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「辞める」でも「無理を重ねてでも続ける」でもない —— 社会を変える第三の働き方とは【吉田はるみ氏インタビューvol.3】

「女性の活躍」と聞くと、キャリアアップや管理職登用を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし現実にはそれらとはほど遠く、出産や子育て期に働き方を制限され、働き続けることを諦めざるを得ない女性が少なくありません。

働き続けられるかどうかは、家庭の状況や勤めている会社などによって大きく左右されてしまいます。それは収入やキャリアの継続、老後の安心、そして家庭や社会全体の安定にも大きく関わる問題です。

子育てと仕事を両立し、「辞める」か「無理を重ねてでも続ける」か以外の選択肢を持ち続けられる社会をどう実現するのか。現場の声を聞きながら、制度づくりにも関わってきた前衆議院議員の吉田はるみ氏に、今の日本に何がたりていないのか、そして変えていくためのヒントについてうかがいました。

子育てと仕事の両立が、今も難しい理由

――「女性の社会での活躍」が進んでいると言われる一方で、子育て期に働き続けることの難しさも残っています。現状をどのように見ていますか?

 

吉田はるみ(以下吉田):現状では、子育て期に女性が働き続けることがとても難しい社会だと感じています。


理由は明確で、子どもの体調不良や行事への対応など、日常的に発生する「調整」を前提にした働き方を受け入れる空気や制度がまだないからです。その結果、収入やキャリアが途切れ、老後の不安にもつながります。

 

男性の育休(育児休業)取得は少しずつ進み、今やその取得率は4割にまで上がってきています。ただ、それだけではたりません。シングルペアレントの支援もたりません。

 

女性は育休の期間が終わると、朝から子どもの準備をして、仕事に向かい、帰宅後は家事や残った仕事に追われるでしょう。さまざまな制度があっても、いまだ子育ての現場は“綱渡り”のような状態が続いている、という声が多く挙がっています。

 

今後の収入やキャリアのために正社員を続けたいと思っていても、現実的ではないのが現状です。

吉田はるみ

 

――吉田さんご自身は、子育てと仕事をどう両立されてきましたか?

 

吉田:私自身、ファミリーサポートには本当に助けられてきました。子育てと仕事を両立するには、「誰かの手を借りる」ことが前提になります。


日本では、「自分でやるべき」「頼るのは申し訳ない」という空気がまだ強いですよね。でもヨーロッパでは、家事や育児に第三者のサポートを使うことは、ごく当たり前のことです。

 

ただし、日本でもその前提を成り立たせるには条件があります。外部のサポートを使えるだけの賃金の保証と、それを当たり前として認める社会の仕組みです。女性の賃金が低いままだと、そもそも外部の手を借りる余裕が生まれません。

 

「周囲に頼っていいよ」と言うだけでは不十分で、頼れる制度とそれを使えるだけの賃金がセットでなければ意味がないと思っています。
 

ママになると正社員でいられない現実

――子育てをしながら働き続ける場合、どのような働き方の選択肢や制度が必要だとお考えですか?

 

吉田:今、多くの女性が、パートやアルバイトという働き方を選んでいます。それも、自由な選択というより、正社員のままでは子育てと両立できない構造の中で、現実的な選択肢だからという理由で。

 

日本では、非正規雇用の約6割が女性です。その結果、正社員との賃金格差が広がり、年金や社会保障にも大きな差が生まれてしまいます。これは個人の選択の問題ではなく、制度の問題です。

 

だから私は、「辞めずに働き続けられる選択肢」を増やすことが必要だと考えています。たとえば週5日・8時間働くことだけが正社員ではなく、もっと短い時間でも正社員として働き、社会保障を受けながらキャリアを続けられる「短時間正社員」。そうした選択肢があれば、子育てが大変な時期でも「辞める」「諦める」以外の道が見えてきます。

 

――短時間正社員は、子育て期の働き方をアップデートする選択肢だと思います。キャリアを途切れさせないことで管理職への道が閉ざされないと感じる人もいるでしょう。この点について、どうお考えですか?

