乗り越えていきたいですね。
【取材時期:2026年2月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。