ある日、私は意を決して放浪中の義父に連絡を入れました。「お義母さんが心配しています。そろそろ帰ってきてください」と。しかし、返ってきたのは「よそ者が口を出すな」という罵倒でした。
義父は、自分が家を空けている間に屋根が壊れ、雨漏りがしていることさえ知りませんでした。それどころか、「住まわせてやっているんだから、修理代はお前たちが出せ」と豪語する始末。
私が「私たちは子どもが欲しいので、この家を出るつもりです」と伝えると、義父は激怒しました。「母親を捨てるのか」「忍耐力がない」と私を責め立てましたが、義母を放置して好き勝手する義父に言われたくはありません。
義父をこのままにしていて良いものか、私の中でモヤモヤが膨らんでいました。
義母の訃報
1カ月、私は再び義父に連絡をしました。もちろんこの1カ月、義父は1日も帰ってきていません。
「お義母さんが亡くなりました……。最期にお別れをして、喪主を務めてくれませんか?」この言葉に、それまで余裕をぶっていた義父は豹変しました。
翌日、血相を変えて数カ月ぶりに帰宅した義父は、誰もいない家を見て、私に連絡をしてきました。
私が「用事があって出かけています」と返信すると、義父の怒りは頂点に。「義母の葬儀より自分の用事が優先か! 夫の実家をなんだと思っているんだ! お前のような気の利かない嫁は、今すぐこの家から出ていけ!」と荒々しいメッセージが次々と届きました。
そのメッセージを見たあと、家に帰宅した私は、「言われた通り消えますね。お義父さんと縁を切ることに、お義母さんも賛成していますから」と返事しました。
「何を言ってるんだ、母さんはもういないだろ!」
「……死んだなんて嘘ですよ。そうでもしないとお義父さん、一生帰ってこないでしょう? お義母さんはピンピンしています。ふたりで話し合って、こうするしかないと決めたんです」
義母の反撃
顔を真っ赤にして「縁起でもない!」と怒鳴り散らす義父。しかし、彼の怒声はすぐに止まることになります。呆然と立ち尽くす義父の前に、私と一緒に家に帰ってきた義母が差し出したのは、署名・捺印済みの「離婚届」でした。
気が弱かったはずの義母は、これまでの数十年の恨みをすべてぶつけました。
「あなたまた逃げるでしょ? だから協力してもらったの」「あなたは妻である私を一度も大切にしなかった。だから今、はっきり言わせてもらうわ」
そこからの義母の言葉は、これまでのうっぷんをすべて晴らすような苛烈なものでした。義父を「卑怯者のクズ」と切り捨て、二度と戻ってくるなと言い放つ義母。義父は「一度話し合おう」と泣きつきましたが、もう取り返しはつきません。
家族という安全地帯は、もうどこにも残っていなかったのです。
未練がましい義父
後日、義父から義母のLINEにメッセージが届きました。これまで義母が何度連絡をしても返信してこなかったのに、今になっていわゆる、捨てられた男性が送りがちな「未練がましい連絡」をしてきたのです。
義母の代わりに返信した私に、義父はなりふり構わずすがり付いてきました。「放浪はやめる」「一緒に住まわせてくれ」と、あれほど見下していた嫁にさえ、懇願してきたのです。
「お断りです。お義父さんが『俺の家』と自慢していた実家で、おひとりで暮らしてください。私たちは、お義母さんと一緒に新居で暮らしますから」
雨漏りし、床が抜けそうな古い実家。貯金もなく、家事ひとつできない義父がひとりでそこで生きていくことがどれほど困難か、想像するまでもありません。かつて「嫁は男に従え」と威張っていた男の、あまりにも惨めな瞬間でした。
ひとりになった義父は…
その後、義父母は正式に離婚。義母は私たち夫婦と二世帯住宅で暮らし始めました。何十年もの重荷から解放された義母は、驚くほど表情が明るくなり、今では穏やかな毎日を過ごしています。
一方で、絶縁した義父の噂を耳にしました。ひとりになった義父は生活が立ち行かなくなり、家を手放したそうです。今はかつての教養もプライドも見る影もなく、行き場を失って途方に暮れているのだとか。
大切な家族と向き合うことを拒み、自分の自由だけを優先し続けた代償は、あまりにも大きなものでした。
◇ ◇ ◇
家族だからといって、甘えてばかりではいられませんよね。一番身近な存在だからこそ、相手が何をしてくれているのか、どんな気持ちでいるのかを「知ろうとする努力」が、何よりも大切なんだと感じます。
「ありがとう」のひと言や、相手の顔を見て話す時間。そんな当たり前の行動を積み重ねることが、本当の意味での「家族」を作っていくのではないでしょうか。
失ってから後悔するのではなく、今隣にいてくれる人を大切にする。今回の出来事を通じて、相手を思いやるというシンプルで一番大事なことを、改めて心に刻みたいと思いました。
【取材時期:2026年2月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。