 

吉田:短時間正社員は「辞めずに働き続けるための選択肢」ですが、それに加えて、続けた先に賃金や裁量がどう広がっていくのかが見えなければ、将来の不安は解消されません。賃金を上げていくためには、やはり管理職に就くという選択肢が欠かせないですよね。

 

本来、管理職になることには、仕事の裁量が増え、自分で時間や業務をコントロールしやすくなるというメリットがあります。給与が上がり、仕事そのものが楽しくなる側面もあるはずなんです。

 

―― 一方で、日本では管理職に対してネガティブなイメージも根強いように感じます。この点については、どのような課題があると考えていますか?

 

吉田:今の日本では、「管理職になっても給料は上がらず、責任だけが増える」というイメージが強く、民間企業でも管理職を希望する人が少なくなっています。

 

だからこそ私は、管理職のポジティブな側面を、もっときちんと発信していく必要があると感じています。

 

また、女性管理職を増やすと言っても、単に「30%」(2030年までに社会のあらゆる分野の「指導的地位」に占める女性の割合を30%程度にするという日本政府が決めた目標)といった数字を掲げるだけでは意味がありません。

 

社外から女性を一部登用するだけでなく、中間管理職から経営層まできちんと女性が意思決定に関われているか。その中身を見なければ、本当の意味で賃金アップや働き方の改善にはつながらないと思っています。


吉田はるみ

 

賃金が上がらない以前に、「見えていない」問題がある

――女性の賃金を上げていくためには、制度だけでなく、企業側の実態も重要だと感じます。この点については、どのような課題がありますか?

 

吉田:実は「賃金を上げる・上げない」という議論の前に、同じ仕事をしていても、性別や雇用形態によって賃金や評価に差が出ていないかが十分に把握されていないという問題があります。

 

私は、公認会計士の方々と一緒に、企業の賃金構造について学ぶ勉強会を続けています。数字を一つひとつ見ていくと、働く人に適切なお金が回っていないケースが、決して少なくないことがわかってきました。

 

賃金の実態が「見える化」されると、企業も説明責任を避けられなくなります。だからこそ、適切な給与が支払われているかを調査・確認できる仕組みをつくることが重要だと考えています。

 

――こうした賃金や働き方の問題が、なかなか制度として進まないのは、なぜだと思いますか?

 

吉田:本来は法整備が必要でありながら、議題にすら上がらない問題が多くあります。その背景にあるのが、子育てや働き方の調整を日常的に経験してきた当事者である女性が、意思決定の場に少ないという現実です。

 

日本の衆議院に占める女性の割合は約15%にとどまっています。子育てや家事、働き方の課題を「自分ごと」として経験していなければ、どうしても優先順位は下がってしまう。だからこそ、女性が意思決定の場にいること自体が重要なのだと思います。

 

制度さえ整えば、スキルや能力を発揮できるかどうかに男女の差はありません。今、生まれている差は、能力の違いではなく、働き続けられる制度や環境がまだ十分に用意されていないことの結果なのです。
 

吉田はるみ

吉田はるみさんとベビーカレンダー編集長・二階堂美和

 

♢♢♢♢♢♢

「正社員として踏ん張るか、それとも仕事を諦めるか」。これまで多くの女性たちが、この極端な二択に追い込まれてきたのではないでしょうか。吉田さんのお話から見えてきたのは、この問題が「個人の努力」ではなく、制度と構造の問題だという事実でした。

 

短時間正社員という働き方が必要だと語られたのも、もっと柔軟で、現実に合った仕組みが求められているという提言です。

 

また、外部サポートを使えるかどうかも、気持ちの問題ではなく、賃金や社会制度の設計に左右されるでしょう。「頼っていいよ」と言うだけではなく、実際に頼れる条件を整えることが不可欠なのだと改めて感じました。

 

そして何より、こうした課題がなかなか前に進まない背景には、子育てや働き方の調整を“自分ごと”として経験してきた人が、意思決定の場に少ない現実があります。

 

「辞める」か「歯を食いしばる」か。その二択しかない社会のままで良いのでしょうか。

今、求められているのは、誰かが無理をし続けることで成り立つ社会ではなく、状況に応じて働き方を選び直せる社会へのアップデートです。

 

私たちメディアも、その変化を後押しできる存在でありたい。そんな願いを込めて、これからも発信を続けていきます。
 

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