圧倒的な設備と、違和感
「うちの工場を見学に来ないか? そっちじゃ見られない設備を見せてやるよ」
B山はどこか見下すような口調でしたが、勉強になるならと考え、A子さんとともに見学へ向かいました。D社の工場には、最新のAI制御機器や大型設備が整然と並んでいました。設備規模では、たしかに当社よりもはるかに上です。
B山は誇らしげに説明しながら、「これからは人より機械の時代だ。効率がすべてだよ」と言いました。合理性を追求する姿勢自体は理解できます。しかし、現場の職人に対する言葉や態度には、どこか冷たさがありました。私はそのとき、設備の差よりも「空気の違い」のほうが強く印象に残ったのです。
見学後、休憩スペースで何人かの職人さんと話す機会がありました。皆さん高度な技術を持ち、誇りをもって仕事をしている方ばかりです。ただ、現場では生産性重視の方針が強まり、熟練の感覚を生かしきれない場面も増えているとのことでした。
私は軽い気持ちで「もし環境を変えたいときがあれば、ぜひ声をかけてください」と言いました。
引き抜きを意図したわけではありません。ただ、「人を大切にする会社」でありたいという思いが、自然と口をついて出た言葉でした。
人の力が生んだ変化
それからしばらくして、数名の職人さんがC社へ応募してきました。転職はあくまでご本人の判断です。私たちは通常の採用手続きを経て迎え入れました。
彼らの技術が加わったことで、製品の完成度は明らかに向上しました。AI設備では再現できない微妙な手触りや曲線の美しさが評価され、少しずつ受注も増えていきました。
私たちは設備投資も進めながら、「人と機械の両立」を目指しました。さらに、残業時間の見直しや作業工程の改善にも取り組み、働きやすい環境づくりを進めました。
結果として、社内の雰囲気は安定し、売上も着実に伸びていったのです。
3年後の再会
3年後、業界再編の流れの中で、C社はD社と資本提携を結ぶことになりました。私は経営戦略部門の責任者として、A子さんとともにD社を訪れました。
かつて設備を誇らしげに案内してくれたB山は、以前とは違う表情をしていました。市場環境の変化や内部体制の課題など、さまざまな要因が重なり、D社は単独での経営継続が難しい状況にあったのです。
提携後も、D社の従業員の雇用は守られることが決まりました。設備と熟練技術を融合させ、新たなブランドとして再出発する方針です。
あの日、見下されたことを思い出しながらも、私は淡々と業務説明をおこないました。感情ではなく、実績で立場が変わったのだと実感した瞬間でした。
まとめ
大きな設備や資本力は、たしかに強みです。しかし、それだけではものづくりは完成しません。今も私は工場と経営の両面を見ながら、学び続けています。人を尊重する組織こそが、長く続くのだと信じて。これからも、胸を張って誇れる家具づくりを続けていきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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