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【医師監修】「予定帝王切開」って何? 手術から退院までの流れを解説

この記事では予定帝王切開について、医師監修のもと解説します。経腟分娩も帝王切開もリスクがあり、喜びと不安が入り混じる出産に変わりありません。わからないこと、不安なことなどは担当医や助産師へ質問し、手術前後の流れや、麻酔、痛みのコントロールなど事前に知っておくと安心して出産の日を待つことができるでしょう。

この記事の監修者
監修者プロファイル

医師太田 篤之 先生
産婦人科 | おおたレディースクリニック院長

順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
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帝王切開のイメージ

 

妊娠週数が進んで帝王切開で出産する可能性がでてきた妊婦さんのために、今回は予定帝王切開についてお話しします。

 

予定帝王切開とは?

帝王切開は、母体の腹部を切開しておなかの中の赤ちゃんを出産する手術で、あらかじめ日時を決めておこなう場合を予定帝王切開といいます。妊娠経過中や経腟分娩の進行中に母子の状態が悪くなり、いち早く赤ちゃんを出産する必要があると判断されたときに緊急でおこなわれる場合は、緊急帝王切開といいます。

 

予定帝王切開になるのはどのようなケース?

経腟分娩よりも帝王切開で出産するほうがお母さんや赤ちゃんへの負担が少なく、母体が手術に耐えられる状態であることを前提に、帝王切開はおこなわれます。

 

医療現場では、治療や検査、手術をおこなうための理由を「適応」と表現します。帝王切開の適応には、大きく分けて母体適応と胎児適応がありますが、状態によっては母体適応と胎児適応の両方があって帝王切開をおこなうケースもあります。医学的な適応がなく帝王切開をおこなうと、母体や新生児の合併症が増加することや、将来的に子宮破裂や癒着胎盤などのリスクが増加することがわかっています。そのため、母親にもおなかの赤ちゃんにも問題がない場合、経腟分娩(陣痛)の痛みを避けたいからという理由で帝王切開がおこなわれることはありません。

 

予定帝王切開の適応は以下の通りです。

 

【母親側の適応】
・帝王切開の経験がある
・子宮手術後
・児頭骨盤不均衡(母親の骨盤に対しておなかの中の赤ちゃんの頭が大きい状態)
・前置胎盤(子宮口に胎盤がかかり、ふさがれている状態)
・心疾患、腎疾患、高血圧などの内科的合併症
・HIV、性器ヘルペスなど、経腟分娩によって赤ちゃんに感染するリスクが高い感染症
・子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮奇形などにより、経腟分娩が難しいと判断された場合

など

 

【赤ちゃん側の適応】
・胎位異常(骨盤位、横位など、おなかの中の赤ちゃんの頭が下になっていない状態)
・双子や三つ子などの多胎妊娠
・おなかの中の赤ちゃんの体重が4,000g(巨大児)以上と予測される場合
・水頭症、髄膜瘤や臍帯ヘルニアなどおなかの中の赤ちゃんに異常があり、経腟分娩が難しいと判断された場合
・前置血管(へその緒が胎盤ではなく赤ちゃんを包んでいる膜に付着し、血管が子宮口に面している状態)

 

予定帝王切開の日程を決定するのはいつ?

妊娠後期(妊娠28週以降)に入ったら、母体の状態と赤ちゃんに起こる合併症を考慮して手術する日程を決めます。手術日が決定した後、手術前に必要な説明や検査などの準備をしていきます。

 

帝王切開をおこなう週数が早いほど、赤ちゃんの呼吸障害や低血糖などの合併症が起こりやすいため、分娩予定日近くに帝王切開をおこなうことが望ましいですが、手術予定日前に陣痛が始まったり、破水したりする可能性はゼロではありません。そのため、それまでの妊娠経過や前回の出産経験などを参考に、担当医による総合的な判断で手術予定日を決定します。

 

予定帝王切開に向けて事前におこなう検査や準備は?

手術予定日が決定したら、医師が文書を用いて帝王切開の適応や手術の流れ、麻酔方法、帝王切開に伴う合併症の可能性、静脈血栓塞栓症の予防の必要性、輸血の可能性や合併症などについて説明をします。施設ごとに文書は異なりますが、手術同意書、麻酔同意書、輸血同意書などがあります。これらの書類は、説明を聞いた後に妊婦さんとその家族の署名が必要となる大切な文書でもあります。このような説明は、妊婦健診で外来を受診したときにおこなわれますが、麻酔の説明は麻酔科医によって入院後におこなわれる場合もあります。説明を聞いて、わからないことがあれば医師や助産師へ質問し、同意書の内容をきちんと理解し、納得したうえで同意書に署名しましょう。

 

帝王切開を安全におこなうために事前に検査が必要です。妊婦健診の際に、感染症や血液検査、尿検査などはおこなっているので、それらの結果も参考にしながら下記のような検査をおこないます。

 

・血液検査:手術中の出血に対する準備や麻酔方法の決定のために採血をする
・胸部X線検査:肺の状態や心臓の大きさをチェックする
・心電図:手術中の出血や麻酔によって循環動態が変化しやすいため、事前にチェックする
・下肢静脈エコー:肥満など下肢静脈血栓が生じる危険性が高い場合にチェックする

 

また、手術中の大量出血に対する準備として、事前に自分の血液を採取して保存する自己血貯血をすることがあります。自己血貯血は、採血しておいた自分の血液を必要時に輸血するというものです。子宮筋腫や前置胎盤など大量出血が予想される場合は、自己血貯血について医師から提案されることもあります。

 

予定帝王切開 入院から退院までの流れは?

予定帝王切開の場合、手術前日に入院することが一般的です。予定帝王切開の前日から退院までの流れの一例を紹介します。

 

【予定帝王切開前日】
・入院・入院手続きなど
・同意書など必要書類の確認
・入院から退院までのスケジュールの説明
・予定帝王切開に必要な物品の確認(術後の寝巻き、外科用の腹帯・着圧ソックスなど)
・バイタルサインズ(体温・脈拍・血圧など)の測定
・胎児心拍モニタリング
・胎児超音波
・前日より飲食不可

 

【予定帝王切開当日・手術前】
・バイタルサインズ(体温・脈拍・血圧など)の測定
・胎児心拍モニタリング
・手術着に着替え、着圧ソックスを履く
・点滴
・手術予定時間が近づいたら手術室へ

 

【予定帝王切開当日・手術中】
・名前、同意書等の確認
・手術台に移動し、手術着を脱ぐ
・心電図モニターなどのモニター類を装着
・麻酔:帝王切開のときに使用する麻酔は、赤ちゃんへの影響が少ない脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔)または硬膜外麻酔、あるいはそれらを併用しておこなうことが多いです。そのためお母さんの意識がある状態で手術がおこなわれます
・膀胱留置カテーテル挿入
・おなかの消毒
・執刀:執刀開始後数分で赤ちゃんが誕生します。誕生の少し前にはおなかを押されるような感覚がします。生まれた赤ちゃんはすぐに助産師によって出生後の処置がおこなわれます
・胎盤が出る
・子宮、おなかの縫合

 

【予定帝王切開当日・手術後】
・ベッド上で安静(飲食不可)
・適時的にバイタルサインズ、出血量・全身状態のチェックがおこなわれます

 

【予定帝王切開後】
・手術の翌日、膀胱留置カテーテル・モニター類などを外し、歩行開始
・食事開始。同時に子宮収縮剤の内服開始
・お母さんの状態に合わせて、赤ちゃんのお世話開始(授乳指導や沐浴指導などが入院中に予定されている施設が多いです)

手術の経過が順調であれば術後6〜7日ほどで退院となりますが、入院期間は施設によって異なります。

 

予定帝王切開で出産すると決まったら確認すること

施設によっては、帝王切開を受ける妊婦さんのために、経腟分娩で出産する妊婦さんとは別に母親学級や両親学級、個別相談をおこなうところもあります。入院から産後の生活の流れや手術後の痛みのコントロール、産後の授乳について予習できるのでぜひ利用しましょう。

 

下記のようなことを、事前に確認しておくと安心かもしれません。


・手術で使用する麻酔方法、切開したおなかの傷のケア、術後の痛みについて
・帝王切開を受けた母体に起こる心身の変化
・手術中や手術後に受けられるケア(例:夫や家族の面会、赤ちゃんとの対面など)
・帝王切開後の授乳や母子同室について
・もし赤ちゃんがNICUに入院した場合に母親と赤ちゃんが受けられるケアについて
・手術予定日より前におなかが張ったり異常が起きたりしたときの対応について

 

また、病院の緊急連絡先や病院までの移動に利用するタクシー会社の連絡先を、妊婦さんだけでなく家族にもわかるように確認しておきましょう。

 

まとめ

経腟分娩で赤ちゃんを産みたいと思っている妊婦さんが多いかと思います。その一方で妊娠の経過中に帝王切開となり、複雑な心境となる妊婦さんも少なくありません。しかし、経腟分娩も帝王切開もリスクがあり、喜びと不安が入り混じる出産に変わりありません。わからないこと、不安なことなどは担当医や助産師へ質問し、手術前後の流れや、麻酔、痛みのコントロールなど事前に知っておくと安心して出産の日を待つことができるでしょう。

 

■参考文献
産婦人科診療ガイドライン産科編2017 

ACOG committee opinion no. 761: Cesarean delivery on maternal request.Obstet Gynecol. 2019 Jan;133(1):e73-e77.

 

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    著者プロファイル

    助産師古谷真紀

    一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー。大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。

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